土屋孝元のお洒落奇譚。『根津美術館』にて、
国宝『那智瀧図』を見る。

(2013.02.05)

日本の絵画史上、瀧を描いている絵は
この一点のみ。

年が明けて少し厳粛な気持ちで国宝『那智瀧図』を見る。

この絵を見るのは、3年前の『根津美術館』新装オープン以来になり、今回の展示は、ゆったりとして、照明も少し明るくなったような気がするのは気のせいだろうか。

前回見た時より絵の細部までも良く見えて、個人的に内容も理解しやすいと思う、たぶん、胡粉?で描かれた那智の瀧の表現が龍のようにも見えたりしてさらに神々しく感じるのかもしれない。

この那智瀧図は亀山天皇が那智へ行幸した際に、卒塔婆を建立したというのが描かれていて、天皇が京へお戻りになられても、この絵にお参りをしていたのかもしれないなと想像ができるものだ。

この那智の瀧へは代々の天皇、上皇、法皇が行幸していて、なんでも、縁起 仁徳天皇の御代 (約1660年前)修禅の妙を得た裸形上人(ラギョウショウニン)が、那智山を神仙の 霊場と定め、それから那智熊野への行幸は 、宇多天皇1回、花山法皇1回、白河上皇12回、鳥羽上皇23回、崇徳天皇1回、後白河 天皇33回、後鳥羽天皇28回、後嵯峨天皇2回、亀山天皇1回、又女院の熊野詣は100 回程をかぞえ、一般の人々の詣る数は、「蟻の熊野詣」 といわれるほどの賑わいだったようです。

日本の絵画史上、瀧を描いている絵(個人的には浮世絵:葛飾北斎の諸国滝廻りもすて難いのですが、) は数々あれども、那智の瀧を描いているのはこの一点のみで、唯一無二の存在、国宝たる由縁だと根津美術館の方、曰くだそうだ。

『那智瀧図』(日本・鎌倉時代 13〜14世紀)より。良い絵です、簡単に描くのは難しい。

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日本には昔から、目に見える自然を敬うと言う教えもあり、修験道。役の行者(今回の展示ではこの役行者像も展覧されています。)が開祖とされる自然山岳信仰もあり、これと渡来した天台宗が融合されて、天台密教のこの教え、「山川草木悉皆成仏」サンセンソウモクシッカイジョウブツ、山も川も草や木も仏が宿り、仏がそこここにおわし、みな人間と同じに成仏するのだよと教えられてきて、日本人は育って来たので、人には優しいのかもしれないと思うのですが、さてどうでしょうか。最近はこれも一概には当てはまらないかもしれないと思うこの頃のニュースです。

これほどに美しい
自然のある国 。

この元日の朝、テレビを見ていたら、世界中を撮影して来て、 これほどに美しい自然のある国はない、と山岳・自然写真家 白川義員(シラカワヨシカズ)氏が話していたのを思い出した。

氏曰く、日本の作品集を作るにあたり作品を整理してみたら、これまでは山を多く撮影してきた自分が、海岸線の美しさや瀧などの美しさを改めて感じ、海、川の方が多くなってしまいました。と。

欧米でも有名な現代美術家の杉本博司さんの作品にも、この那智瀧図と同じ構図の8X10カメラで撮影された写真、杉本さん所蔵の平安期の表具に仕立てられた 軸装作品の素晴らしいものがあり、並べて見てみたいと思うのは僕だけだろうか、そういう展覧も面白いかもしれないなと思う。

仏様のお顔を何も考えずに ぼーと見ていると……

話を変えて、この『根津美術館』には各時代の仏様もあり、中国の北魏や北斉、唐時代、飛鳥、平安時代、この時代によるお顔の変化を見るだけでも楽しいものです、仏様のお顔を何も考えずにぼーと見ていると、友達の誰々さんに似ているなとか、小学校の同級生に見えたり、たぶん、自分の中にあるイメージで様々な想像が湧いてくるのでしょう?

みんな優しいお顔で思わず微笑み返してしまう。ふらっと一人で出かけて仏様との時間を作るのも、普段の忙しない時間からリセットするにもいいものだなあと思う。お茶道具のコレクションも素晴らしいし、お庭を散策するだけでも楽しいので、この近くに打ち合わせがあり、来る方には、ぜひともお勧めしたい。

だいぶ昔、もう二十数年前になりますか、プレゼンの為の撮影や、予算の無い仕事でも快く引き受けてくれた、カメラマンの故稲越功一さんと初めて打ち合わせをした時に、「土屋くん、京風天ぷらなんて、どうかなあ。」と言われて、この『根津美術館』の天ぷら屋さんに入ったことがあったなと懐かしく思い出しました。この天ぷら屋さんは、いまでも変わらずに美術館の前にあり、あの胡麻油の江戸前もなかなかすて難いのですが、さっぱりとお塩で食べたい時に出かけています。

『北斎漫画』よりイメージ、役の小角とも。山伏修験道の開祖です。
コレクション展
新春の国宝那智瀧図
仏教説話画の名品とともに

会期:2013年1月9日(水)~2月11日(月・祝)
会場 :根津美術館 展示室1・2(東京都港区南青山6丁目5−1)
電話:03-3400-2536
休館日 :月
開館時間 :10:00〜17:00(入場は16:30まで)
入場料 :一般1000円、学生[高校生以上]800円
*中学生以下は無料

会場 :根津美術館 展示室1・2