10月12日まで見られる、オススメ2本、急いでね!! ナイロン100℃『世田谷カフカ』&ハイバイ『て』

(2009.10.02)

ナイロン100℃『世田谷カフカ ~フランツ・カフカ「審判」「城」「失踪者」を草案とする~』

 

演劇はライブだ! と実感。「カフカ=難解」っていうイメージは、ひっくり返される。異常に吸引力強いステージで、観客の意識も奇妙な迷宮に入り込んじゃう。どこまでがカフカで、どこからが世田谷か・・・・・・、夢の中を彷徨う心地、頭は腸捻転。不協和音っぽい快感は、デヴィッド・リンチ監督の映画に通じる。

3本の小説を素材にワークショップを重ねて創った空間、お菓子にたとえれば幾層ものパイを重ねたミルフィユね。別の小説の登場人物同士が出会ったり、刻々と移る舞台には、ふとん敷いて寝こむ場面など懐かしき日本の情景も織り込まれます。

演奏とダンスも楽しめる。青い衣装の美女は、振付も担当する横町慶子(ロマンチカより客演)。撮影/引地信彦
フランツ・カフカの小説『失踪者』のカール・ロスマンを演じる三宅弘城。劇中、上の写真のように和服でギター弾く世田谷区長に変身。
ナイロン100℃主宰ケラリーノ・サンドロヴィッチ。劇作家、演出家、ミュージシャン。

カフカ作品は単純化されるのではなく、多彩な要素で豊かに変奏されるの。不条理なんて言葉の枠をはみだす破天荒なドラマが、今を生きる観客を引きつけます。役者自身(どこまでホントか、これまた謎)、カフカ作品の人物など、さまざまに「変身」しながら、出演者みんなが装置の操作、楽器演奏、ダンスと八面六臂の活躍。生の舞台、VIVA!

そして、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)作品を輝かす映像、その新鮮な使い方にも圧倒されます。具体的なワザは伏せておくけど、驚くわよぉ。

プログラムにはカフカの翻訳も手がけるドイツ文学者、池内紀とKERAの対談や、玉野大介の絵も収録され、読んでも眺めても愉快。インテリジェンス、ナンセンス、エロスが渦巻く大作を仕上げたKERA。初日終演後に見かけた姿は元気溌剌、金髪に囲まれた笑顔はFOREVER YOUNG♪ 年末年始にシアターコクーンで上演される新作書下ろし『東京月光魔曲』(12月15日~2010年1月10日)も待ち遠しい。

 

ナイロン100℃『世田谷カフカ ~フランツ・カフカ「審判」「城」「失踪者」を草案とする~』
脚本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
2009年10月12日(月・祝)まで
下北沢・本多劇場 Tel. 03-3468-0030

ナイロン100℃ オフィシャルサイト
http://www.sillywalk.com/nylon/

 

 

ハイバイ『て』

 

肉親って、憎しみ合うものなの? 
ニクシンのニクはニクイのニク?
ニクを与えたり受け継いだりしたニクに対して感情がねじれちゃうのは宿命?
人類最初の殺人は兄弟間で起こった、と旧約聖書のカインとアベルの逸話も示しているし・・・・・・。

深すぎる~! とムンクの絵のポーズで叫びたいほど濃密な家族劇「て」。

いろんな記憶がわきあがります。こんな思い、私も味わった、というデジャヴュも閃くわ。たとえ将来、私の記憶が薄れても、井上陽水・作詞作曲『リバーサイドホテル』聴くたびに、切なさが蘇りそう。

作・演出は、昇り竜の勢いで注目を集める岩井秀人。父の「愛情」が、母と4人の子供に与えた影が、巧みな構成で立体化されます。実感あふれる言葉と細やかな動きで、テンション高い舞台が出現していくの。人間に潜むいろんな面が出てくるから怖い、きれいごとじゃないから痛い。
ときに乱暴、かなり偏執、甘くないね。

作り手の思いが、複数の人物の視点を通して何乗ものエネルギーとなって、観る者を揺さぶるの。一見等身大のたたずまいから、とてつもないパワーを発揮する俳優ひとりひとりが見事。彼らの声や表情に滲む哀しみは、安易な涙を拒絶します。7人家族が病気や喧嘩で追い詰められる物語だけど、ドラマの緊張を吹き飛ばす爆笑にも襲われ、観客は忙しい。感情の大波小波にキリキリ舞。

祖母の「て」の意味は? 緊張感と笑いで観客をキリキリ舞させる家族ドラマ。撮影/曳野若菜
家族宴会は乱闘へ・・・・・・。肉親ゆえの思いが炸裂する迫力シーン。撮影/曳野若菜

低いステージの両側に向かい合って座る観客から、出番の前後にステージ脇に控える俳優たちも見えるの。いっしょにいる、みたいな感覚。装置は簡素だけど、観客のイマジネーションを喚起する力は半端じゃなくてよ。家族の重さをユニークな手法(観劇時に楽しんでいただきたいから内緒)で伝える「て」、さて、そのタイトル「て」とは何か?

写真上のベッドにいるのは認知症の祖母、右手には木製の小さな「て」。このオブジェが表すのは——加齢とともに水分を失う肌? 機能の衰え? もはや動かせない過去? それとも「手が早い」(暴力)、「手が離れる」(関係なくなる)、「その手は使えない」(手段、方法)といった意味かしら。
多様な解釈ができるから、観た人同士で話し合いたくなるでしょう。

アフタートークに登場した岩井秀人は、にこやかで繊細な印象。引きこもり体験もある苦労人ですが、雑誌シアターガイドの連載エッセイ「おむすめ日記」で3歳の長女を見つめるまなざしの優しいこと。トークのゲストは青年団を主宰する平田オリザ、初演と今回の再演について鋭くも温かい視点で語り、客席を沸かせました。

 

ハイバイ『て』
作・演出:岩井秀人
2009年10月12日(月・祝)まで、
池袋・東京芸術劇場小ホール1 Tel. 03-5391-2111

ハイバイ オフィシャルサイト
http://hi-bye.net

青年団 オフィシャルサイト
http://www.seinendan.org/

シアターガイド オフィシャルサイト
http://www.theaterguide.co.jp