土屋孝元のお洒落奇譚。「燕子花図」屏風と「八ツ橋図」屏風
見比べ、日本の伝統色を思う。

(2012.05.11)

50代の光琳による、
「八ツ橋図」屏風は上手い!?

本日、根津美術館『KORIN展 国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」』展にて光琳の燕子花図屏風と八ツ橋図屏風を見る。

「燕子花図」屏風は根津美術館収蔵の作品でかたや「八ツ橋図」屏風は、海を越えたメトロポリタン美術館よりの里帰り、この二点が並ぶのは、大正時代に開かれた日本橋三越にての光琳没後200年展以来約100年ぶりのことだとか。この時の図録によると2点展示されていたらしいのですが、並びだったのか否かは定かではありません。

二つの作品が描かれたのは光琳40代半ばと50代ですが、間には約10年の隔りがあり、二つを見比べるとやはり50代に描かれた「八ツ橋図」屏風は上手いというか、完成度が上がり洗練されているように見えました、

同じ題材の燕子花の表現でも「八ツ橋図」屏風の方が植物全体のシルエットが細くなり、繊細な燕子花の表現になり、花も分かりやすく 描かれた色も明るくなり、葉の部分の緑青も色落ちせずに残り色鮮やかで 、画面中央に架かる八つ橋は墨のたらし込みによる表現で完成度も高く光琳作品の「 紅白梅図」屏風と同じく画面中央に別次元のモチーフを描き画面全体に緊張感を持たせる光琳独自の手法がいかされています。

屏風の金箔についても「八ツ橋図」屏風の金箔のほうが明るくクリアな金色で、これは金箔の素材によるものなのか、燕子花図屏風の金箔の劣化による色の変化なのかは定かではありません。これも二枚の屏風を100年ぶりに並べて見て初めてわかったことでしょうか。

根津美術館所蔵の国宝『燕子花図』。40代の光琳が描いた杜若はシルエットの表現で花にはディテールがあまりありません。
日本の伝統色、ご存じでしょうか?

燕子花の葉の部分の「緑青」という色は日本独自の色で他にも緑を表す色には、以下があります。
緑色・翠色(すいしょく)/浅緑/深緑/若緑/老緑(おいみどり)/暗緑色(あんりょくしょく)/常盤緑(ときわみどり)/千歳緑/青竹色/若竹色/老竹色/草色/若草色/若葉色/鶸色(ひわいろ)/鶸萌葱(ひわもえぎ)/萌葱色・萌黄色・萌木色/苗色(なえいろ)/若苗色/抹茶色/柳葉色(やなぎはいろ)/裏葉柳(うらはやなぎ)/柳茶/木賊色(とくさいろ)/苔色/松葉色・松の葉色/青磁色/錆青磁(さびせいじ)/白緑(びゃくろく)/緑青(ろくしょう)

この色の違いはわかりにくいと思います。

以下は大まかな色の括りです。

(花の色、果物、染料の色がかなりあります)

紫系の色
紫/濃紫・深紫・濃色/中紫/薄紫・浅紫・薄色/若紫/古代紫(こだいむらさき)/江戸紫/京紫/似紫(にせむらさき)/二藍(ふたあい)/半色(はしたいろ)/桔梗色(ききょういろ)/紺桔梗/紅桔梗/錆桔梗/菫色(すみれいろ)/菖蒲色/杜若色(かきつばたいろ)/藤色/薄藤/藤紫/紅藤/薄紅藤/藤鼠(ふじねず)/楝色・樗色(おうちいろ)/茄子紺/紫紺・紫根(しこん)/鳩羽紫(はとばむらさき)

桜餅。緑の色の微妙な変化があり、表現しています。
赤系の色
赤/紅色/紅/深紅・真紅/薄紅/退紅・褪紅(あらぞめ)/今様色(いまよういろ)/唐紅・韓紅(からくれない)/緋色/浅緋(うすきひ)深緋(こきひ)/猩々緋/蘇枋(すおう)/薄蘇枋/茜色
紅梅色(こうばいいろ)/薄紅梅(うすこうばい)/薄色/一斤染(いっこんぞめ)/桜色/鴇色(ときいろ)/石竹色(せきちくいろ)/牡丹色/躑躅色(つつじいろ)/玖瑰色(まいかいいろ)/苺色(あかねいろ)/撫子色/桃色
朱色/真赭・真朱(まそお)/銀朱(ぎんしゅ)/洗朱(あらいしゅ)/潤朱(うるみしゅ)/丹色(にいろ)/赤丹・鉛丹(あかたん)/東雲色(しののめいろ)・曙色(あけぼのいろ)/海老色・蝦色・葡萄色/葡萄染/海老茶・蝦茶・葡萄茶/灰赤

 

黄系の色
黄色/淡黄色/深黄/黄金色/山吹色/鬱金色(うこんいろ)/黄鬱金/紅鬱金/黄丹(おうだん)/蘇比・素緋(そひ)/雄黄(ゆうおう)/雌黄・藤黄(しおう・とうおう)/梔子色・支子色(くちなしいろ)/深梔子・深支子(ふかきくちなし)/浅梔子・浅支子(あさくちなし)/黄蘖色・黄膚色(きはだいろ)/苅安・青茅(かりやす)/菜の花色/萱草色(かんぞういろ)/芥子色・辛子色/橙色/橙黄色/蜜柑色/蜜柑茶/柑子色(こうじいろ)/紅柑子/杏色・杏子色

青系の色
青/藍色/瓶覗(かめのぞき)/濃藍(こいあい)/薄藍(うすあい)/藍白(あいじろ)/紺色/群青/紺青(こんじょう)/淡群青(うすぐんじょう)/白群(びゃくぐん)/秘色(ひそく)/浅葱色/水浅葱(みずあさぎ)/花浅葱/錆浅葱(さびあさぎ)/縹色・花田色(はなだいろ)/濃縹・深縹(こきはなだ)/浅縹・薄縹/露草色/新橋色(しんばしいろ)

茶系の色
茶色/橡(つるばみ)/黄橡(きつるばみ)/白橡(しろつるばみ)/赤白橡(あかしろつるばみ)/青白橡/木蘭色(もくらんじき)/桑染・桑色(くわぞめ)/桑色白茶/芝翫茶(しかんちゃ)/璃寛茶(りかんちゃ)/路考茶(ろこうちゃ)/団十郎茶/江戸茶/蒲色・樺色/蒲茶/弁柄色(べんがらいろ)/栗色/栗梅/雀茶/鶯茶/鶸茶(ひわちゃ)/御召茶(おめしちゃ)/柿渋色/柿茶

無彩色系の色
黒/白/乳白/墨色/赤墨色/青墨色/薄墨色/紫黒色(しこくいろ)/漆黒/消炭色(けしすみいろ)/素鼠(すねずみ)/銀鼠/鼠色/灰色/灰汁色/灰白・灰白色/利休鼠(りきゅうねず)/鈍色(にびいろ)/青鈍色/薄鈍色/灰桜(はいざくら)/滅赤(けしあか)/鳩羽色(はとばいろ)/鳩羽鼠/浅葱鼠(あさぎねず)

※色名は、『日本の伝統色』DICカラーガイド、『草木染日本色名辞典』山崎青樹著 美術出版社、『日本の色』大岡信編 毎日新聞社、『日本の色辞典』吉岡幸雄著 紫紅社、『色の名前-ポケット図鑑-』主婦の友社、より抜粋。


 

以上のように日本には美しい色名がたくさんありますが、漢字でわかりやすいモノ、気候や現象の名前、動植物や果物の名前、これは特別ですが、歌舞伎役者の名前や個人名など、まったくこれに該当しないものがあり、今の人には萌黄色(もえぎいろ)、江戸紫と京紫の違いは? と言われてもピンとこないのだろうと思います。

日本には山川草木悉皆成仏の教えもあり、森羅万象全てを神として敬いますから、その色は特に重要な表現であったと考えられます。

今では 日本画を描いたり、岩絵の具に詳しかったり、漆芸の伝統工芸作家や日本の伝統色を知るデザイナーや染色関係者ぐらいにしか理解されていないのかもしれません。

日本の色ですから何とか残しておきたいものですが、いかがでしょう。

菜の花。こちらも若い緑の色のグラデーションの表現です。


KORIN展
国宝「燕子花図」とメトロポリタン美術館所蔵「八橋図」

会場:根津美術館 
Tel. 03-3400-2536
会期:開催中~ 2012年5月20日(日)
住所:東京都港区南青山6丁目5−1
時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
入場料:一般1200円、学生[高校生以上]1000円