野崎真希子の空間探索 – 1 - 毎週日曜日のフィルム作品上映も見逃さないで。原美術館『ヤン フードン ー将軍的微笑』展

(2010.02.01)

はじめまして。
みなさん、好きな場所や落ち着く場所ってありますか?

私は『美術館』という空間がとても好きです。
一言に美術館と言っても元個人宅を美術館として改装したものや、建物と収蔵作品が一体となっているもの、様々な施設と一体化した美術館など様々な美術館があります。また最近では十和田市現代美術館や21世紀美術館など、建築家が手がけた美術館が次々とオープンし、その建物を訪れる事が一つのも目的となっている美術館が増えてきています。
そんな個性豊かな美術館での、その空間にマッチした展示は展示を企画するキュレーターの腕の見せ所でもあり、私の中では毎回展示を心待ちにさせる大きな要因にもなっています。

さてさて、そんな中で今回は東京品川にあります、原美術館を紹介したいと思います。この美術館は1938年に現在の東京国立博物館を設計した渡辺仁の設計で竣工、1979年に原美術館として開館されるまで原邦造氏の個人邸として使用されてきました。

そんな原美術館で現在開催されている展示がこちら。2010年5月23日(日)まで開催されています『ヤン フードン ー将軍的微笑』展です。

ヤン・フードンは1971年中国北京に生まれ、2000年頃より写真や映像の作品で注目を浴びるようになってきた作家です。

 

記者会見で自らの作品を語るヤン・フードン(メディアに顔を出すのは滅多になくとても貴重な会見でした!)

ヤンの日本初個展となる今回の展示でまず目に留まったのは、以前はダイニングとして使用されていたというメインの展示室で展示されていた、『将軍の微笑』という展覧会のサブタイトルにもなっている作品です。細長い空間に大きなテーブルがおかれ、そこに食事を楽しんでいる人々の食卓上の映像が投影されています。

 

細長い空間に大きなテーブルが置かれ、そこに食事を楽しんでいる人々の食卓上の映像が投影されている『将軍の微笑』

目線を食卓から上に向けるとまた映像が流されているのですが、私はこの食卓に釘付けでした。
館長の原俊夫氏のお話では戦時中に空襲を逃れて多くの親戚が身を寄せ合った原邸での食事の風景を彷彿とさせる作品で設置の時に大きな衝撃を受けたそうです。そのお話を受けて鑑賞すると個人宅の晩餐に自分が透明人間になって晩餐を覗き見しているような……不思議な感情を覚えました。

また、特に心に残ったものが『半馬策』という作品でした。
この作品では、構図に特に定評のあるヤンの力を多いに見せつけられました…。
もう、一つ一つの画面が1枚の絵画作品か! というくらいにとてつもなく美しいんです!! なんでこんなに美しい構図で映像が撮れるのか、秘密は彼の経歴にありました。今の様なビデオを使っての作品を制作する前、彼は中国美術学院で油絵を専攻していたそうです。なるほど。人物をど真ん中にせず、構成要素として扱っている画面。山を登っているシーンではその主張しない人物のみが画面の中でが動いていて、一瞬絵画が動き出したかのような錯覚をうけました。すごかったです。あっという間の7分でした。もっともっと見ていたいと思わせる作品でした。

 

ヤン フードン『半馬策』35ミリカラーフィルム / DVD 7分、2005年
Courtesy of the artist and ShanghART Gallery

また、入館してすぐの展示室では『バックヤード ほら、陽が昇るよ!』という作品が展示されていますが、こちらは毎週日曜日にのみ、35mmフィルムでの上映がされています。
このフィルム上映、おすすめです!
フィルムが回る音が作品を引き立て、目で、耳で、作品を味わえます。ご鑑賞の際にはぜひともフィルム上映日を狙ってみて下さい。現在では指1本で巻き戻しや頭出しが出来るデジタル映像が主流ですが、巻き戻しにも時間を要するフィルムでの上映は作品の作り出す時間というものも味わえますよ。
ちなみに私はわざと巻き戻し時間も部屋に残っていました。あの、フィルムをセットして、さあこれからはじまるぞ! という時間はなんとも言えない高揚感が楽しめます……。

また、原美術館には企画展の作品以外にも多くの隠された(?)常設作品があります。
個人のお宅として設計され、時間を経てきた空間でこの扉は何だろう? と扉を開けると作品に出会える感じは新しい家でまっくろくろすけを探すメイや皐月の様に、何度体験してもワクワクします。

皆さんもぜひ、原美術館、訪れてみてください。
もしかしたら隠し部屋がみつかるかもしれませんよ?

 

 

『ヤン フードン ー将軍的微笑』

原美術館
Tel. : 03-3445-0651
東京都品川区北品川4-7-25
11:00〜17:00(祝休日でない水曜は20:00まで)(入館は閉館30分前まで)
月休(祝日の場合は翌日) 展示替え期間休
大人 1000円
2010年5月23日(日)まで
http://www.haramuseum.or.jp/

筆者プロフィール

野崎 真希子(のざき・まきこ)

空間アーティスト
生粋の東京下町生まれ、下町育ち。
幼い頃からモダンダンスの舞台に立つ事で人を楽しませる事や人や物が置かれる空間というものに興味を持つ。今最も興味がある作品は自らが体験したり、参加することで完成する作品。自身でも一昨年からインスタレーション作品を制作、横浜や都内で発表。様々な人と作品を通じて知り合う楽しさを知る。
また、昨年からスノーボードにはまり、スノボシーズンには様々な山に出没。