野崎真希子の空間探索 – 2 - アートをショッピング。アートコレクター山本冬彦さんを訪ねて。

(2010.02.05)

みなさん、お買い物は好きですか?
私は大好きです!靴に洋服に、家具に、音楽……と一言でお買い物といっても様々なジャンルがあると思いますが、今回は皆さんに少し変わったお買い物のジャンルを紹介したいと思います。
月賦
そのジャンルこそが……“アート”です!

最近街をふらふらしていてよく思うのですが、表参道にニューヨーク現代美術館のパーマネントコレクションを取り扱うショップが出来たり、家電でも建物でもデザイナーの顔が一種のブランドの様になっている商品がここのところ、とても多くなってきているように感じます。これは物が溢れる世の中で皆さんの関心がデザインやアートといったジャンルに向かってきているという事の現れなのではないでしょうか?
そんな事を考えつつ、私は今回、絵画作品を30年にも渡って買い集め、現在そのコレクションの一部を新宿、佐藤美術館でコレクション展として展示を行っているコレクター、山本冬彦さんを銀座は奥野ビルに訪ね、お話を伺ってきました。

山本さんの隠れ家。
入って左の壁には山本さんのコレクションされた絵や作品が並びます。

山本さんは今まで30年間、サラリーマンとして働き、そしてサラリーマンとして得た収入のみで約1300点にも昇る作品を蒐集してきた「サラリーマン」コレクターです。
山本さんが初めて絵画を購入したのはなんと29歳の時。以外にも現在の私と年齢が近くびっくりしました。当時、自宅の壁を飾る為の絵画を探していた山本さんは
「どうせ飾るなら有名な作品でなくてもいい、本物の絵画が欲しい!」
と考え訪れた画廊で、花かごを頭にのせた一人の少女の絵に出会ったそうです。当時の山本さんの月給とそう変わらないその絵画を山本さんは画商さんの好意もあり思いきって購入。この事がサラリーマンコレクターとして作品を蒐集するきっかけとなったそうです。

ビルの集合ポスト。ポストには各画廊で行われている展示のDMが貼られ、見ているだけでもわくわくします!!
『山本冬彦コレクション展』のポスター。

現在の山本さんは61歳。
今回、コレクション展を開催するにあたり、今までの約30年に渡るご自身の活動をどう考えるか伺ってみました。すると、そのお話の中から山本さんがあくまでも“サラリーマンコレクター”を貫く理由というものもみえてきました。

山本さんの活動は振り返ってみると約10年スパンでその意味をかえてきているそうです。初めの10年間はご自身の趣味、趣向のままに好きな絵を購入し気に入った絵を自分のものにするという事を楽しんでいた期間。
そしてそうこうするうちに、徐々に 「絵を描く人間は多くいてもその絵を購入する人数が足りていない。」という現状が見えてきた山本さんは次の10年で「画家にとっての最高の支援は絵を買ってやることなのではないか。」と考え、学生や若いアーティストの作品を支援の意味も含めて精力的に購入し初めたそうです。
そして現在に続く10年はその活動をご自身だけでなく、広く社会に広めて行く為に多くの人にアート作品を“買う”楽しみを伝え、買いたいけどどうしていいかわからない、という人にご自身の経験からアドバイスを行うといったアートソムリエとしてのご活動を精力的に行われ、日本のアートシーンの底上げをすべくご活動を続けられています。

銀座の山本さんの「隠れ家」のあるのは銀座・奥野ビル。多くのギャラリーが名を連ねる。階段や手動式エレベーターなどまるでタイムスリップしたかのような素敵な空気のながれるビルです。写真は山本さんのコレクション。絵だけじゃないんです!
箱に入って収納される作品のやま!

山本さんがサラリーマンコレクターである事にこだわる理由はこの「絵を描く人間は多くいてもその絵を購入する人数が足りていない」という日本のアートシーンの現状にありました。一般に絵をコレクションする、というとお金持ちの高貴な趣味というイメージを抱きがちな私たちに対し、若手の作品ならば仕事をしながらでも、1回の旅行を我慢したり、洋服を数点購入するのを我慢すれば、気に入った作品を購入し蒐集する事が出来るという事を山本さんは自らがサラリーマンでありながら蒐集をする事で、身をもって私たちに教えているのです。

今回、お話を伺う中で山本さんは何度か
「絵の善し悪しは自らが決めればいい。自分のお金なんだから他人の評価を気にするのでなく、自身の好きか嫌いかで絵を判断すればいい。」
といった趣旨の事をお話してくださいました。

確かに……!これは目から鱗でした。
そんなに高価でなくとも、自分の買える範囲内で自分の好きだと思える絵を買う。それっていつも自分がしている洋服を買ったり、靴を買ったりとたいして変わりませんよね?そう考えるとアートを買うってなんだか身近で楽しそうじゃありませんか?

ここ以外にもレンタル収納に数多くの作品が眠っているそうです。

物の流通は生産者がいて、消費者がいて初めてなりたちます。それはアートの世界も同じです。皆さんもこの機会にちょっと勇気をだしてアートショッピング、してみたらいかがでしょうか。アートが案外身近なものになるかもしれませんよ?

 

 

まずは新宿御苑近くのビルの中に存在する画廊の様な佐藤美術館。
1階から5階までが美術館なのですがとてもこじんまりとしていてまるで画廊に来たかの様な空間でした。そのように感じるのも実は山本さんのあるこだわりの展示方法があるのです…。皆さんお気付きになりましたか?

 
 

山本冬彦コレクション展

会期:2010年1月14日(木)〜2月21日(日)
   月曜休館
   午前10時〜午後5時 金曜:午前10時〜午後7時
   (入館は閉館15前まで)
   
   イベント3—2月7日(日)15:00〜   定員:100名
    トークショー「コレクターと若手作家について」
    ゲスト:岩田壮平 大矢雅章 菅亮平

   イベント4—2月11日(木・祝)15:00〜  定員:100名
    トークショー「蒐集の哲学について」
    ゲスト:木村悦雄 澤登丈夫 御子柴大三

会場:財団法人佐藤国際文化育英財団 佐藤美術館
   東京都新宿区大京町31-10   TEL 03-3358-6021
料金:一般 500円  学生 300円
主催:財団法人佐藤国際文化育英財団 日本経済新聞社
協賛:アーティクル
協力:office if 金澤アートイベントカレンダーイコール
   株式会社筑摩書房 世界文藝社 団塊サイト・Premium Age 
   放送大学

筆者プロフィール

野崎 真希子(のざき・まきこ)

空間アーティスト
生粋の東京下町生まれ、下町育ち。
幼い頃からモダンダンスの舞台に立つ事で人を楽しませる事や人や物が置かれる空間というものに興味を持つ。今最も興味がある作品は自らが体験したり、参加することで完成する作品。自身でも一昨年からインスタレーション作品を制作、横浜や都内で発表。様々な人と作品を通じて知り合う楽しさを知る。
また、昨年からスノーボードにはまり、スノボシーズンには様々な山に出没。