シノエリの美術巡礼中 – 4 - ヴァーチャルなものを現実世界へ持ち出す『ツァオ・フェイ Live in RMB City 』展。

(2009.11.02)

「セカンドライフ」をご存じだろうか? 直訳すれば「第二の人生」。しかし、これは退職後の人生や老後の人生を指しているのではないし、九死に一生を得た後に歩む人生のことでもない。「セカンドライフ」―――それは世界最大のオンライン仮想世界である。

今回は、「セカンドライフ」上に「RMB City」という仮想都市を創造し、そこでの出来事を映像作品にした中国若手女性アーティスト曹斐(ツァオ・フェイ)の展覧会を紹介します。

Cao Fei / China Tracy, Live in RMB City, 2009, Video ©RMB City, Courtesy of Vitamin Creative Space

まず、「セカンドライフ」の説明をしなければならないと思います。

「セカンドライフ」とはアメリカ・サンフランシスコに本社のあるLinden Lab(リンデンラボ)社が運営するオンライン仮想世界のことで、世界中の人間が自分の化身であるアバターを使ってヴァーチャルの生活を楽しんでいます。Worldと呼ばれる仮想世界の中では、他のアバターと会話をしたり、ファッションを楽しんだり、或いは商売やアルバイトをしたりもできます。驚いたことに、結婚までできるのです。まさにもう一つの人生を送れるというわけです。また、セカンドライフ内のヴァーチャル通貨は現実世界の通貨に換えることができます。こうした中、セカンドライフ内の商売によって多額の資産を築く者も現れているようで、大学や企業も参入し始めているようです。

このセカンドライフに注目したのが曹斐(ツァオ・フェイ)でした。曹斐(ツァオ・フェイ)は映像、写真、パフォーマンス、インスタレーションなど、多様な形で作品を発表しているアーティストです。子どもの頃から日本や欧米のポップカルチャーに強い関心を抱いていたと話す彼女は、ヒップホップやコスプレといった若者文化を要素として取り入れながら、現代の中国の社会状況を表現してきました。2008年には横浜トリエンナーレに出品しています。

そんな曹斐(ツァオ・フェイ)が今回の展覧会で発表するのは、セカンドライフで購入した島にRMB Cityなる都市を建設する過程、そしてそこでの生活を映像化した作品です。曹斐(ツァオ・フェイ)はチャイナ・トレイシーという名のアバターでセカンドライフ内に存在します。RMB Cityには現代の中国都市を投影した建築物が建てられており、今日急速に発展を遂げつつある中国の雰囲気が伝わってくるようです。

私がこの展覧会で注目したのは、『RMB Cityに住む』という24分間の新作映像作品です。これはRMB Cityでの生活を物語風に紹介している作品で、セカンドライフ内でチャイナ・トレイシーが生み出したプログラムの赤ん坊の質問に、チャイナ・トレイシーが答えるという形で進行していきます。映画『着信アリ』を思わせるバックミュージックが流れる中、浜辺で赤ん坊と母(チャイナ・トレイシー)がヴァーチャル上の存在、現実、そして生死について語り合う場面は印象的でした。また、赤ん坊はRMB Cityの市長選挙の様子を見て「何故都市に市長が必要なのか?」と問いかけ、夜の繁華街で派手な衣装を纏った女性たちが何の為にいるのか尋ねます。「生命とは何か?」、「何が現実で、何がヴァーチャルなのか?」……。その他様々な問いかけにチャイナ・トレイシーが答えることで、現実世界の問題点が浮き彫りになり、私たち鑑賞者に現状の向き合うべき問題を問いかけてきます。

The Birth of RMB City, 2009, Video, © RMB City, Courtesy of Artist and Vitamin Creative Space, Guangzhou/Beijing

歳をとることがなく、死ぬこともないヴァーチャルな世界。そこで生まれた現実世界を知らない赤ん坊。しかしその赤ん坊は母に懇願するのです。「ママ、いつか現実世界へ連れてって!」と。ここに、現実世界からヴァーチャルへ向かう通常のベクトルとは反対の、ヴァーチャルから現実世界へ向かう方向が示唆されています。また、曹斐(ツァオ・フェイ)は、セカンドライフの出来事を現実の劇で再表現をするという試みもしており、役者にアバターの表情を模倣させたりしているようですが、ここにも同様の方向性が現れているようです。

セカンドライフのようなオンライン上での仮想現実に対して、否定的な感想を持つ方も数多くいることでしょう。確かに、ヴァーチャルな世界へのめり込むことは、現実逃避のようにも捉えられます。しかし、私たち人間は常にヴァーチャルな世界を求めてきたのではないでしょうか。ヘルブルン宮殿の「愉悦の庭」や、今や世界中にあるテーマパークの存在が、そうした人間の心を物語っているようです。これを単なる現実逃避として一蹴してしまってはならないように思います。そして今、曹斐(ツァオ・フェイ)が試みているのはヴァーチャルなものを現実世界へ持ち出すことです。これは現実とヴァーチャルの境界線をますます曖昧なものにしそうなのですが、そもそも私たちはその境界を認識できているでしょうか? あなたの目の前に広がる世界が本当に現実なのか……。

曹斐の作品を通して、仮想現実は私たちが思っているよりも深く、現実世界に入り込んできているのではないかという印象を受けました。

この展覧会を通して、新たな世界の発見が得られるかもしれません。

i.Mirror, 2007, video, Courtesy of Artist and Vitamin Creative Space, Guangzhou/Beijing, Lombard-Freid Project, New York

 

シノエリの現場ルポです!

『ツァオ・フェイ Live in RMB City 』のプレス・ビューに行って来ました!
その日は小雨が降っていましたが、雨の銀座も風情があります。
銀座中央通りにある資生堂ギャラリーはとてもお洒落なところ。
資生堂パーラーには思わず目が吸い寄せられました。
可愛くて美味しそうなスイーツが並んでいたのです……。

曹斐(ツァオ・フェイ)さんのお話を拝聴し、
会場ではじっくりと映像作品を鑑賞。
その後、なんとマガジンハウスの方々と対面しました。
とても貫禄のある雰囲気をお持ちで、少し緊張しました。

最後に会場内で撮影!

 

 

曹斐(ツァオ・フェイ) Live in RMB City

期日:2009年10月27日(火)~12月20日(日)
会場:資生堂ギャラリー
営業時間:平日 11:00~19:00 日曜・祝日 11:00~18:00
休館日:月
料金:無料
問い合わせ:資生堂ギャラリー
Tel. 03-3572-3901
http://www.shiseido.co.jp/gallery/