『スパイラルレコーズ』プレゼンツ美叢書シリーズ『クリスタル ケージ』
トークセッション vol.2開催。

(2013.04.10)

4月29日『crystal cage 叢書』
第2回配本刊行記念イベント開催。

『kindle』の本格始動で、日本における電子書籍元年となった2012年、『crystal cage叢書(クリスタル ケージそうしょ)』が『TPH』 (Tokyo Publishing House)から刊行されたのはご存知でしょうか? 『crystal cage』というジョセフ・コーネルの作品の名を冠したこの叢書シリーズのテーマは「場所」や「土地」。また、いわゆる一般の書籍出版とは大きくあらわれのかたちを変え、「紙」の本ならではの印刷や装丁の美しさにこだわり、同時に所有に歓びを感じられる上質な叢書シリーズです。現代美術をとりあつかうギャラリーを母体とした出版社、『TPH』 からの発売で、読書界の常識を静かに崩しゆるやかに波紋を拡げつつあります。

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『crystal cage叢書』は「造本革命のNEXT」と呼ばれています。その最たる理由は、書籍のテキストや図版が載る本文部分の印刷が、『TPH』と恊働する多摩美術大学芸術学科・書物設計ゼミの研究室を拠点とする「PrintRooms」でなされているということ。そして、使用されているプリンターが家庭用の高級機種だということ(8台を擁して印刷)。家庭用プリンターの性能の向上から、高精細な印刷を身近なものとすることができるイノベーションを、柔軟に取り入れたものといえます。

また、一般の出版社では企画の段階で採用されにくい、作品性と専門性を持った、本当につくりたいと考える本の構想・出版が可能になっているということ。これには上記のように印刷の部分で製造原価を削減する仕組みが大きく関わり、さらには下記の事項が要となっています。

1)「叢書」という一定の判型やページ数で制作すること。
2)一回の製本を数タイトル同時におこなうこと。
3)約4ヶ月のタームで、継続的に出版すること。

つまり、一定の判型で制作することで、数タイトルをあたかも一冊の本としてみなし製本所へ発注することで原価を低くならしているのです。次の配本の際には新刊と重版のものを合わせ、この流れを繰り返していきます。

流通の面でも出版界の慣例とは一線を画し、自社のウェブサイトでの販売を中心としながら、感度の高い販売店からの賛同を得ることで、「取次」を介さない直接の卸で、上記の流れをより円滑にしています。


第1回配本の3冊。鮮やかな色のクロス装の表紙。外側をジョセフ・コーネルの図版が施された透明のスリーブが覆う。

美装丁、内容の質の高さと深度が魅力
『crystal cage叢書』

既存の書籍出版の流れを刷新するシステムを『TPH』とともに構築し、プロデュースするのが、詩人・造本家で、多摩美術大学教授の平出隆さんです。30年以上にもわたり、詩の領野を清澄な思索をもって切り拓いてきたのみならず「造本装幀コンクール経済産業大臣賞」を受賞するなど、造本家としても高く評価されています。「エクリチュール(書く行為)としての造本」を標榜しスタートさせた『via wwalnuts叢書』で、前述のプリンターを使用したことが『crystal cage叢書』を始動させる大きな端緒となっています。平出さんは多摩美術大学芸術学科「書物設計ゼミ」で指導にあたっています。

『crystal cage叢書』の何よりの魅力は、その刊行物の質の高さと深度です。第1回配本の20世紀のアメリカを代表する美術家、バーネット・ニューマンの芸術論、寡作ながら多くの熱心な読者をもつ詩人・河野道代の散文小品集、写真家・著述家の港千尋によるバスク地方の「色」と「味」にまつわるエッセイ+写真集というバラエティ豊かな3タイトルは、美術・文芸ファンのみならず大きな反響を得、発売後、約半月で版元品切になるものも出ました。

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十分な手間と時間をかける。新しい技術の「なか」に伝統ともいえる手法を取り込む仕方は、より「フィジカル」な側に、人間の感覚の様々を刺激する側に、振れようとする。ここも、『crystal cage叢書』の在りかたの重要な部分です。

「フィジカル」という部分ではもう一点、この出版は、イベントと連動しているということがあります、『crystal cage叢書』の販売店である『SPIRAL RECORDS』の企画のもと、平出隆さんをプレゼンターに、多岐におよぶ芸術を考察していくトークシリーズとして「『crystal cage』トークセッション」が、新刊の刊行にあわせて開催されます。新刊の著者や訳者、取り上げられた作家の研究者などを交え、あらゆる芸術の領域の根源に揺籃する、思索の運動について、考えます。

第2回配本にあわせて開催されるのは、4月29日(月・祝)。平出隆の書簡体の散文作品『葉書でドナルド・エヴァンズに I』(絵葉書版)、美術評論家の酒井忠康による故郷、積丹半島の回想記、『積丹半島記』の刊行を記念しての開催です。今回は、『SPIRAL RECORDS』からソロ・アルバム『GLASHAUS』をリリースする際に、ドナルド・エヴァンズの切手作品と平出隆のデザインをもとめた作曲家・ギタリスト・プロデューサー、伊藤ゴローをむかえ、トークとライブの2部構成で行います。さらには、代々木八幡の人気コーヒースタンド、『Little Nap COFFEE STAND』 によるコーヒーや、千駄木の『 books & café BOUSINGOT』セレクトによる古書のほか、版元である 『TPH』がこれまでに制作した展覧会のカタログや、その他刊行物、直輸入の貴重なアート関連書も販売。

『crystal cage』というプロジェクトは、衰退の一途をたどっているとされる今日の出版状況さえも生物が変態していく契機のようなものとしてとらえ、理想の本のかたちへと精練していくプロセスそのもののあらわれといえそうです。(スパイラル、株式会社ワコールアートセンター 広報部)

SPIRAL RECORDS presents
『crystal cage』トークセッション vol.2 ―― 叢書刊行記念

日時:2013年4月29日(月・祝)
    開場 16:00、開演16:30
会場:Spiral Hall ホワイエ    
    東京都港区南青山5-6-23(スパイラル3F)
料金:1,500円(要予約/抽選)    
下記イベント詳細ページよりメールにてお申し込みください。    
http://www.spiral.co.jp/e_schedule/detail_537.html

出演:酒井忠康(世田谷美術館館長・美術評論家)、伊藤ゴロー(作曲家・ギタリスト・プロデューサー)、平出隆(詩人・造本家・多摩美術大学教授)

出店 : 『Little Nap COFFEE STAND (リトルナップコーヒースタンド)』、『 books & café BOUSINGOT(ブックス&カフェ・ブーザンゴ)』、『TPH』


SPIRAL RECORDS presents 『crystal cage』トークセッション vol.2 ―― 叢書刊行記念

『crystal cage叢書』
新刊:2013年4月29日発売予定 第2回配本
酒井忠康 『積丹半島記』

3,100円(税込)初版第1刷100部
世田谷美術館館長で、美術評論家の酒井忠康による故郷、積丹半島の回想記、『積丹半島記』

平出 隆 『葉書でドナルド・エヴァンズに I 』
3,500円(税込) 初版第1刷100部
約12年ぶりの復刊となる、平出隆の書簡体の散文作品で、架空の世界を夥しい数の切手に描きつづけ夭折した画家、ドナルド・エヴァンズの軌跡をたどった痛切な旅の形見

*4月29日(月・祝)のイベントの際に、会場にて先行販売およびサイン会をいたします。 数に限りがありますので、売り切れの際はご了承ください。
*店頭での一般発売は4月30日(火)からとさせていただきます。

既刊(2012年11月16日発売 第1回配本・重版出来)
バーネット・ニューマン 『崇高はいま』 三松幸雄 編訳 3,100円
河野道代 『時の光』 2,700円
港 千尋 『バスク七色』 3,500円

*価格はすべて税込みとなります。