『F/T(フェスティバル/トーキョー)09秋』で、価値観ひっくり返る体験を! 「トラック」や「お金」を使う観客参加型演劇、そして現代美術センス輝く『神曲』。

(2009.10.23)

09年10月下旬から約2ヶ月の間、東京は新しい演劇&ダンス体験のるつぼと化すの。まずは『F/T(フェスティバル/トーキョー)』ホームページを御覧ください、お得なチケット購入法もわかるし、動画の予告編も楽しめるわ。
学生によるフレッシュ作品から国際フェス常連の話題作まで、タイプはさまざま。ただし、予定調和なコンサバ系演目は無し。ステージの外にも、お祭りプログラムが盛りだくさん。たとえば、関西が誇る野外劇の雄、維新派による『ろじ式』上演期間(11月3日まで)はにしすがも創造舎(元は中学校)の校庭に屋台村が登場。芝居を観ない人も飲食を楽しめちゃう。日本で誕生した芝居やダンスもパワフルだけど、このコラムでは驚くべき3本の来日公演をショーアップ。

 

 
リミニ・プロトコル、演出:イェルク・カレンバウアー
『Cargo Tokyo-Yokohama』

リミニは3回目の来日だけど、1回目の素材は鉄道模型、2回目の素材はマルクス著「資本論」。そして今回は大型トラック! Cargo(カーゴ)は荷物のことで、テーマは「物流」。荷台を改造したトラックに乗った観客は、荷物になった目線で東京から横浜までツアー。途中でいろんなことに遭遇するドキュメンタリー演劇。
でも、演出家が綿密なリサーチをしているから、どこかに仕込みが・・・・・・。そのうえ、天候や渋滞によって事情は転がる。まさに虚実皮膜のスリリングな旅を、約2時間、体験できるのよ。時にはトラックを降り街の空気を呼吸し、現場で働く人の声を聴く。道中さまざまな出会いを通して、乗車前とは違った視点を獲得できそう。
すでに海外で大評判をとったこのプロジェクト、きわめてユニークゆえ手続きもたいへん。詳細情報は11月中旬までに上記F/Tホームページに発表されます。実施予定は11月下旬からF/T09秋会期終了(12月21日)まで。HPでは演出家のリサーチ日記も読めるわ。

http://festival-tokyo.jp/program/rimini/

 

演出クリス・コンデック
『デッド・キャット・バウンス』

こちらも観客が参加して流れを決める、ライブな金融系パフォーマンス。観客が払ったチケット料金は、リアルタイムでロンドン証券取引所に投資されるの。1公演につき1%の利益を出すのが目標、達成したら利益は観客に現金で山分けしてくれる! 利潤の配当というわけね。刻々と動くマーケットにつれ、毎回、舞台で起こることは変化します。俳優、技術パフォーマー、ミュージシャン(状況に応じて即興演奏)がネットに接続しながら、観客を導く。舞台は英語で進み、日本語で同時通訳されます。何の株に幾ら投資するかなどについて、観客の意見が反映される。そのエキサイティングな感覚は、舞台芸術では滅多に味わえません。熱くなって金の行方を追いながら、観客は経済システムや権力の巨大さにぶちあたる。演出家クリス・コンデックは投機の現場のみならず、金銭欲や感情の渦に巻かれる人間の哀しい性(サガ)に、皆様を直面させちゃう。「カーゴ」と同様、演劇に興味ないかたも激しく揺さぶられる作品よ。

http://festival-tokyo.jp/program/chris/

 

 

ソチエタス・ラファエロ・サンツィオ、ロメオ・カステルッチ演出
『神曲』3部作

まず、ご注意あそばせ(F/Tホームページ参照):この『神曲』は、ダンテ作『神曲』から自由に着想した3部作(地獄篇、煉獄篇、天国篇)。14世紀の古典をイメージの源泉とする今日のドラマなの。各部ごとに、上演される期日も場所も違います。天国篇はインスタレーション(設置芸術)形式。煉獄篇には刺激の強い表現があるから、16歳以上の観劇をおすすめしますわ。

ディープな世界観をアーティスティックに表現するワザが抜群なの、ロメオって。美しい聖母像で知られるルネサンスの画家、ラファエロを劇団名に冠したように、美術をこよなく愛しています。F/T09春に観た『ヘイ・ガール!』で、大ガラスが何枚も宙で粉々に割れた瞬間のテンションは怖いほどハイだった。「また見つかったわ! 何が? 永遠よ」と閃く気分はA.ランボー。視聴覚も皮膚感覚も非日常に飛ばす力は、今回の『神曲』3部作にも健在。

第1部・地獄篇では森に迷い込んだアーティストが、自分の罪と裁きを問いかけます。ステージには多彩な生命と死、創造と破壊が現れます。「地獄」とは何か、そこからの脱出は可能か? 人類の果てしない問いがふり積もるなか、回答の鍵として現代アートが登場する場面は、あっと驚く展開です。
http://festival-tokyo.jp/program/inferno/

第2部・煉獄篇の煉獄とは悔やむ罪人の魂が清められる場所。それをロメオは日常生活の場である家庭に設定しました。豊かで清潔な家に潜む秘密の匂いが、観客の胸に不安なハーモニーを奏でます。仮面、バランスとサイズのおかしい人体などのビジュアルが、「良き家族」の闇を象徴するの。
http://festival-tokyo.jp/program/purgatorio/

第3部・天国篇は、美術を通して味わう芝居ではない演劇、とでも申しましょうか。果たして、観客の魂は救われて清らかな愛に満たされるのでしょうか? この「天国」も、観る人によって印象がまったく異なるでしょう。
http://festival-tokyo.jp/program/paradiso/

F/T関連企画「F/Tユニバーシティ」は、早稲田大学とF/Tが共同で企画する特別講
義。ロメオはじめ、世界的アーティストの話を聴くチャンス! 申し込みはウェブか
ら。
http://festival-tokyo.jp/special/ftft-1/