女性のための、元気になれる俳句10 選・如月美樹 〜遠花火ひとの愁ひをきき流す 柴田白葉女〜

(2008.07.28)
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 夏も盛りになってくると、各地でおこなわれる花火大会。人波にもまれて間近に見上げるにぎやかな花火もいいけれど、特に美しいと思うのは、この句の季語になっている「遠花火」である。
 遠花火とは、文字のごとく遠いところに見える花火のこと。音は聞こえないが、ふとした時に思いがけず見かけると、突然心を奪われてしまう。忘れていた、形にならない記憶が浮かび上がってくるからだ。
 掲句、作者は誰かの愚痴でも聞いていたのだろうか。ふと目をやると、遠花火が次々に深い夜の底に華をひらいては消えていくのが見えた。一瞬にしてここにいることを忘れてしまったが、相手はそうとも知らず、話し続けている。掲句初出『遠い橋』(1956)。