シノエリの美術巡礼中 – 6 - 境界を往来する思考 〜第4回 shiseido art egg岡本純一展より〜

(2010.02.15)

岡本純一は彫刻家である。そして今回、彼が彫刻するのは「空間」だ。

資生堂アートギャラリーへと続く階段を降りながら、ふとギャラリー内を見降ろすと「?」が浮かんだ。よく分からないけれど、不思議な壁が聳え立っているのが見えたのだ。

ギャラリーに到達すると薄暗い中にぼんやりと光が見えた。巨大な壁があり、その壁には障子で仕切られた窓や戸が開いている。障子によって濾過された光が、暗い室内に柔らかな静寂のリズムをもたらしていた。ここは暗くて空っぽで、しんとしている。

壁の向こうへ回ってみた。すると、2枚の壁が鋭角に交わりⅤ字を形成していることが分かる。このⅤ字によって、ギャラリーという1つの空間が2つに分かたれているのだ。「空間を彫刻する」という岡本のコンセプトに従えば、こちら側の暗い空間は鋭く抉り取られているということになる。障子の向こうは明るいようだ。私は障子に手を伸ばし、がらりと一気に開いた。

白く、明るい空間である。受付があって、ポートフォリオなどが並べられた机もある。なるほど、最初に階段から見えたのはこちら側の空間だったのだ。この空間は、上から見ると長方形の一角に鋭い三角形をくっつけた形になっている。

この作品のタイトルは『市中の山虚』。これは「市中の山居」という茶の湯の言葉をもじったもの。街中に草庵風の茶室を設け、異質な空間を味わうことを指すのだそうだ。

岡本純一「ソフィーの森出口」2009撮影加藤健

鑑賞者は、暗くて抉られた大きな空間と、明るくて突き出した形の小さな空間を往来する。この対極的な空間の間を、障子という結界を開閉し何度も何度も行ったり来たりを繰り返す。そうしているうちに、身体の動きや、五感が感知する様々な要素に引きずられるような形で思考も往来を開始する。

明、暗。
凸、凹。
小、大。
がらりと開けて境界を越え、ぴしゃりと空間を閉ざす。
その繰り返し。
角、丸。
陽、陰。
男、女。
生、死。
外、内。
…、…。
対極的なものが次々と浮かぶ。

世の中、対極的なものだらけだ。
それはきっと、人というものが二極化するのを好んできたから。
だけど本当は、この空間がもともと一つであるように、それらは対極に位置しているように見えて同じものなのではないか。

そもそもどちらが外で、どちらが内なのか、もう分からなくなりつつあった。
また、そのうち新たな思考が開始されていた。
暗い部屋から見ると光はよく見えるのに、明るい部屋から見ると闇は捉え辛いのは何故か。
鋭い角度で交わった壁に遠近感を狂わせられて、くらくらしながら往来する。
まるで禅問答である。

今回の作品について、岡本は「実際に完成した作品をみて、言葉は必要ないのではないかと思った」という。まさにその通りだ。様々な面で対極的な2つの空間は細々とした説明を必要としない。鑑賞者の受け取り方を縛らず、解釈の幅を広く持った作品となった。

ギャラリーでは自分なりの解釈を試みると面白いでしょう。
銀座という街中に現れた異空間『市中の山虚』をぜひご堪能あれ。

 

 

『第4回 shiseido art egg 岡本純一展』
2010年2月5日(金)~2月28日(日)
平日11:00~19:00  日・祝11:00~18:00
毎週月曜休
入場無料

資生堂ギャラリー
〒104-0061 東京都中央区銀座 8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
TEL 03-3572-3901
www.shiseido.co.jp/gallery

主催:株式会社 資生堂

 

 

☆シノエリの現場ルポ☆

アーティストの岡本さんはとっても気さくな方で、様々な質問に対して丁寧に応答してくださいました。
なんと岡本さん、つい先日第二子となるお子さんが誕生したらしいのです。
Shiseido art eggの入選に引き続きたいへんおめでたいことです。
心から祝福いたします。
そしてそして、これを節目に岡本さんは故郷である淡路島に活動拠点を移すとのこと。
淡路島と云えば私のふるさと徳島県と目と鼻の先!高校の宿泊訓練は淡路島でした。
なにかとご縁があるのかも・・・。
淡路島での活動もぜひ見に行きたいです!
シノエリの現場ルポでしたー。