土屋孝元のお洒落奇譚。 現代的なセンス、音楽を感じさせる 『デュフィ展』。

(2014.06.14)
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『ドーヴィルの風景』(1930)のイメージより。ドービルの競馬場、建物や人物の描き方が上手くて、線描が生きています。©Takayoshi Tsuchiya
 

渋谷・Bunkamuraザ・ミュージアムにて7/27まで開催中『デュフィ展』。
線描の勢いの素晴らしさ。

ラウル・デュフィと聞いても、そんな人は知らないと言う人もいるかもしれませんが、作品を見れば、ああ、見たことがあると納得することと思います。セザンヌやマチスに影響を受け、ブラックなどと同じ地方で制作して過ごしたフランスの作家です。

ある時期には、テキスタイルデザイナーとして活動し、あのポール・ポワレのためのテキスタイルを制作したりしていました。このテキスタルデザインの数々は、今であっても新しいと思えるデザインで古さをまったく感じないものでした。
版画からテキスタイルなのか、テキスタイルから版画を始めたのか……アポリネールの『動物詩集』のための版画作品がまた素晴らしいのです。この版画がテキスタイルデザインに共通する連続するモチーフの展開や、線描との色のズレに気づき、油彩画や水彩画にもこれを応用していきます。

この「色のズレ」がデュフィのスタイルになり、独特な世界観を作ります。この時期に描かれた競馬場や港やレガッタの風景などには波の連続する模様や雲の連続性、人物やヨットの単純化などテキスタルデザインのような表現も多く見られます。

最晩年には植物作品を多く描いていて 植物のフレスコ画にも挑戦し、デュフィらしい墨による線描がイキイキと描かれています。線描の勢いも 素晴らしく、僕は個人的な意見なのですが、日本の水墨画や特に禅画の「仙厓」の線描にも共通するものを見ました。

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『ポール・ポワレ/デイ・ドレス』(1925)のイメージより。テキスタイルデザイナーとしても才能を発揮しました。©Takayoshi Tsuchiya
 

知られざるデュフィの陶器作品もぜひ。

話は前後しますが、もう30数年も前にある仕事、音楽ユニット『サロン・ミュージック』のプロモーションビデオのために背景画をデュフィのようなイメージで描いて欲しいと頼まれて かなりの大きさの背景画を描きました。その背景の前にマリオネット人形が登場して演技をするのです。人形も男と女で『サロン・ミュージック』を表現していて60から70cmはあるサイズでした。パリの街角、カジノ風景、などを描いたのを覚えています。

縦1.8m 横2.5mくらいのケント紙に水彩とアクリル絵の具で描いたのですが、やってみると大きなほうが、気持ちよく描けて、自分でもびっくりしました。デュフィがパリ万博のために描いた電気の精の壁画など、たぶん、かなり気持ちよく描けていたのだろうと想像します。

その少し後くらいにデュフィの画集 DORA PEREZ-TIBI『DUFY』1989、Harry N.Abrams NY刊。アメリカ版2、3万円くらいだったと記憶していますが手に入れて参考にしていました。その中でも陶器への絵付けの作品が紹介されていたのですが、僕はとても気に入りました。デュフィに陶器の作品があることを知る人は少ないと思います。陶器作品の一群はデュフィの別の面を見たような思いでした。この陶器は、今回のBunakmuraでの展覧会でも観ることができます。私的な意見ですが現代美術風でもありますね。

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陶芸作品『小さな青い庭』(1927)のイメージより。デュフィの作品の中でも好きな作品。©Takayoshi Tsuchiya
 

デュフィはその生涯において、描くモチーフをたびたび変えていて、晩年にはオーケストラの連作や、バッハやドビュッシーー、モーツァルトへのオマージュなど音楽をテーマに描いていています。これは父親が教会のオルガン奏者、母親がヴァイオリン奏者、兄弟が音楽家という生い立ちにも関係があるのかもしれません。

デュフィの魅力は絵画を超えデザインから工芸まで、ジャンルレスな素晴らしい現代的センス。そして音楽のような楽しさです。

古今東西に数多くの尊敬する作家、画家、がいるのですが、ラウル・デュフィは間違いなく僕が影響を受けた作家、画家の一人です。

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『ヘンリーのレガッタ』(1933頃)のイメージより。イギリスのテムズ川で行われるボート競技の祭典「ヘンリー・レガッタ」を描いています、雲や旗の単純化などにテキスタイルデザインの影響を見ます。©Takayoshi Tsuchiya
 
『デュフィ展』

会期:2014年6月7日(土)~7月27日(日)*7/2(水)のみ休館
開館時間:10:00~19:00(入館は18:30まで)、金・土~21:00(入館は20:30まで)

会場:Bunkamuraザ・ミュージアム 東京都渋谷区道玄坂2-14-1
主催:Bunkamura、東京新聞

後援:在日フランス大使館、アンスティチュ・フランセ日本
協力:エールフランス航空、KLMオランダ航空

*会期中、7/3(木)から一部展示替えがあります