Shibuya Tourbillon ~19~ ヌーディストの本場、スウェーデンで音楽に酔う。

(2014.08.07)
普段は人口200人ほど、森のエルフが住んでいるような村にこの週末7,000人がやってくる。
普段は人口200人ほど、森のエルフが住んでいるような村にこの週末7,000人がやってくる。
ギャラリー『アツコバルー arts drinks talk』、ライブハウス『サラヴァ東京』のオーナー アツコ・バルーさんのコラム『シブヤ・トゥルビヨン』。熱風に乗ってアツコさんはスウェーデンへ。『ウルクルツ』音楽フェスティバル、そしてパリー東京で開催中の注目の現代美術コレクター展覧会のお話です。
マイア・バルーバンドも登場
氷上の音楽フェスティバル『ウルクルツ』へ。

氷河の上での音楽フェスティバル『ウルクルツ』(2014年7月31日から8月2日)に来ている。

マイア・バルーバンドの私は随行員である。今年の夏はスウェーデンでは珍しく暑い、といっても28度ほど。昔は氷河だったという広大な森の中、白樺の森を通る涼風が心地よく、山から滔々と流れる川の水は清らかで泳いでいてもひんやり。

ウルクルツ音楽フェスは今年で20周年を迎える大きなワールドミュージックフェス。ウルは大昔の意味、クルツはカルチャーと楽しむ、をかけた造語。20年前にあるカップルがこんな原始的な森の中でフェスをやったらおもしろくない?  という言葉から本当にはじまってしまった。普段は人口200人ほど、森のエルフが住んでいるような村にこの週末7,000人がやってくる。ストックホルムのはるか北、スウェーデン中央部のNäsåkerネアスーケルへは、ストックホルムからバスや電車を乗り継いで700km。寝袋とテント持参で来る若者たち、キャンピングカーで来る家族連れ。暑い暑いと川に飛び込む人たちは、素っ裸! 女性でもむだ毛のお手入れなんてセコいことはしない。おお。これぞエコロジー! 我々、マイア・バルーバンドのメンバーも着いた日は服を着ていたが二日目には男性は上半身はだかになり、一部の者は裸足になった、後二日もいたら裸で泳ぎ出すだろう。

ストックホルムからバスや電車を乗り継いで700km。
ストックホルムからバスや電車を乗り継いで700km。
世界から35のアーティストが登場するワールドミュージックフェスにマイア・バルーバンド登場。
世界から35のアーティストが登場するワールドミュージックフェスにマイア・バルーバンド登場。
川辺のサウナ小屋に野の花をいっぱい飾った、シンプルで可憐な結婚式に遭遇。
川辺のサウナ小屋に野の花をいっぱい飾った、シンプルで可憐な結婚式に遭遇。

自然環境を大切にするためチケットは7,000枚しか発行しない。食べ物は地産のベジフード。フェスにありがちなマリファナの香りもここでは皆無。ゴミは皆で拾う。フジロックのファミリー版といったところ。3つの巨大なキャンプエリアの真ん中にあって、子どもたちには楽園だ。吊り橋や木のブランコ、サーカスごっこ。森の中で遊びまくる。

子供エリアのすぐ脇が音楽エリア。プログラムはボリウッド M.O(インド)からタラフ・ド・ハイドック(ルーマニア)、KILA(アイルランド ケルト) 、JAGWA MUSIC(タンザニア)、そして日本からマイア・バルー。と35のライブ。音楽三昧の三日間が過ごせる。

このフェスは出会いと愛のフェスだそうで、毎年ここで会う仲間や出会って結婚するカップルがいるという、そんなカップルはここで結婚式をするのだそうだ。川辺のサウナ小屋に野の花をいっぱい飾った、シンプルで可憐な結婚式に遭遇した。

 

億万長者の心のオアシス。

遠く離れた東京の近代美術館では台湾の個人コレクターによる、ヤゲオ財団コレクション展が開かれている。

台湾の電子メーカーのCEOピエール・チェン氏は学生時代からのアート好き。自分の会社が大きくなるにつれ、買える作品の値段もアップ。今や一枚数十億レベルの絵をたーくさん持っておられる。今回はそれらの美術品が一同に見られる貴重な展覧会だ。日本の国立美術館では到底追いつかないレベルである。


『現代美術のハードコアはじつは世界の宝である展 ヤゲオ財団コレクションより』
2014年8月24日まで国立近代美術館で開催中。

マーク・クイン『ミニチュアのヴィーナス』、2008年 ヤゲオ財団蔵、©Marc Quinn
マーク・クイン『ミニチュアのヴィーナス』、2008年 ヤゲオ財団蔵、©Marc Quinn

ティエブ・メータ『無題(リキシャに乗った女性)』、1991年 ヤゲオ財団蔵、©The Estate of Tyeb Mehta
ティエブ・メータ『無題(リキシャに乗った女性)』、1991年 ヤゲオ財団蔵、©The Estate of Tyeb Mehta
杉本博司『最後の晩餐』、1999年 ヤゲオ財団蔵、©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
杉本博司『最後の晩餐』、1999年 ヤゲオ財団蔵、©Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi
 

もちろん名画を並べました、という低レベルではなくて西洋と中国の現代美術の文脈に沿って、彼の好みも加えてそろえてあるから個人の枠を超えて評価できるまさに「世界の宝」展となっている。ここで近美の学芸員、保坂氏がこれらの展示を通して見てほしいのは美術品の価値、というテーマである。と見た。

例えばマーク・ロスコの絵の価格は、年収300万のサラリーマン1,000年分の給料だ。それでも買えないかも。ではこの絵にそれだけの価値があるあるかといえば、ない。と思う。なぜならたまたま市場でそういう値段がついてしまっただけで『絶対的な』価値ではないからだ。一方人間の一生って絶対的な価値だと思ってしまう。だって人間は生きていればロスコみたいな迫力のある作品をどんどん作ることが(理論的に)可能だ。でも作品はただのモノだ。

「じゃあその絵に払った数十億って何なの?」「それは紙くずでしょう」「そうだ、金は価値じゃない。」「でも?」みたいなことを考える良い機会になるし、普通に傑作がみられます。

 
もう一人の億万長者はパリの赤い家で。

竹橋からまた遠く、パリの『メゾンルージュ(la maison rouge)』(赤い家)で9月21日まで開かれているのがアントワン・ド・ガルベールコレクション展。『壁』(Le mur de la collection Antoine de Galbert)。

メゾンルージュはバスチーユにある美術狂いのお金持ち、ド・ガルベール氏の基金である。彼は元々はグルノーブルで現代美術のギャラリーを開いていたコレクターである。10年前基金を設立、以来、工藤哲巳展やヘンリー・ダーガーなど、テーマや展示法も個人基金だからやれちゃう画期的な企画展をどんどん打っている。

今回の展覧会は彼の個人コレクション1,200点を200mの壁に飾りまくった。有名無名、全部ごちゃ混ぜ、壁という壁に貼りも貼ったり。なんせ展示方法がふるっている、作品の大きさとファイル番号でパソコンに選ばせた展示の順番である。しかも作家名作品名などの説明はなし。知りたい人はアプリをダウンロードしてください、とある。スマートフォンがない人は会場の所々においてある小さいスクリーンをいじることになる。でもそれも面倒なので、ネームヴァリューは意味なし。スターも素人も一緒くたに登場、まるで『サラヴァ東京』の名物オープンマイクイベント「ショーケース」さながらなのだ。宝石を見つけるのはあなた、ということである。

アントワン・ド・ガルベールコレクション展。『壁』
Le mur de la collection Antoine de Galbert

パリの『メゾンルージュ(la maison rouge)』(赤い家)で9月21日まで開かれているのがアントワン・ド・ガルベールコレクション展。
パリの『メゾンルージュ(la maison rouge)』(赤い家)で9月21日まで開かれているのがアントワン・ド・ガルベールコレクション展。
個人コレクション1,200点を200mの壁に飾りまくった。壁という壁に貼りも貼ったり。作家名作品名などの説明はなし。
個人コレクション1,200点を200mの壁に飾りまくった。壁という壁に貼りも貼ったり。作家名作品名などの説明はなし。
スターも素人も一緒くたに登場。まるで『サラヴァ東京』の名物オープンマイクイベント「ショーケース」。
スターも素人も一緒くたに登場。まるで『サラヴァ東京』の名物オープンマイクイベント「ショーケース」。
 

一方ヤゲオ・コレクションのほうは紅白歌合戦、有名人しかいない。この奇しくも対局の愛し方がまさに先に書いた芸術の価値というテーマに答えている。

ド・ガルベール氏曰く、自分にとって作家の知名度や値段は関係ない、友情を感じた人やその作品を集めたのだ、という。そこがとても好感が持てる。ずっと壁を見ていくと、この人の人格や心のひだまでわかった気がしてしまう。それで感動してしまう。彼はアートを集める、見せる、というアート活動をしているのである。

今回6点出展されている日本人作家、クロスさんに紹介されてド・ガルベールさんにお会いしたことがあるが、シャイな感じ、お金持ち臭さが全くない人だった。お金によって生きているのではなくてアートによって呼吸している人なのだ。

壁の中で私も知っている著名なアーチストの作品もあったが、そうではない人たち(実は有名だったりして)の小作や水彩にとても良い物がたくさんあって私には発見する喜びを与えてくれたし、彼のそういう、小さきもの、に対する愛情がわかった。

カタログもこんなに長くなってしまう! ド・ガルベール氏のギャラリストとしての経歴や考え方がカタログに長い文章で語られていた。
カタログもこんなに長くなってしまう! ド・ガルベール氏のギャラリストとしての経歴や考え方がカタログに長い文章で語られていた。
 

彼のギャラリストとしての経歴や考え方がカタログに長い文章で語られていた。美術界のスノビズムや権威主義に対する反発。生活とアートの結びつきなど、とても尊敬できる考えを持っておられる。彼がギャラリーを開いて最初の展覧会が[私の家]、というテーマでギャラリーに居間やサロンを作り、そこにあるすべてが買えるという企画だったという。

生活を囲む物たち。そのすべてに自分との調和を求める、という行為は実は自己探求である。それらの商業的な価値などは関係ないことだ。

その一つの点において台湾のチェン氏も同様である。映画にもなった現代美術コレクター夫婦、ハーブ(彼は郵便局に勤めていた)とドロシーも同じであった。日本人は昔から鉢植えの朝顔や自分で俳句をよむことで自己探求してきたのだと思う。でも他人の作品を身近におくと自己が広がるのだ。自分の自己はちっぽけだから他の人の自己の世界を間借りしてみたくなるのだ。アートはあなたを豊かにし続ける。アートの値段ではなくあなたに与える価値を大事にして欲しい。ギャラリーの店主としてぜひ強調したいポイントです。

アツコバルーでは「二人のホドロフスキー 愛の結晶」お盆休み(8//12-19)をはさんで9月の21日までやっています。

アツコさんのギャラリー『アツコバルー arts drinks talk』

TEL:03-6427-8048
所在地:東京都渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル 5F
営業時間:イベントによって異なる。

入場料:500円(ワンドリンク付)

『二人のホドロフスキー 愛の結晶
アレハンドロ・ホドロフスキー / パスカル・モンタンドン=ホドロフスキー
共作ドローイング展』
会期:開催中~9月21日(日)
料金:500円(ワンドリンク付)
営業時間:水~土 14:00 ~ 21:00 、日~月 11:00 ~18:00
定休日:火
夏季休暇 : 8月12日~19日