『smokebooks』北澤孝裕の“だから本は面白い” – 2 - 伊坂幸太郎とブルーハーツ。

(2009.12.25)

本の紹介なのに、今回の『スモークブックス』のおすすめはレコードだ。
詩のことを考えていた時に、自分にもっとも馴染みのある詩は、
間違いなく歌詞だと思った。
そしてレコードは自分にとっては詩集でもあると。
だから今回の『スモークブックス』のおすすめは、『ブルーハーツ』のレコード。

そのブルーハーツの詩に、こんな言葉がある。

“王様は裸じゃないか”

最近聴いたときにこの言葉がすごく残った。
みんなが言わないことを言うことは簡単なことだけど、
みんなが言えないことを言うことは勇気のいることだ。
みんなが間違うとそれが正しくなる。
ひとりの声はみんなにかき消される。
かき消されない声があがったとき、
時代は、時間は動き出す。
そんなことを思ったときに、出会った本。

伊坂幸太郎「あるキング」が、今回紹介するベストセラー本。

伊坂幸太郎の本は今まで何冊か読んできた。
その中で僕の伊坂本の好きなところは、弱さ・脆さを持った登場人物たちだ。
コンプレックスや社会的な立場から来る弱さが際立たせる個性を持った登場人物たち。
特に脇役の弱さが好きだ。
今回の本「あるキング」の主役、主題は「キング」である。
「キング」は強さの象徴だ。
あれっ?て思った、今までの弱さは?
だけど読み進めていてわかった。
今回、ピカイチの弱さを持った脇役は人ではなく弱小球団だ。
(そう「あるキング」は野球の話なんです、野球知らなくても読めるけど)
この球団が声高に演説をしてくれている。
伊坂らしさ、いつもの弱さ、いつもの演説。
そこに加わる、強さへの疑問。
王様は裸になりたかったのだろうか?
王様は裸になるしかなかったのだろうか?
王様は王様になりたかったのだろうか?

伊坂幸太郎の本に出てくる弱さを持った登場人物たちは、
弱さを肯定する。
言えないことを言いにくいことを演説する。
「王様は裸じゃないか」と。
僕にとって、『ブルーハーツ』は特別な存在だ。
はじめていったライブも、初恋の頃に聴いていたのも『ブルーハーツ』だ。
だから、『ブルーハーツ』=伊坂幸太郎とは言いたくない。
だけど、この文章を書きながら伊坂幸太郎が若者に読まれている理由が
少しわかった気がした。
 

 
『THE BLUE HEARTS』

80年代後半から活動したパンクバンド(1995年解散)
音楽、詩の世界はもちろん、そのスタイルに、
現在も多くのミュージシャン・アーティスト・作家などが
影響を受けたと公言されるバンド。
作詞、作曲を担当していた甲本ヒロト、真島昌利は、現在も『ザ・クロマニヨンズ』として活躍中。

「裸の王様」収録アルバムは、代表曲「リンダ・リンダ」などが
収録されている、『THE BLUE HEARTS/ THE BLUE HEARTS』。
1987年発売の『THE BLUE HEARTS』の1stアルバム。
今回の写真は、復刻限定発売されたアナログ盤。

 

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