デザイン・トランスヨーロッパ – 3 - ノン・プロダクトとは? オリジナリティーで挑戦する若手デザイナー、スルリ・レヒト。

(2009.01.28)

ノン・プロダクトの定義:
手作業か機械を使って小数単位で作られ、マス・プロダクションのアイテムという背景を失い、大量生産から生まれたものではないもの。
そして/または コンセプトがその前に存在したものの副産物であるもの。

イスラエル生れ、青年期をオーストラリアで過ごし、現在、アイスランドを拠点に活動するスルリ・レヒト。ロンドン時代はアレキサンダー・マックィーンのコレクションにも参加。時にはアザラシの皮やクジラの皮など驚く素材を使用したりもする。モードからプロダクトまで、1979年生れの新鋭スルリ、デザインは必ずしもマスである必要はないと主張する。

 

Yumiko Urae(以下、Y) ファッション・デザイナーとしてキャリアをスタートしていますが、プロダクト・デザインに関心を持ったのはいつごろから?

Sruli Recht(以下、S) 高校でインダストリアル・デザインを専攻したかったんだけれど、イラストが上手に描けなくて……。18歳の時にやっとアートからデザインに変更した。その頃から自分は機能的なものが好きだというのが明確だった。アートは目的が無いように思えたしね。高校卒業後は洋裁を独自で学んで、その後、大学でデザインを専攻した。それからは昼も夜もオーダーメードの制作に明け暮れていたよ。ここ2年で僕の関心ごとはまた、プロダクト・デザインに戻った。自然な流れだね。

Y あなたの作品は個性的でデザインというよりは、もっとアートのようなものなのですか?

S  僕はノン・プロダクトを制作している。再製が可能なもの。アートというのはこういう言い方は良くないのかもしれないけれど、もっと装飾的なものを指すように思う。もし、プロダクトの制限を無くしたら、他の多くのデザイナーはもっと小規模な生産をすると思うよ。その精神がまさにノン・プロダクトだ。小数の控えめな生産。そのものに意味があるもの。職人という言い方もあるけれど僕はストレートなプロダクト・デザインとして定義している。プロダクト・デザインは今、以前はアートがそうだった役割を担っている。人と環境のニーズ、機能、欲望といった観点の関係性を目的としていると思う。プロダクト・デザインは個人的なものだ。人々の生活の洞察であり、購買、目的、行動の歴史であって、人間の性癖的な行動、執着やアイデンティティーのために生産されている。デザインは自然の流れに異常変異を起こすもので、デザイナーというのは常に制限や新しい方法をいじくったり、試したりする異常者ってことだね。

Y あなたのカッティング・テーブル No.1はどんな背景から完成したのですか? 難しかった点はありますか?

S  フロムファストとの初のコラボで、飛行機でのトランスポート対応が可能なデザイナーや学生のためのモジュールで段ボール紙を使用したテーブルです。多くのテーブルがデザイン・オブジェとなりうるけど、低くしたり、たためるものではない。度重なるフライトとゲリラ的なスタジオ活動から生まれたアイデアだね。大学に居た時も他の学生が寝室やカーペットの敷かれた部屋やタイル張りのキッチンなどでの作業が難しいということを嘆いていた。軽いけど、ずっしりと安定感のある構造で裁断、ドローイング、デザイン、食事も出来るテーブルを提供したというわけ。

テーブルの形の最終的な決定は一番はじめに頭に浮かんだものにした。パートナーのスノリと2人で30くらい違った形をデザインして、実際のマテリルであれこれやってみたんだけど、最終的にはこの丸と水平線のシンプルで幾何学的なエレガンスに戻ってきた。色々なオプションから選ぶのは大変だけれど、基本は、流行りを超越しながらも変化していくことだろうね。
これはシリーズでこれからも展開していこうと思っています。

Y  最新作の面白いハンドルの傘、アンバスターはどんな過程で作られているのですか?

S 2001年大学に居た頃、安くてラフなアルミのハンドルをオーストラリアに郵便で取り寄せて2年目のコレクションで発表したのがはじまり。アクセサリーとしては早すぎて受け入れられなかった。それからハンドルは友達が3Dコンピュータ・グラフック、スタジオ・マックスの人間工学的なユニットで改良してくれた。その後、コンピューター制御機械でのカットのため、海外へ。アンバスターはノン・プロダクトを実現するために世界中を旅したんだ。昨年、新しいアンバスターのハンドルをカットしてくれる道具作りのメーカーを見つけ、ガイ・ド・ジャンというメーカーの傘をつけて、東京の100%デザインで発表することが出来た。

制作に手間がかかる作品だよ。それぞれのハンドルは個別に5時間のカット時間を要する。傘はフランスでも最も名のあるメーカーのもの。そして、ボックス・デザインはここレイキャビックのスノリ・マー・スノーラセンによって綿密に作られている。

見た目はでも、空港でのセキュリティーを悩ませる物体であることは確かだね。

 
▼スルリ・レヒトHP
http://www.srulirecht.com/

オンラインでの購入の他、スルリ・レヒトのシュー・コレクションは伊勢丹、インターナショナル・クリエイティブ・セクションで販売されています。

度重なるフライトとゲリラ的なスタジオ活動から生まれたCUTTING TABLE No.1。

低くしたり、たためたりできる。

最新作の面白いハンドルの傘、アンバスター。

ボックス・デザインはスノリ・マー・スノーラセンによる。

アイスランドを拠点に活動するスルリ・レヒト。