土屋孝元のお洒落奇譚。映画の世界では傘をさしませんが、
日本の梅雨には傘は必要でしょう。

(2012.06.15)

「パリは雨に濡れた風景が美しい。」

日本の梅雨には傘は必需品ですが、ヨーロッパ、パリやロンドンでは傘をささずに歩く様子が映画などによく出てきます。

僕も仕事や旅行などで経験があるのですが、パリでは雨に打たれてもホテルの部屋に入るとすぐに乾くのです。(パリで気をつけたいのは犬の糞、そこらじゅうに落ちていますので、踏んでしまったら大変です。)湿度が低いので靴が濡れてもすぐ乾きますが、硬水のためかカルシウム分が結晶化して靴に付くこともあります。まあそれも気にしないのかもしれません。また、こんな事があるからとも、傘の生地が薄くて傘をさしても雨が漏るから……。

先日見た映画のワンシーンで主人公のシナリオライター、小説家が「パリは雨に濡れた風景が美しい。」というセリフがあり、雨に濡れながら街を散歩するシーンが出てきました。

ロートレックのポスター。

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映画のあらすじを簡単に説明しましょう。婚約者と憧れのパリへやってきた主人公がディナーの後、酔いさましに一人街を散歩していると街角で出会った古いクラシックカーに乗り込み20年代の世界へタイムスリップして夜な夜な憧れの人々に会い、楽しく過すうちにあることに気がつくという話です。

フィッツジェラルド夫妻やヘミングウェイ、ピカソにマチス、ダリにマン・レイ、バーではコール・ポーターが弾き語り、その世界で主人公はピカソの愛人に惹かれてしまいます。その彼女曰く、ベルエポックのパリが一番素敵、と。今度は馬車に乗り、ベルエポックのムーランルージュへ、そこでデッサンを描くロートレックに会い、ドガとゴーギャンを紹介され、私はここに残る、と言われてあることに気がつくのです。人は今の時代に不満があり、いつも過去に憧れているが、その世界へ行けば、また、過去の世界に憧れる。と。夜が明けて、また、今の世界に戻ってくる。

婚約者と別れ、一人パリに住もうと決めてアレクサンドル3世橋のたもとに佇んでいると、コール・ポーターに詳しい古レコードを売る蚤の市の店の女性に偶然出会う。「私もあなたのことを考えていたところ。」雨が降ってきて、「私は雨のパリが一番美しいと思う」と……。二人雨に濡れながら歩いて行くシーンでエンドタイトルロールイン。

若かりし日のヘミングウェイ。
アレクサンドル3世橋。
日本橋丸善にて
傘をオーダーしました。

前ふりが長くなりました、傘の話、『フォックス』『ブリッグ』が有名なメーカーで、
僕も以前は持っていたのですが、大事に使っていたのに何処かで失くしてしまいました。どんなに高い傘でも失くしたら意味がありません。

今は『丸善日本橋店』でオーダーした傘を使っています。オーダーと言ってもパターンオーダーです。

まずは柄の部分を選びます。僕は軽くて丈夫なマラッカ籐の柄にしています。竹製もあるのですが、少し重たい感じですから。傘本体は基本形があり生地だけを選びます。『フォックス』や『ブリッグ』の様に細く巻くためには生地は薄くしないといけませんが、そうすると日本の梅雨には適さないのです。雨がだんだんと生地をつたい、漏れてきて枝の部分まで濡れてくるのです。台風なんてもってのほかで、傘をさす意味がありません。

そこで僕は、少し厚めの防水性のしっかりとした生地を選びました。

傘を巻いた時に、本体が太くなるのですが、これはこれで良しとします。細かい事ですが、傘の骨のとんがり「石突き」の部分は純銀製で使い込むほどに色の変化が楽しめて、良い質感です。傘の枝の部分にある、本体の傘の骨を畳んで留める金具(「下ろくろ」と呼ばれる部分らしいです。)も純銀製、これもいい味が出てきます。弱点はこの「下ろくろ」が柔らかいので、ぶつかると凹んでしまい上手く傘を閉められなくなることぐらいでしょうか。

この傘にしてから、10数年経ちましたが今だに失くすことがなくなりました。

結構高い授業料でしたが、この傘は修理ができて、生地の張替えも、部品の交換も問題なくできます、日本の梅雨には日本の傘が一番と思います。

これから梅雨、嫌がるばかりではなく雨に濡れた街も楽しみたいものですが、いかがでしょう。

映画はウッディ・アレン監督の『ミッドナイト・イン・パリ』より。

丸善オリジナル傘 

maruzenの傘。