女性のための、元気になれる俳句62 選・如月美樹 コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ 鈴木しづ子

(2009.10.07)
 

この句を見たとき、通常、「コスモスがやさしい風に揺れていた、それを見ていたら死ぬなんてことはできないよ」という意味だととらえる。作者は死にたいと思っていたのか。それはなぜなのか。はかなげに見えるコスモスが風に揺れるさまに生命を見たのだろうか……という風に解釈していくのだ。

だが、この作者のほかの句、たとえば「ダンサーになろか凍夜の駅間歩く」「堕ちてはいけない朽ち葉ばかりの鳳仙花」「黒人と踊る手さきやさくら散る」「花の夜や異国の兵と指睦び」「夏みかん酸つぱしいまさら純潔など」という作品を見た後では? そして、作者が1919年、つまり大正8年生まれで、失踪ののち未だ生死不明とも、29歳で服毒自殺したとも伝えられていると聞いたら? どんな人物でどんな人生だったのかほとんど残されていないが、肖像写真を見るとスカーフを頭に巻き付けている彼女の姿はとてもモダンだ。ちなみに掲句は、恋人だった黒人米兵が戦死したという知らせを受けてのものだという。

一句を前にした時、その背景に思いを馳せながら鑑賞するのもいい。作品は作者の人生と分かちがたく結びついている(かといって、いたずらにその作者の人生のみに着目するのも避けたいけれど)。掲句初出『指輪』(1951)