天才漫画家の実録伝記『赤塚不二夫 天才ニャロメ伝』(長谷邦夫 著、漫画)と、赤塚さんの思い出。

(2008.08.11)
赤塚不二夫さんと初めて会ったのは、1979年。香港映画 『Mr.Boo! インベーダー大作戦』公開に際し、監督・主演 のマイケル・ホイが来日した時のこと。当時、『平凡パンチ』(今は廃刊になってしまった伝説の男性誌!)の編集者だった私は、マイケル・ホイと赤塚さんの対談を企画。麹町のしゃぶしゃぶ屋で、肉を食らい、酒をあおりながらギャグを応酬しあう、抱腹絶倒対談を実現した。

他にも平凡パンチでは、『タモリ・赤塚のバラエティー狂室』『白熱対決! 新お座敷感覚遊蕩術 対決赤塚不二夫軍団vs村松友視軍団』『ギャグ王赤塚不二夫が放つ、警世世直し論』なんていう企画もやったし、マンガの連載などでもお世話になった。 たぶん、赤塚さんと平凡パンチは、反・良識、反・公序良俗という点で、相性がよかったのだと思う。


赤塚さんとは、会えばいつも酒で、破天荒な“狂宴”になることもしばしば。奔放にして型破り、ギャグとバカに命を賭けたシャイな無頼派、赤塚さんのことを私は大好きだった。
「シャイな」といま書いたが、赤塚さんの印象を一言で言えば「心優しき含羞の人」というものだった。しらふでいるのがとっても恥ずかしいから、酒を飲んで酩酊してドンチャン騒ぎをする。アルコールが切れると恥ずかしいからまた酒を飲んで酔う。フツーに、生真面目に生きるのがとっても恥ずかしいから、徹底してバカとギャグを演じてみせる。
「そうでもしなきゃ、この世の中、恥ずかしくって生きてられないよ」と思っていたのではないだろうか。何かというと、「ナーンセーンス!」というのが口癖だった当時の私には、そう思えてならなかった。

その赤塚さんの健康状態が危機的だというニュースに接することが数年前から多くなった。アルコール依存症、食道がん、急性硬膜下血腫、脳内出血……その度に、私は心を痛めた。病いと闘うこの不世出の天才マンガ 家の一代記を、もっと多くの人たちに知ってもらいたい。豪快に時代を駆け抜けた赤塚さんの伝記を一冊の本にまとめたい。そうだ、作者は30年近く前にマイケル・ホイとの対談にも同席していた、赤塚さんのマネジャー兼アイデア・ブレーンだった長谷邦夫さん (作家・マンガ家)にお願いしよう!
こうして、長谷さんが愛を込めて描く実録マンガ『赤塚不二夫  天才ニャロメ伝』は2005年12月に刊行された。

赤塚さんが亡くなられたいま、若い世代に赤塚作品に接してもらいたいし、長谷さんのこの本で、赤塚さんの生きてきた道筋を知ってもらいとも思う。命を削ってバカとナンセンスに賭けた男の破天荒な人生のなかに、「心優しき含羞」を見て取ることができるだろう。
 ちなみに、私が好きな赤塚漫画のキャラはニャロメ。踏まれても蹴られても「ニャロメ」と起き上がる不屈の反骨魂はよいよね。(土佐 豊)

『赤塚不二夫  天才ニャロメ伝』長谷邦夫 著『http://magazineworld.jp/search/book_search.php?code=isbn&word=978-4-8387-1640-1

 

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『赤塚不二夫  天才ニャロメ伝』長谷邦夫 著 1,365円(マガジンハウス)

赤塚氏の身近にいた長谷さんならではの描写もいっぱい。70年代の赤塚さんの服装が細かく描かれたページ。

顔が同じ6つ子の『おそ松くん』誕生秘話も。

 

土佐 豊(とさ・ゆたか)
1968年、平凡出版(現、マガジンハウス)入社。週刊平凡、平凡パンチ、自由時間、書籍出版部を経て、06年、マガジンハウスを定年退職。書籍出版部では、吉本隆明、奈良美智、齋藤孝、ナカムラミツルなどの単行本を手がける。現在、62歳。