土屋孝元のお洒落奇譚。雪の日に『ルドン展』を
三菱一号館にて見る。

(2012.03.08)

雪景色で国籍不明の東京。

久しぶりに東京にも雪が降り、電車も遅れ街の景色も一変して不思議な丸の内風景です。個人的に雪の降る景色が好きで、子供の頃は朝起きて雪が降っているとワクワクしたものです。

今日の丸の内は昨夜夜半からの雪で道路も植え込みも珍しく雪一色で、丸の内かニューヨークかロンドンの街角かわからないほどです。看板や信号など無ければ本当にどこの国? といった感じでしょう。

昔、この辺りは1丁目倫敦とも呼ばれたそうですが、それもよくわかる光景です。ふとタイムスリップしたような錯覚に陥ります。赤レンガで造られた三菱一号館も雪景色になじんでいます。

近くの東京駅駅舎のステーションホテルも創建当時の姿に改装中で出来上がったら、ぜひ宿泊してみたいと思いますが、予約が難しいのかな。

細密なデティール、溶ける輪郭に惹きこまれ。

さて、本題の、ルドン。

幻想版画集や花の絵で知られた画家で同世代にはモネ、ルノワール、など印象派の画家達がいて外の光、外光の美しさを表現していました。

この時代、フランス世紀末にはブルジョアと呼ばれる資産家階級の台頭や、耽美主義やオカルティズムなども流行。1900年のパリ万博に向けてエッフェル塔やグランパレ、アレクサンドル3世橋などが建築され、現在のパリの原型はこの時期の都市計画でほぼ造られたといわれます。

科学技術の進歩も目覚ましく、気球が出現し実戦にも使われていた時代です。普仏戦争では気球からフランス軍がプロシア兵の略奪行為を非難するビラなどをまいていたともいわれます。

映画が生まれたのもこの時期です。

喧騒と混沌とした時代を背景に、ルドンはその初期、自分の内なる世界を追求して黒の作品を発表。最初の版画集では「ノワールのルドン」とも呼ばれたリトグラフ作品群に見るべきものがあります。

中でも目玉の怪物は気球をモチーフに出来上がったともいわれています。余談ですがこの目玉の怪物は後に水木しげる作『ゲゲゲの鬼太郎』の目玉のおやじに影響を与えたとも言われています。

ルドンはその後、色を使ったパステル作品、ギリシャ神話に題材を求めた作品群、花のシリーズを描きました。

そして、今回の展示で一番のメイン『グラン・ブーケ(大きな花束)』に至ります。

この作品はコレクターだったドムシー男爵のお城の食堂に掛けられ、門外不出の作品でした。
この食堂を飾る絵の制作依頼を受けた時に、男爵より暖色系の色を使ったらどうかと言われても、この『グランブーケ』だけにはブルーの花瓶を描いています。パステルの色の再現性を考えてのことでしょうか。今でも全く劣化する事なく描かれた当時の色のまま保存されていました。

ルドンの「花シリーズ」は実際の植物と幻想の植物が描かれ、細密なデティールを見ると輪郭が消えて、内と外の境が曖昧になり見る者を惹き込みます。

油彩の風景画と、横顔の作品群の輪郭線。

僕は今回のルドン展の中で、油彩の風景画と横顔の作品群の輪郭線に興味を持ちました。ノルマンディーの風景の描写力は素晴らしいものでしたし、パステルやチョークを使い優しい線で描かれた女性の横顔や想像上のスフィンクス像などの作品に新しい発見がありました。

今までルドンは花とノワールの版画集のイメージが強かったので、僕にとって新しいルドンでした。

展覧会を見終わり同じ建物内のカフェ『Café 1894』にて休憩です。このカフェを含め、三菱一号館は明治時代創建当時の赤レンガで再現されていて、館内の設計も当時のまま変わらないようです。

ルドン展はじめ他の展覧会を見ている時に、建物の強度を保つためか、展示室が小さく区切られているのが少し気になりました。まるで迷路のようですが原画を光や外気から守るためにも必要な事なのでしょう。

かの『グラン・ブーケ』の部屋は真っ暗で背後から光を当てて原画を浮き立たたせていて、ブルーの花瓶や花達の発色は見事でした。

カフェのオープンテラスでひと休み。

カフェに戻り、この空間の広がりは見事なものです。

床から天井まで赤レンガの外装内装で。三階分くらいはある天井までの吹き抜けは、無垢の床材のためか、音や声がほどよく反響し独特の雰囲気を醸し出しています。

雪で外の音も遮音され人出も少なくカフェのテーブルも空いていてゆっくりと休めます。これくらいの人出ならこの空間にちょうど良いでしょう。

以前、何かの展覧会で訪れた時、人出の多さとその人々の話し声が反響してかなり不快に思った記憶がありました、でも、そんな時には建物裏にある庭園で過ごすのがオススメ。

天気の良い時期にはオープンテラスで食事もできます。屋外彫刻と立体的な植栽が空間としても心地良く落ち着ける場所ですね。

三菱一号館美術館
(Café 1894とも3/5(月)~4/5(木)の期間、リニューアル工事のため休業。『グラン・ブーケ』は9/8(土)〜再び公開される予定。)