ルパージュにマルターラー、東京芸術劇場で巨匠の力作を!

(2010.11.02)

『フェスティバル/トーキョー』が2010年11月28日(日)まで開催されている今月、池袋周辺には新鮮な作品が目白押し。フェス案内所のF/Tステーションが立つ西口公園に近い東京芸術劇場には、世界的巨匠の話題作が来日するの。カナダ出身のロベール・ルパージュとスイス出身のクリストフ・マルターラー、素晴らしい美意識をもつ演出家の作品が続きます。2作品のスタイルは違うけれど、アーティスティックな表現で現代社会を鋭く描く姿勢は共通。

『ブルードラゴン』の驚かせてくれる場面の例。1960~70年代の文化大革命の映像で踊っていた女性兵士が、スクリーンを抜け出し自転車に乗る。photo / Yanick MacDonald 

まずは、11月11日(木)から始まるルパージュ演出『ブルードラゴン』。映像やダンスが魔術のように交錯する舞台から、人間の抱える光と闇を浮上させるルパージュは、地球を飛び回って活躍。今年もNYメトロポリタン・オペラにおけるワーグナー作曲指輪シリーズの演出はじめ、大がかりな企画を進めています。『ブルードラゴン』は現代の中国を背景にしたドラマで、最新テクノロジーが漢字や刺青などの伝統文化を素材に視覚を刺激するの。観客は時空間を自在に走る車両に乗っているような、浮遊感覚に驚くでしょう。でも、3人の男女の出会いに文明の衝突が重なる物語は、荒唐無稽な絵空事じゃなくてよ。カナダから上海に移住し画廊を開いたピエール、カナダの広告会社で働く元恋人クレール、中国人アーティストのシャオ・リン。彼らの哀歓を通して、グローバル化する社会で暮らすために人は何を選べばいいのか、と観客に問いかける極上のエンタテインメントです。(公演情報はページ下に)

シャオ・リン役のタイ・ウエイ・フォーはシンガポール出身、バレエや現代ダンスを巧みに踊りながら変貌。photo / Erick Labbe  

 

ルパージュ作品は来日するたびにファンを増やしてきましたが、11月19日(金)からのマルターラー作品は待望の初来日! ヨーロッパ各地で絶賛された『巨大なるブッツバッハ村―ある永続のコロニー』は、独創的な音楽劇です。

抱きしめた家具、実は売却済みなのです。物心両面で財産を奪われる「ブッツバッハ村」の人々には、悲しみと滑稽さが漂う。photo / Dorothea Wimmer 

ベートーヴェン、バッハ、サティ、そして映画でおなじみ『リリー・マルレーン』など多彩な曲が観客の胸を揺さぶるの。強烈な個性を放つ役者たちは、楽器を演奏し肉声で歌う芸達者ぞろい。ステージ全体に建築ばりの構造をもたせた美術、その空間をいかす照明も抜群にかっこいい。テキストには哲学や文学の言葉を引用、その一方で盛大に笑えるシーンも。たとえば、生真面目に話していたインテリっぽい男が、いきなりシンセサイザー弾いてビージーズの『ステイン・アライヴ』を高音で歌い出す。とたんに意外な場所から踊り狂う人々が現れる、といったビックリ箱みたいな仕掛けがいっぱい。前代未聞の「涙を誘うファッションショー」も登場しちゃう。次に何が起こるか、予測不可能な舞台に見入る観客は自分にも関係する問題に気づいてゾクゾクするかも。この作品は物語を追うのではなく、舞台に炸裂する芸術的パワーに、あなたの目と耳と心で応える最先端系。ライブならではの醍醐味を満喫するチャンスです。

舞台上手に設けられたコーナーの扉が開くたびに、観客は爆笑したり、凍りついたり。 photo / Dorothea Wimmer 

 
東京劇術劇場主催公演ロベール・ルパージュ演出『ブルードラゴン』

日時:2010年11月11日(木)~14日(日)
会場:東京芸術劇場中ホール
問合せ:同劇場 Tel. 03-5391-2111
http://www.geigeki.jp/index.html

 
フェスティバル/トーキョー主催公演クリストフ・マルターラー演出『巨大なるブッツバッハ村―ある永続のコロニー』

日時:2010年11月19日(金)~21日(日)
会場:東京芸術劇場中ホール
問合せ:フェスティバル/トーキョー Tel. 03-5361-5202
http://www.festival-tokyo.jp/