Shibuya Tourbillon 〜3〜 新しい都市の風景、新スケープ展 建てりゃあいいってもんじゃない、
人の暮らしが建築だ。

(2013.04.22)

311後のアートを考え、渋谷から文化の旋風を巻き起こしたいと考えるギャラリー渋谷のギャラリー『アツコバルー arts drinks talk』。6月 28 日のグランドオープンに向けてシリーズ・イベント「Fest*LAB !(祝祭的な実験室)」開催中。さまざまな分野のクリエーターやアーティストたちに空間を提供し、このスペースの使い方の実験も含め展示やイベントを展開していきます。今回はその第2弾。「「新しい都市の風景、新スケープ展 」 からあたらしい建築についての考え方を紹介。

告白します。

私、建築家についてひどい偏見を持っていました。哲学を捏ねてるくせに、大資本にゴマを擂って彼らに言いなりの疑似男根ビルや、墓標まがいのビルを作る人たちだって。とにかく古い家並みをぶち壊してツルピカのビルを建てればOKと思っている人たち、と。

20日の「新しい都市の風景、新スケープ展 」 ギャラリートーク@『アツコバルー arts drinks talk』で八幡製鉄所の廃墟再生のプロジェクト進行中の垣内光司さんの発言に私は飛び上がった。「なんも作らんでもいいやん、と思ったんです……。」

作らない建築家なんて、いるんかいな? そうです、垣内さんのみならず今回集まった若き建築家たちは私の悪いイメージを一新させてくれるような「風景」を考える方々でした。


「新しい都市の風景、新スケープ展 」 のギャラリー・トークより。オンデザイン、成瀬猪熊設計事務所、メジロスタジオ、垣内光司、中央アーキの面々。次回ギャラリートーク・イベントは4/27(土)18:00 〜 20:00  坂下加代子(中央アーキ)、藤村龍至を迎えて。
まずは掃除から。
:垣内光司+吉岡寛之『八幡傾斜地秋や周辺整備プロジェクト』
垣内さんは八幡製鉄所のあった町を5年かけて人の住む街に変えるという計画中です。そのためにはまず掃除、草むしりから始めたそうです。掃除をすると見えてくるものがある。

まあ、確かにそうですが。廃屋でごみとされていた椅子が価値あるオブジェとなり渋谷のアートスペースに置かれる。そんなことを繰り返しながら何が価値か? どうやって価値を作るか?という深いテーマを扱っておられる。しかしそれでは儲からんでしょ? と聞く私にこれは北九州市の現代美術センター CCAからお金をいただいてます、ということ。あ、そう! よかった!


垣内光司+吉岡寛之『八幡傾斜地秋や周辺整備プロジェクト』photo / Yasuhiro Tani
家同志で 開き方の作法。
:オンデザイン『都市風景をつくる住宅/住宅風景をつくる都市』

町の風景と人の暮らしの営みが重なって見える透けた部分のある家の例を見せて、「家を町に向かって開く」そんな作法があるのではないか、というオンデザイン。パラノイアが横行する現代社会で人間のみならず、建築物同士がうまく社交する。というようなことが必要なのかもしれないです。しかし、私の親の時代には狭い地域社会で窓も戸も開けっ放し、隣人が勝手に家に入り込んでいるようなプライバシー(この言葉、流行しました)のない生活がふるふる厭で団地に引っ越したものです。そう、ちょうどいいプライバシーのありどころを作法、と呼ぶのでしょうか。うまく隣人とも隣家とも付き合える「建築知性」が必要です。


オンデザイン『都市風景をつくる住宅/住宅風景をつくる都市』photo / Yasuhiro Tani
営みの風景。
:成瀬猪熊設計事務所『新しい概念としてのシェア』

名古屋で作られるシェアハウス。ドールハウスのようなロマンチックなその模型を展示しているのは成瀬猪熊設計事務所。今回のお題「新スケープ」(つまり風景)に答えるために彼らが考えたのは物体としての建築が風景、ではなくて人の営みで作る風景があってもいいのではないか、という事でした。都市計画という考えではない都市の作り方を提案しています。

いや、営みで町を作るのではなくて、営みが行われるように前もってプロセスを記録しながら、家づくりの様々な要求や矛盾をもみ合っていく。そのうちあるとき「建築」という瞬間が現われる、と記録を大切にしているメジロスタジオさんのような考え方も思考の遊びとして重要です。


成瀬猪熊設計事務所『新しい概念としてのシェア』photo / Yasuhiro Tani
関係性の科学みたいなこと。
:中央アーキ『神宮前ビルディング』

中央アーキが作った神宮前の4階建てビルは、建築という規制の中で境界線を作っていくのでなく、いかに風景や町との関係性を保つかをテーマにした。私はそこのカフェとアートスペースを訪ねたことがありますが、天井と床の間に空間の層があって、開かれた箱、というイメージがありました。

空間がつながっていかないと自己に向かって閉じるばかりじゃあありませんか? という中央アーキ 松本悠介さん。バブルがはじける前までは関係性など無視する傾向があったのを思い出します。他者などいらないと思っていた人が多かった時代でした。しかし風景を作るという観点で建てるならば周りとの関係性を考えずにはいられません。自分の土地だからと言ってエゴむき出しの建築はもうやめようよ、ということですね。


中央アーキ『神宮前ビルディング』photo / Yasuhiro Tani
古いものを残して今につなげ、今の価値を加えていく。

それは建築だけではなくてまさにファッションやライフスタイルの、DIYへの動きとリンクしていることに今更ながら驚きました。もったいない、ということだけではなく、つなげていくというごく当たり前のことが忘れられたのがたぶん80年代。大昔から行われていた文化なのに。「ネオクラシック」などの、「新しい」という魔法の言葉に追っかけられていた。今や消費社会のモデルはもう通用しない。かといって古い物を使い回すだけではさみしいです。

アツコバルーの入ったビルも1982年の古いビルでかっこ悪いのですがそれに価値がある、と私は思ってしまった。ビルは変えずに中身のアクティヴィティで今の価値を与えることが却ってできる、と思うのです。つまりかっこいい先端のビルで先端のアートをやったらこっぱずかしいじゃないですか。でもちょいボロビルで先端のアートやっているとなんか鼻が高い。このカッコつけた自己満。グランジ感覚が好きです。


メジロスタジオ『部分 / 全体 / 形成 』
建築はただコンクリや鉄で建物を作るのではなくて
ソーシャルデザインなんだね

1976年に生まれた彼ら、バブルのころに小学生で、建築家になったものの、バブルははじけ、長い不況が始まった。さあ、どうしましょう。というところから頑張ってスタートして、今や10年の経験を積んだところで震災に会った。経済発展とともに大きくなった私の世代とは違って彼らは打たれ強い。その上、未曾有の災害に35歳で出会ってしまった。根本的に価値観を揺すぶられた彼らの世代だからこそ、飛躍ができると思う。

トークの後のパーティーに、ご近所、代々木公園のアースデーから来てくれた元気いっぱいの福島の若い女性3人が印象的だった。あんな悲惨な目にあったからこそ、世界中の学者やアーチストが福島に皆集まる。それを利用しない手はない。文化で、アートで、ソーシャルデザインで今、福島の彼女たちはさし延ばされた多くの手をバネにに最大限にジャンプしようとしている。

廃墟の街から、不況の都会から、大きなストレスからもっと大きなエネルギーで人々は立ち上がろうとしているのを実感できる。建築は生活に繋がり、政治や経済、福祉、つまりは社会のデザインにまで及ばないといけないんだ。アートもファッションもパフォーマンスもすべてはリンクしている。窓から見える渋谷のネオンも街行く人々も皆ふくめて大きなお船に乗り合わせた乗り組み員なのです。アツコバルーで一杯飲んで話をしていきませんか?

FestLAB vol.2 「新しい都市の風景、新スケープ展 」
オンデザイン 、垣内光司 、中央アーキ 、成瀬猪熊設計事務所 、藤村龍至 、メジロスタジオ

開催期間:2013年4月17日(水)〜4月28日(日)
会場:『アツコバルー arts drinks talk』
所在地:東京都渋谷区松濤1-29-1 渋谷クロスロードビル 5F
TEL:03-6427-8048
時間:14:00〜23:00 *4月21日、28日(日)は12:00〜18:00
休館日:月、火

入場料:1ドリンク (500円)


『アツコバルー arts drinks talk』のマスコット、あかねちゃん。ミュージカル女優修行中でもあります。『アツコバルー arts drinks talk』のスタッフはみんなクリエーターとしての横顔を持っています。