深瀬鋭一郎のあーとdeロハス香港アート・スポット1日ツアー。アート・ディーリングの中核地は今や……。

(2015.08.18)
暮れなずむ香港島の100万ドルの夜景。この日は少し靄がかかっていました。これが見られる九龍側に宿泊すると良いです。
暮れなずむ香港島の100万ドルの夜景。この日は少し靄がかかっていました。これが見られる九龍側に宿泊すると良いです。
香港アートの見どころを巡る
モデルコースをご紹介。

6月下旬に一週間ほど香港に滞在しました。その間には、学生運動や上海・香港株価の暴落、世界同時多発テロ(香港では発生していません)が連日のように報道されていましたが、観光客が多い街のためか街自体は平静で、今のところ景気も悪化しているようには見えませんでした。これまで爆買いして日本の消費を支えてくれた中国人観光客も、中国のバブル経済崩壊とともに減ってしまうのでしょうか。筆者の後輩もギリシャに行っていたといいいますが、これに似たような感じで街自体は平静だったそうです。

さて、香港は、アート面では歴史的に欧米人の中国骨董買付の拠点として発展してきた(荷李活道 ”Hollywood Road” の骨董街がよく知られています)こともあって、過去には同時代芸術には関心が薄く、「文化砂漠」とも呼ばれていましたが、総合芸術文化施設である『香港文化中心』(Hong Kong Cultural Centre)
が1989年に開館してからは、徐々に同時代芸術への力が入り始め、最近では中国本土の政策にも影響を受けたか、アート、デザインの振興拠点を次々に設置しています。筆者も5~10年おきに来ていて、今回が4回目の香港滞在ですが、アートやデザイン面の見どころがある程度は充実してきた感があります。ですので、今回のコラムでは、短期観光や出張の合間でも香港アートの見どころを巡ることができるようなモデルコースを紹介しましょう。

 
香港島中環に新しくできた観覧車。既に営業していますが、周囲の広場はまだ工事中です。
香港島中環に新しくできた観覧車。既に営業していますが、周囲の広場はまだ工事中です。
 

まず、有名な「100万ドルの夜景」を堪能する見地からは、少しお値段は高めですが、九龍半島の香港島に向かった海沿いのホテルに宿泊した方が良いでしょう。香港政府観光局が2003年から開催している毎晩午後8時からのイベント『シンフォニー・オブ・ライツ』 (Symphony of Lights)も良く見えますよ。美しいビクトリア・ハーバーの夜景に加え沿岸のオフィスビルや主要建物に設置されたサーチライトで13分間の光のショーを繰り広げます。

この時間帯はもの凄い数の観光客がハーバーに詰めかけていますので、ホテルのレストランの窓などから見た方が楽ではあります(筆者は群衆の中に混ざって見る方が好きですが……)。

 香港初、サンリオ公認の『Hello Kitty 中菜軒』です。

香港初、サンリオ公認の『Hello Kitty 中菜軒』です。

すると、最寄りの文化施設は『香港歴史博物館』ということになります。1962年に開館した『香港博物美術館』を前身とし、その後1975年に美術館と分割、移転などを経て、1998年に現在地に開館しました。香港の文化の保存と、発揚を主な目的とし、有史以前から1997年の中国返還までの民族文化や生活様式などの歴史を判り易く紹介しています。

展示は特別展示と常設展示の2種で、特別展示は約2か月ごとにテーマを設け、歴史を深く掘り下げる展示内容になっています。元々美術館と一体だったこともあって、特別展示と常設展示には、古美術や歴史的絵画、ポスターなど美術関連の展示品も含まれています。

この『香港歴史博物館』から西方に10分歩いた地下鉄佐敦(Jordan)駅と柯士甸(Austin)駅の間にある、6月に開店したばかりのサンリオ公認のキティラー御用達 中華料理店『Hello Kitty 中菜軒』は、香港のサブカルチャー系で今最も旬な話題と言えましょう。今話題の店なので結構な人が並んでおり、残念ながら筆者は入店を断念しましたが、池袋サンシャインシティのナンジャタウンでも出しているような、キティの絵柄をあしらった料理が大集合とのこと。一見の価値ありとは聞きますので、ピーク時を外した平日など空いている時間帯に体験してみてはいかがでしょうか。

『Hello Kitty 中菜軒』
住所:香港九龍油麻地廣東道332至338號利來洋樓地鋪A至C
Lee Loy Mansion, 332-338 Canton Road, Yau Ma Tei, Kowloon, Hong Kong

 

***

『Hello Kitty 中菜軒』と同じ油麻地(Yau Ma Tei)地区には、『「藝術活化社」區又或「社區活化藝術」的實驗平台』(「芸術を活性化するコミュニティ」或いは「コミュニティを活性化する芸術」の実験プラットフォーム)を標榜するアートスペース『活化廳』(Woofer Ten)があります。2013年10月までは香港政府からの財政支援も受けていた、若いアクティブなアーティスト達が運営する実験的なスペースです。

ここでは、美術の映像作品のアーカイブ「MIACA」(*)を運営する筆者知人の長谷川仁美さんが共同企画した日中のアーティストによる以下のグループ展が来る8~9月に開催されますのでご紹介します。展覧会開催のためのファンドレイズも目下実施中とのことです。

展覧会概要
『Gender, Genitor, Genitalia –ろくでなし子さんへのトリビュート』
会期: 2015年8月29日~ 2015年9月20日

参加アーティスト:
Chan Mei Tung 陳美彤
K Y Wong 黃嘉瀛
Lam Hoi Sin 林愷倩
Makoto Aida 会田誠
Michael Leung 梁志剛
Phoebe Man 文晶瑩
ROBOT (John Miller and Takuji Kogo) ロボット(ジョン・ミラーと古郷卓司)
Rokudenashiko ろくでなし子
Ryoko Suzuki 鈴木涼子
Sputniko! スプツニ子!

キュレーター
Lee Chung Fongリーチュンフォン、長谷川仁美

会場:活化廳(Woofer Ten)
住所:香港九龍油麻地上海街404號地下
G/F 404 Shanghai Street, Yau Ma Tei, Kowloon, Hong Kong

(*)
MIACA/Moving Image Archive of Contemporary Art
住所:香港柴灣嘉業街18號明報工業中心B座707室
 

 
『K11 購物芸術館』はビルが立ち並ぶ合間の三角形の変形地に建っており、この地割の中で上手く設計したものだと感心させられます。
『K11 購物芸術館』はビルが立ち並ぶ合間の三角形の変形地に建っており、この地割の中で上手く設計したものだと感心させられます。

油麻地の南に接する尖沙咀(Chim Sa Chui)地区は、よく知られた香港ショッピングのメッカですが、ここには香港初の「ショッピングモール美術館」として2009年にオープンした6階建の『K11 購物芸術館』(K11 Hong Kong Art Mall)があります。このモールでは常設アート作品が20点設置され、随時、特設展示も行われています。筆者が訪問した際は、1階ホールで「K11 Art Foundation」と「K11 Art Village」の紹介展示が行われていました。K11 Art Foundationは、Adrian Cheng氏により2010年に設置されたNPO法人であり、中国本土と香港のアーティストを支援するため、K11 Art Villageという滞在制作プログラムを設け、その中から毎年2名のアーティストを選抜して上海市や武漢市でその個展を開催しているとのことです。

『K11 購物芸術館』
住所:九龍尖沙咀河内道18号
18 Hanoi Road, Tsim Sha Tsui, Kowloon, Hong Kong

 
『K11 購物芸術館』の1階には奈良美智さんの作品も飾られています。
『K11 購物芸術館』の1階には奈良美智さんの作品も飾られています。

続いて、K11から尖沙咀の中心にある大通り 彌敦道(Nathan Road)を、K11からスターフェリーの方向に歩いていくと、大規模な『香港文化中心』(Hong Kong
Cultural Centre)と『香港藝術館』(Hong Kong Museum of Art)が現れます。香港文化中心は、1989年にオープンした、香港を代表する文化芸術ホールです。

コンサートホール、大劇場、スタジオ小劇場、市民ギャラリー、屋外ステージなど、すべて合わせて5.2ヘクタール、82.231㎡の面積を誇ります。隣接する『香港藝術館』は1962年に建てられ、古美術から現代美術作品まで 15,000点を超える所蔵品があります。2014年には香港藝術館前の広場が彫刻広場に生まれ変わり、中国圏やフランスのアーティストの大き目の作品が点在します。

『香港文化中心』(Hong Kong Cultural Centre)
住所:九龍尖沙咀梳士巴利道10號
10 Salisbury Road, Tsim Sha Tsui, Kowloon, Hong Kong

『K11 購物芸術館』のアトリウム展示。「ショッピングモール美術館」とはよく考えましたものです。
『K11 購物芸術館』のアトリウム展示。「ショッピングモール美術館」とはよく考えたものです。
「K11芸術村」とは、香港・中国本土の美術家を対象とする滞在制作プログラムであり、アトリエ村のことではありません。
「K11芸術村」とは、香港・中国本土の美術家を対象とする滞在制作プログラムであり、アトリエ村のことではありません。
 

『香港藝術館』の周りは観光名所がいっぱいです。大通りである梳士巴利道(Salisbury Road)側には香港太空館プラネタリウムのドームがあり、夜はライトアップされて綺麗です。その隣には『梳士巴利花園』(Salisbury Garden)、海沿いには『尖沙咀東部海濱公園』(Tsim Sha Tsui East Promenade)と『星光大道』(Avenue of Stars)があり、ブルース・リーの銅像や香港映画スターの手形がみられ、夜はシンフォニー・オブ・ライツを見る観光客で溢れています。

また、海沿いの西側には、これまた有名な尖沙咀(Chim Sa Chui)のスターフェリー乗り場(天星小輪渡輪碼頭、Star Ferry Pier)があり、中環(Central)や湾仔(Wanchai)、澳門(Macau)行のフェリーに乗ることができます。

『香港藝術館』の入口側。この向かいに大空館のドームがあります
『香港藝術館』の入口側。この向かいに大空館のドームがあります
『香港藝術館』海側のセザール(César Baldaccini、1921-98)作『翱翔的法國人』
『香港藝術館』海側のセザール(César Baldaccini、1921-98)作『翱翔的法國人』
『香港藝術館』の向側にある大空館のドームと彫刻作品。夜はライトアップされます。
『香港藝術館』の向側にある大空館のドームと彫刻作品。夜はライトアップされます。
 
香港文化中心と『香港藝術館』から東に向かう海沿いには世界的に知られる「星光大道」(Avenue of Stars)などがあります。
香港文化中心と『香港藝術館』から東に向かう海沿いには世界的に知られる「星光大道」(Avenue of Stars)などがあります。
やっぱり「香港スター」の代名詞といえば「ブルース・リー」(李 小龍、Bruce Lee、1940-1973)でしょうか。しっかりした造形です。
やっぱり「香港スター」の代名詞といえば「ブルース・リー」(李 小龍、Bruce Lee、1940-1973)でしょうか。しっかりした造形です。
 
香港島のビジネス街である中環に
『ガゴシアン・ギャラリー』あり。

では、尖沙咀(Chim Sa Chui)から、香港島のビジネス街である中環(Central)にフェリーで渡って、世界15拠点を構える大画廊『ガゴシアン・ギャラリー』(Gagosian Gallery)が入居する香港最大のギャラリービルであるペダー・ビルディング(Pedder Building)へ行きましょう。中環のスターフェリー乗り場から市街へ向けて長く伸びる渡り廊下を渡り切って地下鉄中環駅の上に出ると、傍にある1924年築の第二級歴史建造物(Grade II Historic
Building)です。以前はアウトレットやセレクトショップの多いビルであったりもしましたが、最近は10数件のギャラリーが集積してきて、ギャラリービルと言うべきものになっています。様々なギャラリーが入居していますが、現代美術のマスター・アーティストの代表作を展示していることが多い『ガゴシアン・ギャラ
リー』(7階)は必見です。

ペダー・ビルディング(Pedder Building)
住所:中環畢打街12号
12 Pedder Street, Central, Hong Kong

1923年に建設された植民地の歴史を象徴する「ペダービル」(PEDDER BUILDING)。第二種保存建築に指定されています。
1923年に建設された植民地の歴史を象徴する「ペダービル」(PEDDER BUILDING)。第二種保存建築に指定されています。
ペダービル7階の世界的大画廊『ガゴシアン・ギャラリー香港』。今回訪問時はフランスの画家 バルテュス(Balthus、1908-2001)の代表作を含む回顧展を開催しており、腰が抜けました。
ペダービル7階の世界的大画廊『ガゴシアン・ギャラリー香港』。今回訪問時はフランスの画家 バルテュス(Balthus、1908-2001)の代表作を含む回顧展を開催しており、腰が抜けました。

続いて、ペダー・ビルディングとその向かいにあるCOACHショップの間にある皇后大道中(Queen’s Road)を、上環(Sheung Wan)側(西側)に300mほど歩くと、世界最長のエスカレーターである中環至半山自動扶梯(Hillside Escalator)の入口が現れます。これは中環から骨董街と英国植民地時代の建築物が立ち並ぶ荷李活道(Hollywood Road)を横切り、ソーホーを抜けて高台の高級住宅地「半山區」(Mid Levels)にいたる高低差135m、全長800mを合計23基のエスカレーターで約23分かけて移動するものです。なお、香港島の最高峰ビクトリアピ-ク(Victoria Peak)に登るためには、鋼索式鉄道ピークトラム(Peak Tram)に乗る必要があり、このエスカレーターで半山區へ登っても、そこから1時間近く歩かなければ山頂廣場(Peak Galleria)へは到達できないのでご注意ください。

荷李活道(Hollywood Road)でエスカレーターを降りると世界最大級の骨董街です。骨董屋に混ざって、いくつかの現代美術ギャラリーもあり、その多くはエスカレーター近くか、または反対側(西側)の「荷李活道公園」(Hollywood Road Park)周辺にあります。昨年6月にグランド・オープンした話題のクリエイター
ズ・ショップビル『PMQ(元創方)』も、公園に向かう途中、荷李活道(Hollywood Road)が鴨巴甸街(Aberdeen Street)の交差点にあります。ここでは、世界自然保護基金(WWF)とフランス人アーティストのパウロ・グランジオン(Paulo Grangeon)氏が、1600頭まで減ってしまった野生パンダの保護をアピールするキャンペーンとして、2014年6~7月に紙製パンダ1600体によるインスタレーションを展示して話題となりました。

ハリウッドロードの「荷李活道公園」の正面にも大きめの現代美術ギャラリーがります。
ハリウッドロードの「荷李活道公園」の正面にも大きめの現代美術ギャラリーがります。
ハリウッドロードの骨董+現代美術ギャラリー街の終点「荷李活道公園」(Hollywood Road Park)。高層ビルに囲まれていますが、園内に木立や東屋があって、アートスポット巡りの途中の休憩には好適です。
ハリウッドロードの骨董+現代美術ギャラリー街の終点「荷李活道公園」(Hollywood Road Park)。高層ビルに囲まれていますが、園内に木立や東屋があって、アートスポット巡りの途中の休憩には好適です。

***

さて、ここまで紹介したコースを、一部省略して駆足で回れば丸一日、ゆっくり巡れば二日間といったところでしょう。この他にも、香港の中心からは外れますが、九龍のもっと北側にある地下鉄石硤尾(Shek Kip Mei)駅から徒歩10分にある『賽馬会創意芸術中心』」(Jockey Club Creative Arts Centre )という、アーティスト・アトリエとショップが集積したビルでは、新進気鋭のアーティストの作品を見ることできます。また、企画展等も開催している『香港大学美術ギャラリー』(University Museum & Art Gallery, the University of Hong Kong)、ア-ト・スクールの卒業展示などを開催している『香港藝術中心ギャラリー』(Pao Galleries, Hong Kong Arts Centre)なども時間の範囲でどうぞ。
うぞ。