リブロ・トリニティ – 9 - 『ブラウンは、晴天なり。』(マーブルトロン刊)

(2009.08.28)
~著者+編集者+書店スタッフ、著者+書店販売員+読者……3人が一体となり、力を合わせて完成した本を紹介するコーナーが「リブロ・トリニティ」です~

おくがわじゅんいち著

『ブラウンは、晴天なり。』

おくがわじゅんいち著
『ブラウンは、晴天なり。』


■ 著者より

おくがわ じゅんいち

大阪生まれ。大学卒業後から写真をはじめ、現在フリーのフォトグラファーとしてのんびり活動中。写真に限定されずかわいいもの大好きで、部屋に飾るものや、身につけるものなどいろいろ手作りしてます。主な著書は『ブラウンダイアリー』『ブラウンダイアリー・春夏秋冬』(グラフィック社刊)、『カンチガイ食堂 店長ブラウン』(スターツ出版刊)など。
HP : http://www.browndiary.com/

ブラウン目線で語られる、なんともいえないかわいくもゆる~い1冊

ブラウンとの出会いは、10年以上前のある夏の日。以来『ブラウンダイアリー』(グラフィック社刊)をはじめ、彼の成長を撮りためた写真集や写真絵本など、今までに6冊の書籍を出版してきました。

『ブラウンダイアリー』はボクが家族の目線から見たブラウンを撮り続けてきたものを厳選して集めた、きちんとした作品集。本書はそれらと同時期にポラロイドで撮りためたブラウンの気持ちで撮ったスナップで構成されたかなりプライベートな写真集。

どこに行ったとか何をしたとか、特に大掛かりなイベントはなくて、何でもない日常を1週間切り取ったような、本当に私的な肩の力の抜けた写真ばかり。僕が狙って撮ったというより、ブラウンに撮らされたというか、今でいう携帯で写メを撮る感覚でスナップを撮りためてきました。

そんな写真が撮れたものポラロイドだったからかな。偶然性を帯びた、黄色み、ピンのズレ、ザラッとした質感など、インスタント感がとても良くて、ブラウンの空気感にピッタリだったんです。ただ、自分的にはあまりにもプライベートスナップに感じていたので、未発表にしてました。

マーブルトロンから「ブラウンの本を出版したい」という話をいただき、どういう内容にしようか悩んでいる時、ブラウンから(?)提案が。ポラロイドが世の中からなくなってしまい、もう撮ることもできなくなってしまうから、今まで撮ったものをまとめたら?だって……。

本来、写真をプリントする時は、撮影した時の雰囲気を自分の世界に合わせて色調整を施すのですが、先にあげた偶然性を含め、基本、撮りっぱなしの空気感を活かしました。出来上がった本はいつもベットサイドに置いてあり、毎晩毎晩寝る前に何度も見てしまうんですね、自分の目線ではなく、限りなくブラウン目線で語られている写真が多いせいか、知らないうちにブラウンの気持ちで読んでるんです。なので自分の撮影した写真集なのに、不思議と自分で撮ったの忘れて見てるんですよね。そんなブラウン目線で語られてる、なんともいえない感じのかわいくもゆる~い1冊なのです。

そして、そのゆる~さを理解してくれ、同じ気持ちで楽しみながら関わってくれた、編集者、アートディレクターにがっちりと支えられたことで、ゆる~いながらもとても完成度の高い写真集が出来たことに感謝しています。

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■書店スタッフより

リブロ渋谷店佐藤 明美(さとう・あけみ)

リブロ渋谷店芸術書担当。渋谷ということもあり、デザインや流行に敏感なお客様が多いお店です。どうして売れるの?と聞かれるようなものがよく売れ、出版社の方々から逆に質問されることもよくあります。

話があるようでないし、ないようであったり。そこが面白い。

被写体次第で、とても作為的になってしまったりする写真もありますが、ブラウンの写真は、話があるようでないし、ないようであったりします。手にする人が、それぞれに物語をつくることで初めて本ができるのですね。そこが面白いと思います。

また、手にした瞬間しっくりとくる紙質と厚さだとも思いました。本の感触を大事にされる方は意外に多いと思います。そうしたこともあって、とてもバランスがいい本だなと思いました。

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■編集者より

マーブルトロン石橋 淑美(いしばし・よしみ)

神奈川県出身。編集プロダクションを経て、学生時代にインターンをしていたマーブルトロンに入社。『まこという名の不思議顔の猫』『築地御厨直伝 野菜の選び方、扱い方。』『女子鉄』『オーブン・ミトンのおやつなお菓子』などを担当。

写真を見ながら、ブラウンが何を考えているのか想像できる楽しみ。

本書のはじまりは、弊社営業担当(元書店員。1冊目が出た頃からのブラウンファンだったそうです)が持って来た1冊の本でした。小さなクマが布団にうずくまっているいじらしいカバー写真に一瞬でやられた私は、その場で本書を作ることを決意したのです。その時に見た本がブラウンシリーズ1作目、『ブラウンダイアリー』でした。

私が著者のおくがわさんに最初に提案させていただいたのは「ブラウンのかわいいいたずら&失敗集」。例えば、人の家に来て勝手に冷蔵庫を空けてしまったり、しかも中の牛乳を勝手に飲んでしまったり。そういう子っていますよね。実際にやられたらイラッとするかもしれませんが、くまのブラウンがそんなことをしたらどんなにかわいいのだろう! そんな何気ない日常をゆるいテーマとしつつ、何を軸に持っていくのかをおくがわさんと随分悩みました。

そんな時、ポラロイドで撮りためていたブラウンの写真を見せていただきました。それがブラウンの雰囲気とぴったり、かついたずらも作為的でなく見えるので、おくがわさんからのご提案もあり、オールポラロイドの写真集でいこう! ということになりました。

その中にはブラウンが写っていない写真もたくさん含まれていたのですが、それらすべてがブラウンが実際に見ている風景であるように溶けこんでいたので、そのまま使わせていただくことにしました。本書ではいままでの「ブラウンシリーズ」にはない、ブラウン視点の世界が繰広げられています。

 撮りためていらっしゃった写真に、追加で私がお願いしたいたずら要素をさらに撮りためていただき、気がついたら176ページの大作に。ただ、重厚なつくりよりも、サラッと手に取れるかわいらしいものにしたかったので、デザイナーさんに相談して、判型は小さく薄くしなやかな紙にしていただきました。

ブラウンの写っている写真を見ながら、ブラウンが何を考えているのかを読者の方が想像できる余地があるのが、この写真集の魅力のひとつです。読者の方はもちろん、またまた書店員さんにも末永く愛される1冊になればと思います。

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