Shibuya Tourbillon ~9~ ヴェネツィアからオクシブ。世界は振動している。

(2013.09.15)

渋谷の奥「奥渋」=オクシブのギャラリー『アツコバルー arts drinks talk』、ライブハウス『サラヴァ東京』のオーナー アツコ・バルーさんが綴るコラム『Shibuya Tourbillon(シブヤ・トゥルビヨン)』、渋谷つむじ風。飛んで、ヴェネツィア・ビエンナーレ。着地はオクシブ。

やたら楽しいヴェネツィア・ビエンナーレ。

今年のテーマは「百科全書」。ディドロとその仲間が18世紀に世界中のあらゆるものを集めて本にまとめてやろう、と世界初を作ったその精神をうたったのであろうか、現代の人から100年前の人、国も傾向も様々、何でもありの楽しさ。セルフトート、独学の人のぶっ飛んだ絵が次々と現れる。しかしアウトサイダーというわけでもない。


アルテ・ポーヴェラと呼ばれる運動で有名なカップルの夫人、マリザ・メルツの自由奔放な絵画。

精神分析で有名なユング博士の描いた絵「レッドブック」が、展示会場の入り口に堂々とガラスケースの中に横綱みたいに君臨していた。これは厚みが30cm位の赤い革表紙の画帳。有名な(私は読んでいませんが)彼のコンセプト「集合的無意識」の数々が絵画になっている。今年のトーンを決定すべく代表作、という見せ方だが、彼のコンセプトに括られない自由で力強い芸術が40歳のキューレーター、マッシミリアーノ・ジオーニによって選ばれていて、「投機目的のアートはもう終わってるよね~」と私は一人悦に入ったのである。


Guo Fengyi、1941年生まれ中国の女性作家、アウトサイダーぶりが素晴らしい最高の作家です。イギリスのコレクター、ジェフ・ブレット氏の museum of everything にも収められいます。


ヴェニスの街角にもある予期せぬアート。


ポストカードのようなホテル前のスナップ。しかし実際には夕方の渋谷駅のように観光客で蒸れ返る激しさ。


『第55回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際美術展』
会期:2013年6月1日から11月24日


さて、東京。渋谷の奥=オクシブ。
オクシブは夜まで本屋『シブヤパブリッシングアンドブックセラーズ』

『アツコバルー arts drinks talk』が夜遅くまであいているアートスペースなら、オクシブにある本屋さん、『SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS』も24時まであいているのでうれしい。この店の小物や本選びのセンスも好きだ。先日、仕事の後まっすぐ帰る気もしなくてプラプラと店に入ると懐かしいマイラ・カルマンの”The Principles of Uncertainty”があった。長くニューヨーカーの表紙を描いている人で、彼女のイラストと小文のマッチングのセンスがヨーロッパとアメリカのいいとこ取りで気持ちが良い。(優しい英語で語ってくれるので私でもわかるしね)

ここに渋谷に関するZINEが売っていた。タイ人の漫画家ウィスット・ポンニミットの『渋谷の嵐』と渋谷の街の写真集 野川かさね『山の光をさがして』。そして長崎訓子の「頭のジッパーを開けたら本が出てきた」。3作ともまだいろんな意味で若い感じがする。8月は評判の『アヒルストア』の齊藤輝彦さんが渋谷で好きな食べ物屋さんについてZINEを出した。

この書店はつまり出版社でもある。これらのZINEは「メイドイン渋谷シリーズ」。月に1冊出て一年間で12冊出すそうだ。渋谷の駅周辺が消費の街だとしたら、オクシブは創造の街といいたい。個人商店ばかりで人間味がある。「おしゃれ」という時代遅れの形容詞とは違うもう一歩先を行く、いわば自分に正直でいるために人が人に提案する店、が見つかる所だ。


『SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS』、「SPBS」のZINEは月1回発行される。

『SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS(シブヤパブリッシングアンドブックセラーズ)』

月-土 12:00‐24:00、
日 12:00‐22:00(イベント・ワークショップのため変更有り)

そして、オクシブ、 アツコバルー。開催中の展覧会について。
渋谷の地下水脈を訪ねる

空気、光、音、振動‥見えないものや知覚しにくいものも含め、空間にはさまざまな情報が流れている。この展覧会は『アツコバルー arts drinks talk』の空間を開かれたエネルギーの交差点と見なし、さまざまな情報がダイナミックに関係することで生まれる新たな胎動(バイブス)を体感いただくことを試みるものです。

写真は『シェアリング・バイブス|共振する場、そして私』展。オープニングのトーク。右からマイクを手にしているのが音と世界、身体に関わりモチーフにアート活動を繰り広げる山川冬樹さん、アロマ・アートの第一人者 Maki UEDAさん、「目に見えないもの」を撮る写真家 新津保建秀さん。

特にすごいのは山川冬樹さんが行った地下水脈のリサーチ。古地図を頼りに、昔は水車小屋があり、童謡『春の小川』のモデルになった水の町渋谷が人口増加と高度成長でドブの町になってしまったのを東京オリンピックの時にふたをしてしまった。しかし、かつての川の下、せせらぎと下水が混ざった流れが今でもマンホールの下を流れている。100カ所以上の渋谷のマンホールに耳をつけて音を聞いているうちに、地上の慣れ親しんだ姿とは違う渋谷が見えてきて、この街が好きになっていったという。

臭いものにはふたをして、うるさい生活音にはイヤホンをして我々は外部と自分をどんどん切り離して閉塞していく。そうしていくうちに我々は野生の感覚を鈍らせていってしまったのではないか?


山川冬樹『Shibuya Water Witching』。渋谷の街の地下水脈を探り当てるウォーター・ウィッチング、別名ダウジング。かつて弘法大師は旅の間に杖で水脈を探り当て、井戸や温泉を開いたという。現Bunakmura 裏、旧三田用水神山分水支流を起点に、100箇所の地下水道の音を採取した。

今回の展示では新津保さんが水と風景をテーマにした写真、Maki UEDAさんが香りの迷路で匂いだけを頼りに歩くという体験展示、そして山川さんが渋谷の99カ所の地下のせせらぎの音を録音、1カ所はライブで聴ける。音の地図を作り皆さんもやってもませんか、と地図と紙タオルまで用意している。ワークショップやトークもぜひ参加してみるとよいと思う。


新津保建秀『fluid / water / forest』。水の相と周辺の風景をとらえることを主題とした『Discover Japan』誌の隔月連載をきっかけに始めた連作より。

Maki UEDA『嗅覚のための迷路 vol.1』。上から吊った60のミニボトルには3種類の香料が入っている。ひとつの香りを追っていくと反対側までたどり着くことができる。
『シェアリング・バイブス|共振する場、そして私』展


アーティスト:Maki UEDA、新津保建秀、山川冬樹

キューレーター:四方幸子
会期:2013年9月11日(水)~ 9月29日(日)
定休日:火
水~日 14:00 – 21:00
、月/祝 12:00~18:00

入場料:500円(ワンドリンク付)

『アツコバルー arts drinks talk』

TEL:03-6427-8048

所在地:東京都渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル 5F

入場料:500円(ワンドリンク 付)

OLYMPUS DIGITAL CAMERA『アツコバルー arts drinks talk』のマスコット、あかねちゃん。