鬼頭舞の放課後美術館 – 3 - 没後50年記念 フランク・ロイド・ライトのシンポジウムに行って来ました。

(2009.12.25)

11月29日に東京芸術大学にて開催されたシンポジウム、『-建築家フランク・ロイド・ライトのヴィジョン-ブロードエーカーシティとユソニアンハウス』に参加しました。

 

フランク・ロイド・ライトの都市計画『ブロードエーカーシティ』模型パネルの前で。『ブロードエーカーシティ』のパネルは模型と同じサイズの精密なコピーがパネル展示されていて細部までとてもよくわかります。

このシンポジウムは帝国ホテルなどを設計したことで有名な建築家、フランク・ロイド・ライトの没後50周年を期して組織された、ライト50周年記念事業委員会によって企画されたもので、3時間以上にも及んだシンポジウムは国内外からの様々なゲストが参加されていて、非常に有意義で貴重なお話を聞くことができました。今回はその内容をちょこっと紹介しようかと思います。 
 

東京芸術大学音楽学部校舎前にて。会場は5号館 大講義室でした。
開会挨拶をする有機建築アーカイブ代表理事の一ノ宮賢治さん。

まず今回のシンポジウムのメインテーマとなった『ブロードエーカーシティ』と『ユソニアンハウス』について。われわれ日本人にとって、ライトというと帝国ホテルの設計者や日本好きというイメージが先行してしまいがちです。しかしライトはル・コルビュジェ、ミース・ファンデル・ローエとともに近代建築の三大巨匠に数えられる世界的に有名な建築家であり、本国アメリカでも多数の建造物を手がけています。その中でも今回取り上げる『ブロードエーカーシティ』と『ユソニアンハウス』は彼の後期の作品に位置付けられます。

『ブロードエーカーシティ』とはライトが提唱した、すべての人に1人、1エーカー(約1235坪)の土地が生来の権利として与えられるという理念に基づいた都市計画で、3冊著作および模型によって彼はそれを表現しました。ライトが1959年の彼の死に至るまで、加筆・修正を加え続けたそれには都市の集中を避けてその機能を田園に融合させ、大地に密着した生活をするという民主主義に対する考えが象徴されています。ライトはこの計画を打ち立てるにあたって、ジェファーソンの農業の思想をはじめ数々の歴代の思想家の思想を取り入れていたのだそうです。

ここにライトがいかにその時代の求めているものを鋭敏に見抜いていたかということが見て取れます。ヨーロッパ各国とロサンゼルスに巡回展示されたこの模型の中には、後に全米各地でみられることとなる建物の先行モデルとでもいうべきものがいくつも見られ、その影響力の強さを物語っています。今回のシンポジウムでは模型と同じサイズの精密なコピーがパネル展示され、その迫力もさることながら、細部まで見入ることができました。

『ユソニアンハウス』とはライトが新しい手法によって造った一般的な家族のための手ごろな価格のコンパクトで魅力に満ちた小住宅の事で、ブロードエーカーシティの基本構成単位を形成します。箱形の慣習的な住宅の工法にとらわれず、無駄を省き、シンプルなその造りは現代建築にも通じるところがあるように思われます。ここにもライトの先駆性を読み取ることができるでしょう。ライトの建築が今日に至るまで、評価及び再評価されてきた理由として、こうした先駆性により、彼の建築が全然古いものであると感じさせないところにあるのではないでしょうか。

続いてパネリストの方々の紹介です。

イギリスはケンブリッジ大学からお越しになった名誉教授ジョン・サージャントさん。『ブロードエーカーシティ』と『ユソニアンハウス』についてこと細かく話して下さいました。
福山大学工学部建築・建設学科講師 水上優さんが膨大な著作を残しもしたライトとその言葉からライトの世界観がどういうものであったかを語ってくださいました。
共立女子大学国際学部教授 生井英考さんはライトが体験した2つの大戦という激動の時代の文化や社会について丁寧に解説して下さいました。
建築家・元フランク・ロイド・ライト財団理事 デイビッド・E・ダッジさんは実際にタリアセン・ウエストに自邸を構えていらっしゃり、ライト建築の魅力を一番理解しているだけに、独特の視点から話して下さいました。
建築家・工学院大学名誉教授 南迫哲也さんがライト建築をその構成から工学的に説明して下さいました。私にとっては難しい話でしたが、ライトの発想の斬新さは細部にまで宿っていることに気づかされました。
第1部 シンポジウム会場の様子です。定員200名で併設 のパネル展(図面、写真、解説等)がありました。
第2部 タリアセン・イブニング ではデイビッド・E・ダッジさんの基調講演のほか、カクテルサービス、晩餐、音楽演奏等がありました。

 
 
先日平山郁夫画伯が亡くなり、ニュースで報道されたのが記憶に新しいですが、ここ1,2カ月のうちに哲学者のレヴィ・ストロース、現代アーティストのクリストなど私たちは偉大な人を失いました。そういった意味で死について考えさせられることが個人的に多かったのですが、死者を弔う一つの方法として、生前に成し遂げた偉業を忘れないでおくということが考えられます。そういう点で、今回のシンポジウムのような機会を定期的に設けることは重要な意義をもつように思います。是非これからもライト50周年記念事業委員会にはこのような活動を続けてもらいたいものです。

 

放課後美術館、ちょっと寄り道 -3-

東京芸大には定期的に展覧会を開催している大学美術館、および陳列館があるほか、芸大の学生、卒業生の作品の展示・販売を行うアートプラザなるものがあります。書籍類も充実しているのですが、注目してほしいのがこの芸大クッキーです。

袋に芸大の校章がプリントされたクッキーはプラリネとアーモンドショコラの2つのお味が楽しめます。ここでしか手に入らないので、お立ち寄りの際にはぜひお買い求めを! デザイン科の先生が手掛けた箱に6枚入りで1,000円。

ライトアップされ美しい奏楽堂前の木。

ー建築家フランク・ロイド・ライトのヴィジョンー
『ブロードエーカーシティ』と『ユソニアンハウス』

開催日: 2009年11月29日(日)
会場:東京藝術大学 音楽学部5号館 大講義室
主催::ライト50年記念事業委員会
共同企画:NPO法人有機的建築アーカイブ、NPO法人ライト ウェイ ソサエティ・日本、株式会社レーモンド設計事務所
後援:シカゴ建築財団、社団法人日本建築家協会(JIA)、社団法人日本建築士会連合会、社団法人日本建築事務所協会連合会、米国大使館
協賛:株式会社一吉建設、株式会社大林組、株式会社カッシーナ・イクスシー、有限会社平良建設、株式会社竹中工務店、日本オーガニックアーキテクチャー株式会社、株式会社淀川製鋼所
協力:日経アーキテクチュア、ヤマギワ株式会社 (各五十音順)