鬼頭舞の放課後美術館 – 2 - 素材に対する思い込みや価値観から開放される『レベッカ・ホルン 静かな叛乱 鴉と鯨の対話』展。

(2009.11.27)

レベッカ・ホルンの日本で初めてとなる個展、『レベッカ・ホルン 静かな叛乱 鴉と鯨の対話』がただいま清澄白河にある東京都現代美術館にて開催中です。

 

彼女はドイツを代表する現代美術家で、現在60歳半ば。20代のころよりドイツの現代美術の祭典、ドクメンタに出展し、現在に至るまで立体作品や映像作品、インスタレーションに至るまで多岐にわたって意欲的に制作活動を続けてきました。そのパワフルさゆえに制作時に用いていた合成素材により肺を患い、療養生活を強いられたほど。(しかしこの逆境をも制作スタイルの変化の契機にしてしまうのだからすごい!)

記者会見でのレベッカ・ホルン(中央)。photo / Yuji Komatsu

このようにパワフルなレベッカですが、彼女の作品はそれとは裏腹に非常に繊細でミニマル。今回の展覧会でも数多く出品された立体作品は、日常にありふれた素材(双眼鏡、フィルム、靴、ナイフなど)が機械によって一定の期間をおいて決まった動きを繰り返すといういたって単純な仕掛けになっています。

互いに向き合うナイフ。

作品も小規模のものが多く、しかも仕掛けは見てくださいと言わんばかりに露出され、そのミニマルな造形が一層強調されます。しかしこうした身近な素材はレベッカの加えるひと手間によって、全く非日常的なものに変貌するのです。そこにあった身近なものは本来備わっている機能を放棄し、新たな用途を与えられます。私にはそれは一つの「解放」のように思われました。

そしてこの「解放」によって個々の素材は自由を得ているのではないか、そんな風に感じました。作品の創造主であるレベッカは、作品に無理やり施しを加えながらも自由を与える肝っ玉母ちゃんのような、パワフルかつ母性溢れるある種の母神的存在とも捉えられるのではないでしょうか。そしてこうしたレベッカにより「解放」された作品を鑑賞している私たちもまた、素材に対する思い込みや価値観から解き放たれることで自由になれるのです。

さらに注目してほしいのが音と影。レベッカは作曲家とコラボレーションして作品を制作するなど音楽に対しても非常に関心を抱いている作家です。そんな彼女は作品のモチーフにピアノやヴァイオリンなどの楽器を用いるだけでなく、彼女の作品の多くはノイズを発しています。それは機械の「ウィーン」という音であったり、鳥が羽ばたく「バサバサ」という音であったり身近なものではありますが、美術館という空間ではまた違った趣があります。いつもはうるさいと感じるこうしたノイズが緊張感を生み出したりするから不思議です。

レベッカの描く絵画作品も筆致がはっきりと残り、キャンヴァスと筆とがこすれあう 時に生じるノイズまでもが聞こえてきそうです。またホワイトキューブの展示室内では立体作品の影をはっきりと見ることができます。実体を離れ、拡大された、時折うごめく黒い影は、まるで生き物のようです。このようにレベッカの作品はそのミニマルな造形とは裏腹に、いろいろな視点から楽しむことができるのです。いや、これはミニマルさゆえに楽しめるのかもしれません。

レベッカは詩作も盛んに行っており、会場内の壁に詩が書かれている他、個々の作品につけられているタイトルもまた独創的で面白いのでぜひチェックしてみて下さい。そのほかにも床に座り、リラックスしながら鑑賞する映像と立体作品が融合した幻想的な作品や1Fで上映されている長編映像作品(どれも結構なボリューム!)など、本当にたくさんの作品が展示されており、一日中楽しむことができます。

妹島による空間デザインで展示された川久保玲の服。

パワフルなレベッカに会いに現代美術館に出かけてみてはいかがですか。さらにちょうど同時開催されている『ラグジュアリー:ファッションの欲望』展では日本を代表するブランド『コム デ ギャルソン』のデザイナー、川久保玲、空間デザインを手がけた建築家の妹島和世とパワフルな日本の女性の作品にも出会うことができ、今まさに現代美術館は女性のパワーで満ち溢れています。

 
他にも『スラムダンク』の作者である井上雄彦さんによるエントランス・スペース・プロジェクト、また常設展では日本を代表する現代美術家である岡崎乾二郎の特集展示をはじめ現代美術館では盛りだくさんの企画を行っており、本当に丸一日楽しめます。

 

放課後美術館、ちょっと寄り道 -2-

食いしん坊の私としては、2Fにあるミュージアムカフェでは珍しいベトナムカフェ、『Cafe Hai』も見逃せません。地下の『CONTENT』ではお料理だけではなくカトラリーや食器の販売も行っています。思わず手にとって読みたくなるような本がたくさん並べられたミュージアムショップ『NADiff』や展覧会のカタログも豊富にそろった図書室など施設も充実していて、何回も足を運びたくなる美術館です。芸術の秋ももう終わりに近づいてきましたが、ちょっと時間が空いたら東京都現代美術館を訪れてみてはいかがですか。

 


『レベッカ・ホルン 静かな叛乱 鴉と鯨の対話』

会期: 2009年10月31日(土)〜 2010年2月14日(日)

会場:東京都現代美術館 企画展示室 3F,1F

開館時間:10:00-18:00(入場は 17:30 まで)
月休
(但し 11月23日、1月11日は開館)、11月24日、12月28日~1月1日、1月12日お休み

主催::財団法人東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 ドイツ文化センター、ドイツ対外文化交流研究所

助成:朝日新聞文化財団

協賛:資生堂 日本ロレックス株式会社

協力:日本航空

観覧料金:一般:1,200 円ほか

*企画展のチケットで MOT コレクションもご覧いただけます。

*同時開催『ラグジュアリー : ファションの欲望』展との共通チケット有。一般:1,800 円ほか