永井愛作・演出『かたりの椅子』は、背筋の凍る喜劇。あなたは周囲の圧力に負けず、言いたいことを自由に言える?

(2010.03.31)
屋外に展示した椅子に市民がすわり街について語る、参加型アートを役人が妨害。プロデューサー(竹下景子)とアーティスト(山口馬木也)の関係は次第に変わっていく。 撮影:林渓泉

エビぞって大笑いしながら、恐怖にゾクゾク……世にも稀な体験ができる舞台が、劇団二兎社公演『かたりの椅子』。ホラーじゃないよ、ごく日常的なできごとに潜む不気味なものに震えちゃうの。日ごろ私達がナニゲにやり過ごしている問題が、面白おかしいドラマからググッと迫ってくるんです。仕事で忙しい人も絶対、観て損しない!

物語に登場するのは架空の街、可多里市で催されるアート・フェスティバルに関わる人々。アーティストと市民がふたつの企画をプロデューサーとともに進めるところに役所が介入して、もめごとの嵐に。ひとつ目の企画「かたりの椅子」は、市内に設置した椅子に市民がすわって、町のありかたを自由に語るパブリック・アート。ふたつ目は、米軍基地をめぐる住民闘争もふくめた街の歴史を市民が演じる芝居。その両方に役所側は反対するの。「家族で楽しめる明るいイベント」という表面的なレベルのアート・フェスを求める文化財団理事長は、どこの街にもある暗い面が浮上するのを警戒して、企画を変えさせようと暗躍。飴と鞭の圧力が次々とかけられるうち、関係者たちは揺れて、やがて大事件が……。

この芝居で市民に圧力かけるのは役人。だけど、オープンな議論より根回しを好み、責任を避ける上昇志向の小心者。こういうキャラは、会社にも学校にも親戚にもいますよね。根回しパワーに屈し、「ま、いっか」と本当の思いを隠して「みんなに合わせる」経験は誰にでもありそう。権力ふりかざす相手と戦うのは大変だし。

『かたりの椅子』の役人と市民のやりとりは、あらゆる共同体が圧力源となって、個人の自由な発言を封じる状況を示します。個々人も面倒を避けていると、息苦しい環境を固める一因になっちゃうから、ご用心。事なかれ主義って、本当は凄くリスキーだったのね。楽しみながら、今ここにある危機を避ける知恵がつく、役に立つ演劇です。

硬直した事なかれ主義の役人と、自由な発想で新たな創造をめざすアーティストは対立する。生活を背負った市民たちは……。 撮影:林渓泉

 
 

『かたりの椅子』

作・演出:永井愛
出演:竹下景子/山口馬木也/銀粉蝶/大沢健/内田慈 
日時:2010年04月02日(金)~2010年04月18日(日)
会場:世田谷パブリックシアター Tel. 03-5432-1526
ポスト・パフォーマンス・トーク:4月3日19時の回には永井ワールドを「教科書」と仰ぐ堤幸彦監督、7日19時の回には竹下景子が、永井愛と語ります。 
問合せ:二兎社 Tel. 03-3991-8872(平日10:00~18:00)
http://www.nitosha.net/