ハイブリッド・アートブック
『OfTEN』の作り方。

(2012.11.01)

『Aquvii』のカタログの延長のつもりが、
見たこともないモノ作りに。

ダカーポの『フォトギャラリー』は、注目の写真家さんによるWEB上の展覧会です。現在アップ中の『Photo Gallery no.17』は、深見千恵さんによる「often」。これは、この夏、発売されたアートブック『OfTEN(オッフン)』からの命名。『OfTEN』は、代官山はじめ、国内外で活動するアート&アンティックショップ『Aquvii(アクビ)』と『金羊社クリエイティブワークス [ CREATIVE LANGUAGE ] 』により制作された話題のハイブリッド・アートブックです。『Casa BRUTUS』10月号の「Good For Me」でも紹介されていましたのでチェックしている人も多いでしょう。深見さんの写真、HAMADARAKAさんのイラストを中心に構成、蛇腹折のページや、矢印が型抜きされてブックマーカーになったり、まるでレコードのドーナツ版のごとく中央に穴が空いたページ、電話帳さながらアルファベットインデックス風のスタッフクレジット……驚愕のギミック、アイディア満載の『OfTEN』全202ページ。これはいったいどのように制作されたのでしょうか? 企画・制作の『Aquvii』、『金羊社クリエイティブワークス  [ CREATIVE LANGUAGE ] 』(以下『CREATIVE LANGUAGE』)にお話を聞いてみました。

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ことの始まりは『Aquvii』が2年前に出展した『productivity』という展示会。『Aquvii』ディレクター 川辺恭造さんは、ふらっと見に来てくれた『CREATIVE LANGUAGE』清水厚史さんに「本を作りたい!」と大アピール。

川辺さんいわく「本のようで本でないモノを作りたかったというのが本音です。本という二次元の世界で形成されるモノからハミダした異様なモノが見たいという気持ちでした。」

『Aquvii』のスタイリングを手がける Atmosphere ナカムラ カナコさんは「最初は『Aquvii』のカタログ作りの延長で、と思っていた。」といいます。「でも、川辺と2人で話してるうちに写真集ではないなって気づいて……。”見たこともない本を!!” ということで考えていったのですが、”見たこともない”っていうのは彼の特論。確かに、見たことがある物を作っても仕方がないですからね。」

リバーシブルのポスターを折って表紙カバーに。ポスターは全3種あって選ぶことができます。photos / chie fukami

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『Aquvii』はチェコのガラスジュエリー『Lilien costume jewery』やハンガリーのモール人形『roki』はじめ、ヨーロッパ各国やアメリカで買い付けたヴィンテージ感溢れるユニークな雑貨、アイディアいっぱいのオリジナル・アクセサリーなどが揃うアート&アンティックショップですが、ポップなのに懐かしい独特の世界観には根強いファンが。お店のイメージの屋台骨となるロゴマークを制作していたのが双子のDrawing Artist HAMADARAKAさん、『Aquvii』のオリジナル商品のカタログを一緒に作ってきたのが深見さんでした。

川辺さんは言います、
「”見た事もない本”を作るのに普段から一緒に仕事をしている深見さん、HAMADARAKAさんなら、世界観などが言葉ではない所で通じる。そして(『CREATIVE LANGUAGE』の)清水さんなら無理を聞いてくれるかも知れないと思いました。(笑)」

『Aquvii』の思いが通じる、イメージが伝わる、というのが今回の『OfTEN』のポイントのようです。

「深見さんの魅力は何事も自然に受け入れてくれるところ。『OfTEN』は『Aquvii』カタログのイメージのままで行きたかったし、撮って欲しい物をわかってくれるし、伝えやすい。HAMADARAKAのふたりは、いつも仕事をしているし、よく飲んだり遊んだりしているのでわかってもらえる。」とナカムラさんはいいます。

「もう1人、大事なメンバーがいます。デザイナーの岡本佳子さん(『Kahito Commune』)です。彼女には以前、個人的にデザインをお願いしたことがあったのですが、仕事をするのは今回が初めて。彼女が学生の時にウィーンに住んでいたっていうのが『Aquvii』っぽいのと(オーストリアにはよく買い付けに行きます)、『OfTEN』のサンプルを見せた時に「すごい! いいね!」と言ってくれたのでお願いしました。」

ページごとに体裁が違う複雑な仕様を
8社の協力のもとに実現。

いうなれば『OfTEN』は、これまでの『Aquvii』のアートワークの集大成。制作にあたり『Aquvii』がこれまで買い付け旅行で巡ってきたヨーロッパ各国に深見さんとともに撮影旅行を敢行。勝手を知った町で「あれを撮ろう」「こうしたらもっと面白く撮れる」と撮影を重ねて行ったとか。上がってきた写真に「この手のところにイラストで手を描こう」など、組み合わせるイラストのアイディアをHAMADARAKAさんに依頼。どのページも展開がとても面白くて、『Aquvii』らしく古き良きものの持つせつなさや、ロマンがありながらパンクな発想、ユーモアもあります。

でも、この本のラフスケッチ(下書き)や台割り(全ページの構成内容がわかる設計図のようなもの)の作成を考えると気が遠くなります。自由奔放なアイディアを、どのようにまとめていったのか? と聞くと、ナカムラさんは台割は書かなかったそう。「こういう本にしたい」という本のサンプルを作り、『CREATIVE LANGUAGE』の清水さんに渡し、それを元に清水さんが台割りに落とし込んでいったといいます。

では、ページごとに体裁が違うような複雑な仕様は、いったいどのように実現していったのでしょうか? 『CREATIVE LANGUAGE』クリエイティブ・プランナー 清水厚史さんに聞きました。

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「『OfTEN』の製作には、全部で8つの会社が関わっています。蛇腹ページや袋ポケット、FACE BOOKと名付けられたミニブック挿入、抜き加工、観音開きなどすべて『三光堂製本』による加工です。三光堂製本の木植社長がいなければ、ギミックを極限的に満載した『OfTEN』は実現していなかったと思います。

電話帳風インデックスページについては、木植社長が、既知の手帳加工会社さんに手配くださり、細かな抜き加工の微妙な調整が可能となりました。

また、背表紙のプラチナ・シルバーという贅沢な箔を使用した箔押しは『美箔ワタナベ』、本文最終ページのグラスニス(透明UVシルク厚盛印刷)は『内藤プロセス』、といった高い技術を持つ会社にお世話になっています。

印刷に関しては、弊社の親会社である『金羊社』の「デジタルファクトリー」で行いました。表紙に使用しているリバーシブルポスターと、トレーシングペーパーのページに大判のUVインクジェット機を使用した以外はすべて、オフセット印刷の色域を超えるデジタル印刷機『HP Indigo Digital Press』の6色印刷を採用しました。色調再現は、弊社の看板プリンティングディレクター・若狭が中心となって、カラーマネジメントを行いました。

手作業の部分と、機械作業の部分がありますが、高度なギミック部分はほとんど手作業による製本になります。ポストイットの束やマスキングテープ貼ったり、ハンカチをポケットにしまったり、最終的なアッセンブリ、手作業は、全て『Aquvii』さんがひとつひとつ行いました。」

深見さん撮影、メガネとそのレンズ越しの風景。メガネの柄を持つ手に、HAMADARAKAさんのイラストの手がコラージュ。

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『Aquvii』川辺さんから『OfTEN』の制作の提案を受けた時、清水さんは何か面白いものができそうだと直感したといいます。

「時間や手間、コストなど、諸々のハードルは高かったのですが、『Aquvii』さんの想像力と『金羊社』の印刷技術や長年のノウハウを駆使すれば、海外のミュージアムショップやセレクトショップでも評価されるようなしっかりとした本を目指せると思いました。『CREATIVE LANGUAGE』 は、クリエイターの想像力(アイデア)と製作会社の技術(ソリューション)をつなぐ役割を目指しているので、最初の制作物は、象徴的なサンプルとしてのスゴイものを作ろうと漠然と考えていました。」

『金羊社』は、CDやDVD作品などエンタテインメント・アイテムのパッケージ印刷の技術で、印刷業界、音楽業界で高い評価を得ている会社。『CREATIVE LANGUAGE』は、昨年創設された新しいセクションで、『OfTEN』はその第1弾の作品で、見事な成功例となったわけです。『CREATIVE LANGUAGE』ではそのほかアートブック『7:14』(作・中村至男)、ハイクオリティ・ポストカード『どっとこどうぶつえん』(作・中村至男、福音館書店刊絵本より)、『mimicry(上野動物園)』(作・YURICAmera)を手がけました。

Aquvii AirLineの飛行機の隣のページには機内座席後ろの写真。後ろのポケットに入っているハンカチには機内食がプリントされています。
モデルにした既刊本はない。
でも、紙質は厳選。

さて、『OfTEN』を作るにあたっての話に戻りますが、ヨーロッパはじめ日本でもZINE、リトルプレスといったインディペンデントな印刷文化が盛りあがっています。ZINEや海外のアートブックで何か参考にしたものなどはなかったのでしょうか?

「全体的に参考にした本は特にないです。本を作るにあたって、初心者なので、ギミックが入っている本、写真集、ファッション紙、絵本、フリーペパー、チラシ等見ました。でも全て部分的ですね。「この部分」の「この感じ」がいいとか。

でも、紙選びにはこだわりました。全体的にザラっとした適当な感じにしたかったです、高級感を出したくはなかった。また、みんなが手に取りやすいようにツルツルした素材は避けたかった。

そういう感じを伝えるために参考にしたのは、街によく置いてあるフライヤー、ちょっと前のフリーペーパー、日本はじめ海外の雑誌。みなマットな紙質のものです。」ナカムラさんのこのようなリクエストに応えるべく相当な数の紙見本帳から、イメージに近いマット系の紙を探す”紙探しの旅”をしたという清水さん。『金羊社』の紙ソムリエである芦田さんの協力も大きかったといいます。

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ページをめくるごとに驚きの連続『OfTEN』。手で感じる紙の質感、インクの盛り、手描きイラストの味わい、フォントじゃないタイポグラフィの面白さ、ページを広げて畳めて、ポケットから出せて入れられて、穴を空けられて塞ぐこともできる……これこそアナログ本の自由さ、魅力満載の”見たことない”スーパーハイブリッド・アートブック、ぜひ一度手にとってみてください。”You love “Often” as often as you hand it .” 手にすればするほど好きになるのが『OfTEN』である、
と観察するからです。

女の子が食べているチップスから欠片が落ちて、その下に隣のページからアリさん到来。

『OfTEN』
A5判、上製本、全202ページ、6色印刷、リバーシブルポスターカバー付き、そのほか特別仕様多数。
15,750円(税込)
制作: Aquvii + CREATIVE LANGUAGE (株式会社金羊社クリエイティブワークス)
取り扱い店:Aquvii Tel 03-3462-5044、東京都渋谷区代官山2-5、12:00〜20:00、無休
http://www.aquvii.com/

[ CREATIVE LANGUAGE ] オンラインショップ
http://www.shop-creative-language.com/