『smokebooks』北澤孝裕の“だから本は面白い” – 3 - “かわいい”は日本の個性です。

(2010.05.27)

今回紹介する本は、内田樹『日本辺境論』と川島小鳥写真集『未来ちゃん』
この2冊に共通感覚があると、僕は思うわけです。
それが、“かわいい”です。
若い女の子がいちばん発する感想を“かわいい”だと思っているのは、僕だけではないと思います。正直、何でもかんでも“かわいい”と言うなと思っていた時期もありました。
少し腹が立っていたのは、僕自身が“かわいい”の感覚が掴めていなかったのかも知れない。最近少し掴めてきたように思えたのでこの2冊を紹介。

 

内田樹『日本辺境論』

今、内田樹が人気だ。今回紹介するこの本も、ロングセラーとなっている。
最初の頃は、武道と思想の人というイメージが強かったけど、
最近はブログがもっぱら人気の若者受けが良い思想家という印象です。

『日本辺境論』内田樹著(新潮新書)777円(税込)

恥ずかしながら、ブログは何回か見たことあるけど、内田樹本を一冊通読したのは今回が初めて。へそまがりなもんで、まわりから薦められるとなんとなく避けてしまう悪い癖がありまして、よくないですね。それでも機会が巡ってくる本というのはあるもんで、手元に偶然この本が入り込んできて、読み始めたら、内田樹人気にも納得がいき。今回の“かわいい”とつながってきたというわけです。
この本の役割を部屋の掃除に例える導入部分を読んだときに、まず人気に納得がいった。
売れるはこれは。ツカミオモシロイヒトハニンキガデル、これは、僕のなかでは鉄板。
内容は、“日本について”書かれているのですが、この辺境論を読んでいて、松岡正剛のいうフラジャイルの感覚に近い感じを覚えました。
「日本の個性は弱さにある、弱さの肯定、コンプレックスは個性」
違うなあ~、
やっぱり、こう言ってみたくなるわけです。
「内田樹のいう辺境論も、松岡正剛のいう『フラジャイル』も、日本の“かわいい”について書かれた本」って。
こっちの方が間違っていないように思うんです。
その変な自信は次の写真集から得た感覚にあります。

 

川島小鳥写真集『未来ちゃん』

同名の写真展を観にいった時に感じた。
これが、“かわいい”ってことじゃないかという直感。
その時に思い出されたのは、前に、S氏に酒の席で聞いた話。

写真集『未来ちゃん』川島小鳥 1,500円(税込)
http://www.smokebooks.net/

日本の“かわいい”と英語の“CUTIE”は別物で、“CUTIE”は、キャピキャピと跳ねる感じ、元気な感じ。でも日本の“かわいい”は弱さ、脆さを慈しむような、弱さ、脆さを生きる術として持っているようなイメージ
……S氏のように、僕にはうまく言えない。
とにかく、その言い回しがすごくよかった。
だけど、まだまだ自分でうまく言葉や文章にできない。
だから写真集を紹介します。
この展覧会に行ったときに得た感覚が僕は本来の“かわいい”だと思ったんです。そしたら偶然S氏もその場に来たんです。不思議なものだなと思いもしましたが、納得がいった気もします。
“かわいい”という言葉は日本の個性のひとつだと思います。世界に共通する感覚だけど、日本の“かわいい”という言葉でしか言い表せない感覚。フラジャイル、日本辺境論、未来ちゃんと読み継いで得た、いまの僕が考える日本の個性。

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