鬼頭舞の放課後美術館 – 1 - まるでゲームショウ!? 『ツァオ・フェイ Live in RMB City』展。

(2009.11.17)

まるでゲームショウに来ているかのよう……。壁一面に映し出されたCGを駆使した映像、その中に現れる近未来的なボディスーツに身を包む女性(某ボーカロイドをも思わせる)や、スーパーマリオブラザーズのBGMがそんな錯覚に陥れられる。今回私がお邪魔しているのは銀座の資生堂ギャラリーにて開催中の若手中国人女性アーティスト、『ツァオ・フェイ Live in RMB City』展。彼女は3D仮想空間サービス、セカンドライフ内にRMB Cityを構築するRMB City Projectを展開しており、今回出品された作品はこのプロジェクトの一部で、すべて映像による作品です。

セカンドライフは数年前から話題になっていたので耳にしたことのある方も多いでしょうが、「メタベース」と呼ばれる仮想世界での暮らし(セカンドライフ)をアバター(自分の分身のキャラクター)を用いて楽しむことができるサービスで、アカウントを作れば18歳以上であればだれでも利用できます。セカンドライフはDiorがセカンドライフ内でアバター向けコレクションを発表するなど、新たなクリエイション及びビジネスの場としても注目を集めていましたが、ツァオのようにセカンドライフをメディアに製作するアーティストはまだ世間に名を知られておらず、今回の個展は非常に意欲的な試みと言えるでしょう。

Cao Fei / China Tracy, Live in RMB City, 2009, Video ©RMB City, Courtesy of Vitamin Creative Space

ツァオが築いたRMBCityは現代中国に特有の建物の集合体のような空間で、CGで精密に表現されたそれらは会場内で最大のスクリーン上に映される『RMB Cityに住む』で詳しく見ることができ、それだけでも見ごたえがあります(なんとあのグッゲンハイム美術館まである!)。RMBCityに暮らす人々(アバターたち)もツァオ自身のアバターであるチャイナ・トレーシーをはじめ、遊女や風水師など見た目にも個性に富んでいて見ていて飽きません。

さらにツァオはプロジェクトの中でさまざまなアーティストとのコラボレーションまでしています。先述した風水師はツァオとコラボレーションしたアーティストのうちの一人のアバターで、ツァオと≪マスターQによるRMBCityの仮想風水ガイド≫という作品を制作しています。このようなコラボレーションがしやすいのもセカンドライフというメディアの特性ならでは。逆に言うと、作家が誰なのかということもセカンドライフでは曖昧になりやすいのです。実際ツァオの作品を見ていると、どこまでがツァオ本人の意思によるものなのか、がわからなくなってきます。RMBCityにも市長が存在しますが、それはツァオではなく、また別の一般人のアバターなのです。それはもしかするとあなただったかもしれません。このようにセカンドライフ上ではだれしもが作家になることができ、まただれしもがアート作品に気軽に介入できるのです。自分がもしアバターだったらなんてことを考えながらツァオの作品を見てみるのも面白いと思います。ツァオはセカンドライフの中に私たちとアートをもっと身近なものにする可能性を見出していたのではないでしょうか。

ツァオはRMB Cityを築く傍ら、セカンドライフ上で様々な人と出会いをもとに『アイ・ミラー(i.Mirror)』という作品を制作します。その内容はチャイナ・トレーシーとマッチョなブロンドのイケメンアバター(実際は60過ぎの男性!)のちょっとしたラブストーリーで、それはセカンドライフでの日常(クラブでのパーティ、アバター同士の結婚からアマゾンのような僻地への冒険まで!)をスナップショットのように織り交ぜながら展開していきます。そのやりとりの大半は現実(Real Life(RL))とセカンドライフ(Second Life(SL))との違いは何かということに焦点が置かれており、ウェブ上と現実の境界線の希薄さを考えさせられます。そのほかにもツァオの作品は現代中国における社会の状況、都市の有り様、女性の立場や日本文化の影響からハリケーンカトリーナ発生後のアメリカの政権批判、ウェブに特有の匿名性至るまで、様々なことを私たちに提示してくれます。ツァオのこうした映像作品はセカンドライフという仮想空間(=虚構)を媒介としていながらも、現実を様々な観点から克明に描き出しているのです。

i.Mirror, 2007, video, Courtesy of Artist and Vitamin Creative Space, Guangzhou/Beijing, Lombard-Freid Project, New York

ツァオのこうしたセカンドライフによる作品のように、絵画や彫刻のような既存の芸術体系にあてはまらない作品は近年増えています。こうした作品は私たち、鑑賞者側にも難解ですが、作家側にとっても扱い辛いものでしょう。しかしツァオは非常にセカンドライフというメディアをうまく利用しているように思います。現実を仮想空間によって描き出すという意表を突く表現をしつつ、かつそれを私たち鑑賞者から程近い次元で成し遂げている。それゆえに私たちはツァオの描き出す現実をより真摯に受け止めることができるのです。ツァオのようなアーティストはとっつきにくいと思われがちな現代アートと私たちの距離を狭めてくれる可能性を秘めているように思います。新たな芸術表現の場としてのセカンドライフ、そして新鋭アーティスト、ツァオ・フェイの今後に期待!ゲームショウには行ってもいいけど現代アートの展覧会はちょっと…と思っている方にこそ見てもらいたいそんな展覧会です。会期は12月20日(日)まで、平日は11:00から19:00まで、休日は18:00まで開館しているので(しかも無料!)銀座でのお買い物、お仕事ついでに是非お立ち寄りを!

The Birth of RMB City, 2009, Video, © RMB City, Courtesy of Artist and Vitamin Creative Space, Guangzhou/Beijing

 

放課後美術館、ちょっとこの寄り道

『ツァオ・フェイ展』を見終わった後、お腹がすいたという方はリッチに同じ資生堂ビル内にある、名店『資生堂パーラー』で食事をしたり、お土産にチーズケーキをはじめとするスイーツを買って帰るなど、どっぷり資生堂コースも銀座らしくていいですね。程よく近くにある老舗画材屋さん『月光荘画材店』。こちらは意外と知られてないことですが珈琲が飲めます。ギャラリー帰りに画材屋さんで珈琲を一杯なんてのもまた素敵ですよね。

 

 

曹斐(ツァオ・フェイ) Live in RMB City

期日:2009年10月27日(火)~12月20日(日)

会場:資生堂ギャラリー

営業時間:平日 11:00~19:00 日曜・祝日 11:00~18:00

休館日:月
料金:無料

問い合わせ:資生堂ギャラリー

Tel. 03-3572-3901

http://www.shiseido.co.jp/gallery/