土屋孝元のお洒落奇譚。「DASHI」は世界の共通語
初釜茶会の雑煮風の椀にても……。

(2014.01.29)

李朝無地刷毛目平茶碗と茶入れ。初釜のお茶碗は李朝無地刷毛目です、16世紀くらいのものだとか、濃茶で平茶碗は点てにくい茶碗です。

最近、よく見聞きするのですが、「旨味」や「出汁」が英語「UMAMI」や「DASHI」となり世界共通の言葉になってきたようです、昆布や鰹節、煮干、干し椎茸、アゴ、など……あの日本の出汁の味を世界中の人々が理解して、美味しいと思うようになってきたようです。

僕も最近は、昆布にこだわり、利尻昆布を出汁用に使っています、鰹節も本枯れの薄削りを使い綺麗な出汁の色が出るのでお吸い物や味噌汁、色を大切にする煮物に使ったりしています。

そういえば、先日の初釜茶会でも出汁を使った雑煮風の煮物腕が出ていました、この関東風の雑煮、煮物腕には昆布と鰹節の出汁が利いていてたいへん美味しく頂きました。

僕の個人的な出汁の取り方をここで簡単にご紹介しましょう。

利尻昆布を10cmX10cmくらいに切り、表面を軽く拭いてから お鍋に水を張り一晩漬けておきます、これを火にかけて沸騰寸前に昆布を取り出してから鰹節を入れ少し煮立たせます。この沸騰寸前が大事でそのままにしておくと濁ってしまいますからご注意を。この後 お好みですが、僕はすぐに火を止めてキッチンペーパーの様なもので漉し取ります、これが一般的な一番出汁で綺麗な透明感のあるお出汁が取れます。これをお吸い物や色を濃くしたくない煮物などに使います。

今年の初釜、点心席 『東家』さんにて。
それでは本題。先日、阿曽さん(お茶の師匠)の初釜に伺いました。

今回 点心席は近くの『東家』さんにて、その後、阿曽美術内茶室にて続き薄のお点前による初釜となりました。この『東家』さんも阿曽さんのお稽古仲間で、時々水羊羹など 手作りしたものを持ってきてくれて お稽古の時に頂くのですが、さすがというか、キレの良い甘さでとても美味しいのです。

今回の点心は、お正月ということもあり、まずは 濁り酒で乾杯、その後師匠がラベルを書いた京都伏見の冷酒を西岡さん制作の「くじら唐津」のぐい飲みでいただきながら お料理を食べ始めます、田作り、なます、くわいの煮物、伊達巻、数の子、からすみ、などなどの先付け強肴(しいざかな)に雑煮仕立ての具だくさんの煮物腕、漬けにしたハマチ?ブリ、鮭といくらの親子ご飯のような蟹も入ったちらし寿司のお料理でした。最後は白玉ぜんざいにアイスクリームがけで程よく溶けるバニラアイスが熱さと冷たさの程よいバランスで美味しい水菓子でした。

茶事の点心(お料理)なので全体的にはそれほどの分量ではないのですが、ゆっくりと食べるためかお腹がいっぱいになりました。食べ終わると、阿曽さんの茶室へ移動します。

久しぶりに 羽織り袴でお茶室へ。
この日も最近続く寒波のためか、銀座を歩く数分でほろ酔い気分も何処かへいってしまいました。

阿曽さんの茶室へ上がる前に画廊に掛けてある絵など拝見、阪口鶴代さんの絵があります、もうだいぶ前、十数年前のものだとか、最近作とは違い、暖色系の複雑な色を重ねて描いていて、このテクスチャーも良いなあと見入りました。土屋礼二氏の浅間山や青磁の馬などもあります。

今日は久しぶりに羽織り袴にしたので、身仕度を整えて茶室へ入る前には羽織を脱ぎます、それから 足袋を替えて待つと、茶室より師匠の吹く横笛の音と鈴の音が聞こえ、これを合図に茶室へ入ります。まずは一礼して 床の軸を茶扇子にて結界を作り拝見。「一期一会」の墨跡、96歳と署名の後に読めるのですが、署名が達筆すぎてどなたの墨跡かわかりませんでした。

続いて釜、水差しの拝見。釜はミミズク環の意匠の釜、水差しはお初のものでどこの窯かわかりませんでした。

末客まで茶室に入り終わると、末客は茶室の障子を音を立てて閉めます、これを合図に亭主は拝見の時間を察してから 水屋の襖を開けて一礼。お道具を持ち茶室へ入りお点前の所作を始めます。

濃茶手前では 袱紗の扱いが異なります。
濃茶の場合は静寂という決まりです。濃茶手前とわかり各自濃茶用の濡れ茶巾を準備して 師匠のお点前を拝見させていただきます、(最近は濃茶用のこの濡れ茶巾を茶道具屋さんにて購入でき、一度濡らしてから固く絞り濡れ茶巾入れにて持参します。)

この濃茶手前で薄茶手前と違うところは、茶碗、茶入れを自分の前に置いてからの袱紗の扱いです、まずは袱紗の「四方さばき」、ゆっくりと袱紗の四方をあらためてから「草」にさばいて茶入れの手入れになります。茶入れの扱い方ですが自分の手前に置くのは変わらないのですが、仕覆に入っているので まずは仕覆の紐をほどき左手の上にて右、左と指を全て伸ばした手の平にて仕覆を脱がせ 仕覆を水差し左横奥に置きます。それから「胴ぶき」という動作で、これは袱紗にて茶入れの周りを清めることで、全ての指を伸ばした右手でたたんだ袱紗にて茶入れを支え、左手にて茶入れを三回ほど回します。


胴ふき。濃茶手前で茶入れをこのように袱紗で清めます。

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その後 茶入れから茶杓にて濃茶を茶碗に三杯出し入れ 残りは両手で「回し出し」して濃茶を全て茶碗に入れます。茶杓にてお茶の表面をならしてから茶杓を茶碗左へ渡し置き、釜から柄杓にてお湯を茶碗に仕上がりの半分弱ほど入れ、茶筅にてゆっくりと濃茶を溶き合わせてこれをお茶では「練る」というのです。茶筅を右に倒して残りの半分ほどのお湯を柄杓にて釜から注ぎ茶筅についた濃茶をすすぐように入れてから、茶筅にて濃茶を練り込みます、素早く汚さないように濃茶を練り、自分でかげんを見つつ終わりにし、蓋置の横、定位置に濃茶を出します。この一連の手前はなるべく早く濃茶が冷めないように流れるように所作動作を終わらせないといけません、これがお茶の特に濃茶手前の醍醐味ですね。

各流派により微妙に手前の所作動作は違うようですが基本は同じことです、美味しい濃茶を熱いうちに客に差し上げるおもてなしの心です。客も末客にまわる時間を考慮してなるべく早く飲み終え次に回します、そうしないと濃茶の場合最後には濃茶が固くなり飲みきれないなんてこともありますので。

回し出し。濃茶を茶入れから茶碗へ入れるときにこのように入れます。

正客はお茶碗をにじって取りに行き自席にて次客との境に置き、「おさきに」と一言伝え、自分の前に置いてから、「お点前ちょうだいいたします。」と亭主に伝えてから濃茶をいただきます。この時に亭主より「おふくかげんはいかがですか」と声を掛けられ正客は応えて「けっこうなお点前です」と答えてから「おつめは、お茶銘は、」と聞き、*「先刻のお菓子もたいへん美味しく頂きました」続いて 「お生は」とか、菓子銘を聞きます。客分の濃茶(一人三口分)を飲み終えたら、先ほどの濡れ茶巾にて飲み口を清め、茶碗を手のひらの上で三回くらい回し戻して、手渡しにて次客へ茶碗を渡します、この時、亭主が正面を向けて出してくれるので お茶では茶碗の正面を避ける意味で、左手の手のひらの上で回します。知らない人がよく真似するのはこの動作ですね。

手渡し終えた正客は「送り礼」をします。次客は濃茶を飲み、次へ回し送り礼と次々に送り、最後の末客が濃茶を飲み終えたら、末客はお茶碗を正客へ拝見のためににじって返します。

正客はお茶の練り具合を見てから、濃茶が残っていた場合は亭主に戻してお湯にて茶碗を漱いでいただきます、こうすることで心配なくお茶碗を返して裏の高台を拝見することができるのです。この時に亭主は濃茶の残り具合を見て、または気配を感じ正客から言われる前に、「すすぎましょうか」と一声かけてお湯にて漱ぎます。

見終えたら次客へ渡して、末客まで拝見が終わると正客と末客で「お出会い」にてお茶碗を返します。

亭主は茶碗を見てから一連のお点前動作に入り、茶碗のお湯を建水に捨てたところで、正客が「どうぞおしまいください」と声をかけて、亭主は「おしまいにいたします。」と一声かけておしまいの所作動作に入ります。

続き薄の場合は、亭主が「続けて薄茶でもいかがでしょう」と一声かけてから このあと薄茶手前に入ります、一連の所作で薄茶を客全員が飲み終えて、末客が音を立てて飲み切り、茶碗を亭主に返し、亭主はおしまいの所作に入ります。そして水差し蓋を閉めたところで、正客が「お茶入れ、お仕覆、薄茶器、お茶杓の拝見をお願いします。」と声をかけてからお道具の拝見になります。

亭主は拝見するお道具を清めて畳の定位置に置き、建水、柄杓を「建水帰り」にて水屋に引き上げ、続いてお茶碗を水屋へ戻し、この時は建水帰りではなく帰ります。正客は亭主が「建水帰り」したのを見て順にお道具の拝見、これで客全員が拝見し終えたところで亭主は頃合いを察して襖を開けます。この時は襖を閉めずに水屋より戻り、正客と亭主の問答が始まります。この問答ができるのは正客だけなのです。亭主との知識の駆け引きで、この茶会はなにがテーマなのかを探り、 お軸の由来や作者名、お道具の塗りや由来、作者名、茶碗はどこの窯か、茶杓の作者や銘などを聞きます。次客以下はその問答を聞きます。

これが茶事の一連の流れで、問答が終わると亭主はお道具を拾い集めて茶道口にて亭主、客一同礼にて終わります。

この後、客は茶室を出て帰り支度を整え帰ります。