土屋孝元のお洒落奇譚。卒展を見て、懐かしの『大浦食堂』『キャッスル』に想いをはせる。

(2011.02.15)

先日、芸大(東京芸術大学)の卒業展覧会
『第59回東京藝術大学卒業・修了作品展』
を見てきました。

知らない方達のために説明を。
芸大は美術大学でもあるので、
卒業時には卒業論文ではなく、
作品を作り先生方の評価を受けます。
一部、芸術学科、建築科には論文もありますが、
たいていは作品での評価になります。
デザイン科の大学院生に知り合いがいて、
それで見にいったのですが、
久しぶりに芸大の教室にも入りました、
懐かしいものです。

校内の植物もかなり大きくなり、
見たところ何十年?100年? という樹木もあり、
都心とは思えないような感じです。

僕が学生時代に聞いたことですが、
国立大学で一番植栽が多い=豊富なのは北大、
たしか、次が東大でその次が芸大だと。
順番は今となっては記憶の遥かかなたです。
まあ、そのくらい植栽が多い=豊富だという事ですね。

美術学部の食堂『大浦食堂』、
音楽学部の食堂『キャッスル』も、
昔とは少し変わりましたが、
全体から受ける印象は変わらず
美校、音校の食堂というままでした。
美術学部を通称、美校。
音楽学部を通称、音校と呼びます。

『キャッスル』のAランチ。 
 ©Takayoshi Tsuchiya

余談ですが、学生時代、
お金に余裕があると
『キャッスル』でランチの定食を食べたものです。
これが昔ながらの洋食屋さんの味でおいしいのです。デミグラスソースのかかったハンバーグや
ミートローフは懐かしいですね。

余裕がない時というか、
普段の時には『大浦食堂』で
豆腐ともやしのバター焼き(これが一番思い出深いので)などを食べていました。

『キャッスル』へ出かけていくと、
音校の女子学生達を見ることができ、
ご飯がより美味しく感じたりもしたものでした。
何故か音校の学生はモノトーンの服が多かったように思います、
今も変わらないのかも・・・・・・。

『大浦食堂』の豆腐ともやしのバター炒め。 
 ©Takayoshi Tsuchiya

オーケストラやコンサートでもモノトーンですから その印象かもしれません。

僕たち美校生はツナギに手ぬぐい姿で、
授業によっては、頭から埃まみれのような状態です。

鍛金(やに台という台に金属の板をのせ、
金属を叩いて造形を作る技法、
動物や人体像などまでも叩いて造ります。)や鋳金(砂で形を作り、
鋳型に金属を流し込み造形を作る技法、鋳物ですね。)
陶芸、など、自分がとった講義によりいろいろですが、埃まみれにはなることは同じですね。

その当時、日本の伝統芸能の琴、
三味線、鼓、謡曲などの別科があり、
家元の子女が通っていて、
夏休み前の暑い時期には
浴衣の着流し姿で三味線を持った女性達がいたりしたものです。

三味線には、太棹、中棹、細棹と違いがあります。
津軽三味線は太棹、歌舞伎で使うのは細棹、常磐津、清元は中棹、となります。
なぜ詳しいかというと
同級生の三味線科の友人に学内演奏会での記念写真を撮って欲しいと頼まれ、
撮ったことが何度かあるからです。

邦楽科の着流しの女性達。 ©Takayoshi Tsuchiya

なぜか、着流しの彼女達は
『大浦食堂』で見かける事が多いのです、
が……。

お互いに美校は音校に、
音校は美校に憧れがあったのかもしれません。

話を戻し、さて、作品を見て、一番印象深かったのは、保存修復科の日本画。
曾我蕭白(そがしょうはく)の写しの墨絵屏風絵模写、現状模写というそうです、
いまの保存状態のまま、破れや、剥離、墨の劣化、
かすれなどを正確にまったく変わりなく写し取る。
凄い技術です。
この蕭白の署名の文字の癖までも、
完全にコピーしているのです。
こんな作品なら一枚購入したいと、
コレクター魂が動きました。

そこにいた院生に聞いたところ、
彼女は書道をやっていて、
蕭白の癖や筆運びを練習してから本図に書き込んだとか、
各科を見て女性が多い事にも感心しました。

以前、友人の教授から
入試が変わってから男が少なくなってきたと聞いたことはありました。
平均して各教科強い女性が有利なのかも知れません。

僕たちの頃は、
一次試験が石膏デッサンでこれに受かると二次試験です。

平面構成と立体構成の試験、
これに合格して初めて学科試験でした。
毎年、20から40倍の間の人気でした。
実技優先だったので浪人生の男にも受けやすかったのだと思います。

先ほどの院生の先生、教授は、
デザイン科の同級生ですが僕よりかなり年上です。

保存修復科は日本画以外にも
仏像彫刻、金工、と素晴らしい展示が多かった。

デザイン科、工芸科の学科卒業生、院の卒業生の作品にも、面白いものが多く、自分が芸大の卒業生というのを忘れて見ることが出来、楽しめました。