土屋孝元のお洒落奇譚。「東洋の白いやきもの」展を見て、
伊万里、デルフト、李朝……を想う。

(2012.11.12)

白磁と仙がい義梵(せんがいぎぼん)

先日、出光美術館にて「やきものに親しむIX 東洋の白いやきもの―純なる世界【併設 仙がい】」展を見ました。同時に展示してあった仙がい義梵(せんがいぎぼん)の墨絵は禅語の教えをわかりやすく表現していて、それでいて絵画表現技法的にも素晴らしくまさに軽く描けているのに上手く達者な作品群でした。この仙がい義梵(せんがいぎぼん)和尚は生涯を黒衣で過ごし紫袈裟を固辞したという逸話が残っています。

今まで、いろいろな美術館にて何点かは見てきたのですが、これだけまとめて見れることはなかったでしょうね。作品群の中でも一番有名なものは、丸、三角、四角でしょう。

この記号はなかなか書けそうで書けない書です、自分でも何回かトライしてみましたが、やはり、かなり難しいものです。

ご興味のある方はこの仙がい義梵(せんがいぎぼん)和尚の事をもう少しご自身でお調べ下さい。

人気の白磁。
伊万里、有田の違いは?

さて、白磁は中国から始まり、朝鮮を経て日本へと入りました。

最近、白磁が人気のようで、よく街でも見かけるのですが、現代のインテリアにもマッチして、飾りやすいのかもしれません。ある骨董店ではコンクリートに白磁の質感はとてもマッチしていました。僕も高いものではないのですが、李朝白磁を持っています、茶碗というには少し大ぶりで、茶事には、どうでしょうか、全羅南道の何処かで見つかったという発掘ものですが、さて、本当のところは どのくらいの価値のものなのかな。

師匠に見てもらったところ、「箱書きに碗と書けばいいんだよ。」と言われました。

日本の白磁と言えば、伊万里や有田、鍋島、薩摩もありますか、薩摩(白薩摩)までいくと装飾的すぎるのであまり好みではないですね。伊万里や有田では絵付けをしているので白磁は少ないような気もします。

江戸時代にはヨーロッパへの輸出品としてかなり多くの陶磁器が海を渡りました。伊万里や有田と一般的には言いますが、この区別がわかりにくいと思いますので ここで簡単に説明します。

江戸時代には有田で焼かれた磁器が伊万里の港から輸出されたので、古伊万里「コイマリ(Koimari)」と呼ばれたそうです。有田、伊万里の最盛期の17世紀ごろの中国では明朝から清朝に代わる混乱期で景徳鎮窯の生産が減少して海外へあまり出なくなり、その代わりを探していたオランダ東インド会社を通じ、ヨーロッパやアラビアなどへ輸出されました。

有田も伊万里も秀吉の朝鮮出兵時に鍋島氏が朝鮮より陶工を多数連れて帰り、その後 国内で磁器用粘土の発見もあって、中国の景徳鎮窯の模造から始まりました。


伊万里 。『古道具その行き先 -坂田和實の40年-』より。何も文様のないお皿は初めて見ました。

絵柄、絵付に斬新な意匠
鍋島。

もう一つ磁器と言えば鍋島ですが、この窯は藩窯で有田、伊万里から優秀な陶工を集めて主に国内の大名や将軍家への贈答用に作られたものですね。以前にサントリー美術館にてこの鍋島を見たことがありますが、絵柄、絵付に斬新な意匠があり、僕もたいへん勉強になりデザインの参考にもなりました。やはり藩窯は精度が違います、伊万里や有田が技術的に劣るということではないのですが……。

今でも残る 古伊万里、古九谷、金襴手、柿右衛門様式、などは素晴らしい職人技です。

この有田、伊万里はヨーロッパへ輸出されて、当時の王侯貴族の間では「白い金」とも呼ばれて珍重されたのです、それはヨーロッパにおいては白い磁器がまだ焼けなかったためで、この当時ヨーロッパでは磁器は茶色いちょうど今の日本の急須の様な焼き物だったのです。後のポーランド王がこの当時、国家予算が傾くほどを購入し、オランダ東インド会社の一番の顧客となり、景徳鎮、有田、伊万里などをコレクションしていて、その当時ザクセンで評判だった錬金術士を捉え、研究をさせた結果、白い磁器が完成したようです、日本から遅れること100数十年、今でも有名なマイセン窯の完成です。


デルフト。『古道具その行き先 -坂田和實の40年-』より。金継がいい味をだしています。

松濤美術館『古道具その行き先 -坂田和實の40年-』にて発見
デルフト、李朝、古伊万里の白磁の違い

僕もだいぶ昔(25年前くらい)に芙蓉手の文様が好きでサイズ違いのお皿を揃えました、前にも少しお話したかと思いますが、昨年 洗っている時に流しに落として割れてしまったのです。インターネットで窯元を調べて同じサイズのお皿を購入したところ、色といい質感といい、同じモノが届きました。それはすばらしい職人の力だと思います。何年経っても、同じ文様の同じサイズのお皿が買える、これは実用品としての磁器には必要な事でしょうね。

金継ぎも良いのですが、割れ方にもよりますから格好良く割れたら金継ぎしてさらに完成度が増すようにしたいと思います。

これは補足ですが、いま、松濤美術館にて開催中の『古道具その行き先 -坂田和實の40年-』展(11月25日(日)まで)を見てデルフト、李朝、古伊万里の白磁の違いを確認しました。それぞれにその良さがあります。

僕は古伊万里の文様のない白磁の皿を見たのは初めてでしたが、繊細さがやはりいいものです。デルフトにはちょっと無骨な印象もあり、普段使いされてきたモノの良さを感じました。李朝は凛として佇まいが格好良いですね、茶人に愛されて来たのも頷けます。坂田さんの何気ないモノやゴミに近いモノから選ぶ独特の美意識に感激したのですが、単に白磁でもこれを選んだのにはわけがあるというのが少しわかったような気がしました。坂田さんの審美眼との違いは、さてどうなのでしょうか。


李朝壷。『古道具その行き先 -坂田和實の40年-』より。やはり形と肌の質感が良いですね、僕の李朝茶碗はもっと青いのです。