深瀬鋭一郎のあーとdeロハス未来の美術大国? ~ソウルのアートスポット案内 美術館&野外編~

(2013.10.25)

  『LEEUM美術館』内部の螺旋階段。NYのグッゲンハイム美術館の吹き抜けと似ています。

ソウルで美術館=ミスルグァン巡り
まずは『国立現代美術館』

前回コラムではソウルのギャラリーを紹介しました。引き続いて、今回のコラムでは、韓国の現代アート史やソウルの美術館、野外展示の紹介をしましょう。

さて、ソウルで美術館(ミスルグァン)巡りといえば、まずは、何をおいても『国立現代美術館』です。韓国では、国の文化政策として現代美術を振興していますので、とても巨大な国立の現代美術館と、これもまた大きな、その分館が存在するのです。


ソウル大公園はとにかく広いので、地図上で近目に見える『国立現代美術館』でも、歩いて行くのは大変です。


『国立現代美術館』までは園内バスかリフトで行きます。

1969年に開館し、1986年に大韓民国 京畿道 果川市の「ソウル大公園」に移転しました。地下鉄4号線「大公園(テゴンウォン)駅」4番出口から出て大公園に入園し、無料シャトルバス(約20~30分間隔で運行)やリフトを利用します。常設展示は無料、企画展示は一般3,000ウォン程度です。美術館入口前には彫刻ガーデンがあり、館内には、ナム・ジュン・パイク(白南準、Nam June Paik、1932-2006年)がソウル・オリンピックの開催に合わせ、テレビ受信機を尖塔のように積み上げて制作した『多多益善(多いほどよい)』(1988年)をはじめ、各年代の韓国人現代美術作家の代表作が展示されています。


『国立現代美術館』外観。

なぜ、最初に『国立現代美術館』に行った方が良いかというと、ここでは韓国の現代美術史を通観でき、それによって韓国美術への理解が深まると思われるからです。韓国現代美術史の最初のキム・ファンギ(金煥基、Kim Hwan-Ki、1913-1974年)に代表されるように焼き物やカリグラフィの伝統の下でモノトーンが強かった韓国現代美術が、日本での活動経験を有する作家たち、そして欧米に留学・移住した作家たちにバトンタッチされていき、連続的に展開していくというよりは、世代的な断裂をもって変化していく様が良く分かります。


『国立現代美術館』建物の周囲は彫刻公園になっています。


館内に入るとナム・ジュン・パイクの代表作『多多益善(多いほどよい)』が建物を貫いてそびえ立っています。

1940年代からのモノクロームに始まる
韓国の現代アート史。

日本では、1980年代の欧米美術の輸入に始まり、特に1930年代以降は、欧米への留学生たちによって徐々に国際化がもたらされ、日本でもフォービスムからポップ・アート、コンセプチュアルやミニマリズムなど欧米の美術動向に呼応した一通りの展開がみられました。韓国では、1940年代からのモノクロームな展開の後、1960-70年代に日本への留学生・移住者がまず日本で活動し、それを足がかりに欧米へ進出していくという構図が見られ、続いて、1980年代以降に欧米留学・移住組が、国際美術動向へ突入していく動きとなりました。

すなわち、1960-70年代には、墨で韓紙に描いたカリグラフィのような抽象画で評価を得たソ・セオク(徐世鈺、Suh Se-Ok、1929-)、油彩でリアルな「水滴」等を描き第12回サンパウロ・ビエンナーレでは名誉賞を受賞したキム・チャンヨル(金昌烈、Kim Tschang-Yeul、1929-)、ミニマルで禁欲的・平面的な大型油彩画を描くパク・セオボ(朴栖甫、Paik Seo-Bo、1931-)、日本の美術動向「もの派」(1968-)の理論的指導者となったリ・ウーファン(李禹煥、Lee U-Fan、1936-)らが、モノクロームな半抽象の、いわば「韓国的モダン」を推し進めました。

映像や画像を利用した
ポップかつミクスド・メディアな80年代以降。

他方、世界のビデオ・アートと「ビデオ彫刻」(ビデオ・インスタレーションのこと)の開拓者となった前出のナム・ジュン・パイクや、有名政治家の顔の上半分と自分の顔の下半分を組み合わせたリトグラフ作品シリーズ(「クリントンと郭」など)によりナンセンスでユーモアのある社会批判を行ったクウァク・ドゥク・ジュン(郭徳俊、Kwak Duck Jun、1937-)らが、映像や画像を利用したポップかつミクスド・メディアな展開を進めました。

『針の女』などフェミニズムかつ内省的なビデオ・インスタレーション作品で知られるキム・スージャ(金守子、Kim Sooja、1957-)や、カラフルかつキッチュな大型立体作品で世界的な人気を博するチェ・ジョンファ(崔正化、Choi Jeong Hwa、1961-)、独特の有機的フォルムを有する立体で頭角を現している李昢(イ・ブル、Lee Bul、1964-)など、現在、韓国の中心作家となって国際的に活躍している中堅は、こうした韓国美術の優れた部分を引き継ぎつつ、欧米の現代美術の流れも汲んでおり、欧米にも受け入れやすい存在となっています。

自然とアートが織りなす憩いの美術
館『ソウル市立美術館』

さて、『国立現代美術館』の分館『徳寿宮(トクスグン)美術館』は、ソウル都心の地下鉄1&2号線「市庁(シチョン)駅」から徒歩2分。徳寿宮は韓国を代表する故宮のひとつ。周囲の庭園も素晴しいです。建物自体が芸術品のような歴史的文化財ですが、実は、その中では近現代美術の企画展を開催しています。


『徳寿宮美術館』の入口からみるソウルの夜景はとても美しいです。


『国立現代美術館』分館『徳寿宮美術館』 は建物自体が芸術品のような故宮です。

 

『ソウル市立美術館』は、その徳寿宮から塀をはさんだ隣の丘の上ですが、徳寿宮からみると、徳寿宮の門が市立美術館とはほぼ反対側にあることから、『ソウル市立美術館』へハシゴするためには、観光がてらにまず徳寿宮の門に向かい、門を出てから塀の外を市立美術館側に向かい、右回りに半周回る形になります。『ソウル市立美術館』は、都会のオアシスのような、自然とアートが織りなす憩いの美術館です。4,000坪という広大な敷地の中の小高い所にあるので、ハイキング気分で遊歩道を登っていく形になります。入場無料です。

『ソウル市立美術館 南ソウル分館』は、赤レンガの古風な建物。ソウル最大の川である漢江の南、江南(カンナム)区にあり、地下鉄2号線または4号線で「舎堂(サダン)駅」に行き、徒歩2分。他のアート・スポットからは、ちょっと離れた立地かもしれません。大韓帝国(1897~1910)時代の1905年に竣工した旧ベルギー領事館の建物が、再開発事業のため1983年に現在の場所に移転し、復元され、2004年9月に開館した美術館です。庭には国内作家の彫刻が展示されています。


小高い所にある『ソウル市立美術館』への登山道入口。


『ソウル市立美術館』の外観。

最高水準の民間美術館
サムスンミスルグァン:リウム=『三星美術館Leeum』

『三星美術館Leeum』(サムスンミスルグァン:リウム)は、ファッショナブルお店が並ぶ、地下鉄6号線「梨泰院(イテウォン)駅」から一駅隣りの「漢江鎭駅(ハンガンジン)駅」下車、丘を登って徒歩6分。梨泰院にはギャラリーも数軒あるので、一緒に立ち寄るのも良いでしょう。2004年10月にオープン、敷地面積1200坪、延べ面積は4500坪。所蔵品は、国宝36点、宝物96点を含む古美術から世界的な現代美術作家の作品まで約15,000点にも上る、国立の博物館や美術館にも劣らない最高水準の民間美術館です。

『LEEUM美術館』の入口脇のデッキには大きな彫刻も展示(ルイーズ・ブルジョアの蜘蛛のオブジェなど)。
 

「リウム(Leeum)」の語源は、半導体・電機で有名な韓国のサムスングループの創始者かつ美術館の設立者である故・李秉喆氏の苗字「Lee」と、美術館を意味する語尾「-um」を組み合わせたもの。韓国の文化財と伝統美術品を収集した李秉喆氏の遺志を継ぎ、現会長・李健熙氏が現代美術の重要作品を収集しました。古美術館(MUSEUM 1)は、スイスの建築家マリオ・ボッタ(Mario Botta、1943-)が韓国の陶磁器にインスピレーションを受けて設計し、現代美術館(MUSEUM 2)の建物はフランスの建築家ジャン・ヌーヴェル(Jean Nouvel、1945-)によるもの。いずれも芸術的な佇まいです。


『LEEUM美術館』入口の宮島達男(1957年-)の青い発光ダーオードによるカウンター・ガジェット作品。

このほか、ギャラリー街に近い景福宮(キョンボックン)のすぐ近くに、アフリカンアートの『アフリカ美術館』や、年2~4回の企画展でアート、デザイン、写真、ファッションなどで大きな足跡を残した作家を紹介している「大林(デリム)美術館」があります。また、オルタナティブ(商業ギャラリーや美術館ではない)スペースとしては、「文化駅ソウル284」(旧ソウル駅舎)や、韓国最高峰の芸術大学である弘益(ホンイッ)大学の近くのアート・ビル「KT&Gサンサンマダン」があります。サンサンマダン内には、ギャラリーや映画館、ライブホールがあり、周辺の弘大(ホンデ)エリアには、クラブ、カフェ、ブティックなどが集積しています。

野外アート・スポット
「オリンピック公園」、「駱山プロジェクト」

最後に、折角ソウルを訪問しても、気付かないで通過する方がほとんどなので、優れた野外アート・スポットもふたつ紹介しておきましょう。

そのひとつは、「オリンピック公園(オルリムピッコンウォン)」。地下鉄2号線「蚕室駅」・「城内駅」、5号線「オリンピック公園駅」または8号線「夢村土城駅」からバスに乗り換えて行きます。園内には、百済時代初期の遺跡「夢村土城(モンチョントソン)」や夢村歴史館、広場・ジョギングコース、オリンピック文化センターがあり、ソマ美術館と204彫刻作品・8造形物を擁し、歩いて一周するのに3時間はかかる世界最大級の彫刻公園としても知られています。イスラエルのダニ・カラヴァン(Dani Karavan、1930-)、フランスのセザール・バルダッチーニ(Cesar Baldaccini、1921-98)など、ソウル・オリンピック参加国の作家の代表的な作品も展示されています。

もうひとつは、地下鉄4号線「恵化(ヘファ)駅」2番出口から徒歩10分の梨花洞(イファドン)・月の街(タルトンネ)一帯に広がる「駱山プロジェクト」。通称「路上美術館」です。ソウル大学キャンパス跡地のマロニエ公園(マロニエコンウォン)の裏から急な坂や階段を登っていくと、約70人の作家と住民による壁画、彫刻、看板など80作品が、街に溶け込みながら展示されています。2006年9月に鍾路(チョンノ)区文化観光部の生活環境改善事業の一環として始まったもので、日本の特別区・市町村にも、まちづくりのモデル・ケースとして参考になるかもしれません。


駱山プロジェクトの路上美術館。素敵な佇まいです。


「月の街」からソウルの街に歩いていく男性のオブジェ。