女性のための、元気になれる俳句50 選・如月美樹 万緑や死は一弾を以て足る 上田五千石

(2009.06.08)
 

 見渡す限りの緑、緑。「万緑(ばんりょく)」は、文字通りそういう意味であるが、夏にみなぎる大地の生命力をもあらわす。昭和に成立した、比較的新しい季語だ。
 万緑に象徴される生命、しかし人の死は銃弾のそのたった一弾をもってこと足りるのだ、と作者はいう。あふれる生命から一転、死への冷静な対比。「だから、命を大切にしましょう」などといっているのではない。この句は何も呼びかけてなどいない。わたしたちは、事実を提示されているだけだ。
 戦争を放棄した現代日本において、銃弾は、言葉であるとも言えるのではないかと考えた。掲句初出『田園』(1958)。