女性のための、元気になれる俳句9 選・如月美樹 〜さようならさようなら金魚が午後の匂ひせり 栗林千津〜

(2008.07.21)
haiku09ph
 夏の午後を過ごすひとりの女性。おだやかな笑みを浮かべている。傍らには、小さな金魚鉢。赤い金魚たちが、彼女の目の中で、時折ひらりと身を翻す。
 ゆっくりと、静かに時が流れていく。彼女が「さようなら」とつぶやいたのは、自分自身にそれを言い聞かせるためだ。誰かとの別れを。あるいは、何かの感情との決別を。昨日の自分との別れを。
 その決心には、かすかな痛みがともなう。決して、他人は気づくことのないほどの痛み。何事も起らなかったように見えるこの午後、彼女の中に、ほんの少し悲しみの記憶が増えた。たったそれだけのこと。掲句初出『火を枯れを』(1982)。