女性のための、元気になれる俳句83 選・如月美樹 バラ散るや己がくづれし音の中 中村汀女

(2010.05.10)
 

家人も寝静まり、ようやく自分の仕事に没頭できる時間。書斎に活けて置いた薔薇が、見ている間にはらりと散った。他には何の物音もしない。しかし、汀女にはその音がはっきりと聞こえたのだ。
散ることは、己の生を全うしたこと。作者50歳頃の作であることを考えると、これからの自分に残された人生の時間に重ね合わせてみたのかもしれない。余談だが、私はこの句を読むと、いつも冨沢赤黄男の「蝶墜ちて大音響の結氷期」を思い浮かべる。
詩人には、聞こえない音も聞こえている。私も心を澄ませば聞こえるのかもしれない、と。掲句初出『紅白梅』(1968)。