夏のNYで素晴らしい野外劇
『Shakespeare in the Park』

(2012.05.28)

夏のニューヨークの風物詩
『セントラル・パークのシェイクスピア』

『セントラル・パークのシェイクスピア(Shakespeare in the Park)』は毎年夏のNYを沸かせる公演シリーズで、1954年から続いています。演目はシェイクスピアに限りません。たとえば、今年6月から8月(詳細と日程は下記)はシェイクスピア喜劇とミュージカルの組み合わせです。市民に豊かな芸術を味わってほしい、という理想が息づく企画ですが、観光客も歓迎されますよ。

アル・パチーノ(『ヴェニスの商人』)、デンゼル・ワシントン(『リチャード三世』)、アン・ハサウェイ(『十二夜』)など映画スターも参加してきた豪華プログラムが、無料で観られるチャンスだから大人気。

チケットの入手方法のうち最もポピュラーなのは当日、公園内の『デラコート劇場(Delacorte Theater)』(所在地:Central Park at 81st street)に並び午後1時の配布を待つこと。他には主催の『パブリック・シアター(The Public Theate)』(所在地:425 Lafayette Street)サイトのオンライン抽選や、活動支援の寄付など。公園の配布待ちは愉快な行事として定着しました。

ピクニック気分でお弁当、敷物、虫よけスプレーを持って早朝から公園に出かけ、ミュージシャンのライブ演奏を聴いたりして、快適に過ごすのです。開演時間になると売店ではTシャツなど、おみやげも買えます。


無料の公演だが衣装も豪華で、スリリングな仕掛けが凝らされている。photo/Joan Murcus


劇場の周囲にはシェイクスピア作品に想を得た彫刻が並ぶ。写真の作品のモティーフは『テンペスト(THE TEMPEST)』。photo/Mana KATSURA

私は昨夏の公演を拝見しましたが、木立に囲まれた劇場の月光のそそぐステージにうっとり。風がそよぎ虫の音が響く環境のためか、ブロードウエイの劇場にいるときとは違う静かな澄んだ心境で芝居に集中できました。

2011年のプログラムはシェイクスピアの問題劇2本、『尺には尺を(MEASURE FOR MEASURE)』と『終わりよければすべてよし(ALL’S WELL THAT ENDS WELL)』。ともにベッドが鍵となるドラマなので、ポスターもベッドを素材にした機知に富むデザイン。

私が観た『尺には尺を』は性と権力をめぐる葛藤が渦巻く中、観客の爆笑も誘う場面も配した緊密な構成でした。物語の最後に、セクシャル・ハラスメントを逃れた修道女イザベラがウィーンの侯爵にプロポーズされるのですが、そのシーンの解釈も本作の見どころ。この舞台ではイザベラが喜ぶどころか驚愕の表情を浮かべ、凍りついた顔にスポットライトがあたると、ローリング・ストーンズの『悪魔を憐れむ歌』が流れる幕切れ。イザベラを黒人女性俳優、侯爵を白人男性俳優が演じる効果も重なり、社会的弱者やマイノリティの問題を深く考えさせられました。安易なハッピーエンドを排して古典に現代社会を反映させた演出家・デヴィッド・エスビョルンソンの手腕は、視覚的にも見事でした。

とりわけ光るのは登場人物が良からぬ企みを抱くと、悪魔が舞台に現れ人間の暗部を表現する点。2本の角を頭にはやし、しっぽのついた黒いボディタイツに身を包んだ悪魔たちは、舞台転換のための道具を動かすときもしなやかな動きで活躍。エスビョルンソンは2002年にトニー賞を受賞したエドワード・オールビー作『山羊、またはシルヴィアって誰?(The Goat: or, Who Is Sylvia?)』の初演など、知的かつ大胆なスタイルで知られています。


『尺には尺を(MEASURE FOR MEASURE)』のヒロインである修道女イザベラはウィーンの侯爵のプロポーズを喜ばない、という解釈が鮮明に伝わる演出(ハッピーエンド風の演出も多い)。photo/Joan Murcus

悲恋物語の最高峰『ロミオとジュリエット(ROMEO AND JULIET)』の彫刻。photo/Mana KATSURA
2012年の演目は
『お気に召すまま』、『イントゥ・ザ・ウッズ』

さて、6月5日の開幕が近づく2012年の『Shakespeare in the Park』は両演目とも、緑に囲まれた劇場で一段と楽しめる内容。シェイクスピア喜劇『お気に召すまま(AS YOU LIKE IT)』は、勇敢な男装のヒロイン、ロザリンドが森で活躍する痛快ラブ・ストーリー。多彩な映像作品で個性を発揮する俳優、オリヴァー・プラントにも注目したい。 

もう一本はスティーブン・ソンドハイム作詞作曲のミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ(INTO THE WOODS)』、エイミー・アダムスやドナ・マーフィといったスターも参加します。

夏にNYを訪れる方はタイミングが合えば、野外劇のチケット獲得を試みてくださいね。忘れられない体験ができるはず、ただし、諸注意や雨天の場合について事前にサイトを読んで対策をたてましょう。

『セントラル・パークのシェイクスピア(Shakespeare in the Park)』
会期:2012年6月~8月。

『お気に召すまま(AS YOU LIKE IT)』2012年6月5日~30日
、演出:ダニエル・サリヴァン
『イントゥ・ザ・ウッズ(INTO THE WOODS)』2012年7月23日~8月25日、脚本:ジェイムズ・ラパイン、演出:テイモシー・シェイダー
会場:セントラル・パーク内デラコート劇場



開幕時には明るい空には、上演中に月が浮かぶ。時間につれて移ろう景色も、観客を酔わせる。photo/Mana KATSURA