土屋孝元のお洒落奇譚。印象派を見て
「犬馬難魑魅易」を思い出す。
(2011.08.17)
国立新美術館
『ワシントンナショナルギャラリー展』へ。
久しぶりに国立新美術館へ出かけ、『ワシントンナショナルギャラリー展』を見ました。 この展覧会は門外不出の作品群が来ているとの前評判で、一度は見てみようと思いやって来たのです。 平日、夏休みが始まっているので、ある程度覚悟して出かけたのですが、比較的空いていてゆっくりと見る事ができました。
印象派の有名な作家では、セザンヌ、モネ、マネ、ルノワール、ドガ、ロートレック、ゴーギャン、ゴッホ、スーラ、シニャック、などの作品群、印象派の有名どころというか、教科書や作品集で見た事がある作品の勢揃いです。アメリカらしいモノでは、メアリー・カサットの油彩、多色刷りドライポイント、このメアリー・カサットのドライポイントには見るべきものがありました。
見た目にも爽やかな印象、
ドライポイントに色を乗せる技法。
浮世絵からヒントを受け、*ドライポイントに色を乗せる技法は、今見ても新しく、自分の作品作りにも参考になるモノでした。 非常に細いドライポイントの線描は、とても綺麗な線で色使いも淡い色彩を使い見た目にも爽やかな印象です。 簀の目紙(すのこのめ)と訳された紙は和紙の様な風合いですが、和紙ではないようです。 これは、余談ですが、レンブラントは自分の版画制作には和紙を使っていたという、最近の発見もあります。17世紀オランダで和紙、まあ、その当時、日本との交易が盛んなオランダだからこそ、なのかもしれません。 茶人が珍重したデルフト焼きなどもありますから、文化交流は盛んだったのでしょう。 話は戻り、メアリー・カサットのドライポイントの用紙ですが、普通はブレダンか、ファブリアーノなどを使うのですが、簀の目紙、謎でした。
同じコーナーに展示されていたマネの水彩作品は、水墨ではと思う様な様相です。 簀の目紙に描かれた黒に近い水彩画はまるで、応挙か仙厓(せんがい)か、と思わせる作品で、ワシントンナショナルギャラリーでも長い期間は作品保護の為、展示されないという作品で見るべき価値のあるモノのひとつでした。
セザンヌ、スーラ、ドガ……。
自然に表れるデッサン力の確かさ。
次はセザンヌの水彩画です、ワシントンナショナルギャラリーでもなかなか展示されていないという、水彩画は変色も全くなく、いま、まさにセザンヌさんが描いたばかりの様な印象で、何気ないゼラニウムの植え込みを描いているのですが、これも見るべき価値ある作品のひとつでした。
この展覧会でいままでとは違う印象を持った作品にスーラがあります。 皆さんも美術の教科書にて小学校、中学校、高校と何度かは見ていることと思います。いままでは大きな作品、「グランドジョット島の日曜日」とか、大きすぎて点描ばかりに目が行くのですが、比較的小さいサイズの原画だからでしょうか、今回は新鮮に見る事ができました。
印象派の作品群では、ドガの落馬した騎手と馬達を描いた大作、これは、ドガ自身が自分の手から離さず、何十年も加筆をしているのですが、描き込む部分と抜く場所の見事なバランス、この作品は会場でも比較的最初のコーナーにあり、この作品にも人だかりはありません、ゆっくり見る事ができました。セザンヌ、ドガ、ロートレックの人物などを描く時に、自然に表れるデッサン力の確かさには、昔、芸大受験の時に参考にさせていただいた事などが思い出されました。 特にドガの馬達の動きの描写力は抜きん出ています。
「ウマウマ」「ヘタヘタ」ではだめ、
「ウマヘタ」「ヘタウマ」がよいのです。
これまた、忘れていた事ですが、芸大の大大先輩の松田正平さんが書に書いています。 「犬馬難魑魅易(けんばむつかしちみやすし)」犬や馬を描くのは難しいが、魑魅魍魎など誰も見た事がないものは易しいという言葉を思い出しました。
これを書かれたのは、確か、松田正平さんが80代ぐらいではと思います。 あらためてデッサンは日々の精進しかないのだと思います。 上手く描く事ではなく、知らない人が見たら何だ、これなら自分にもできるかな、と思わせ、いざ、試すと難しいという域まで達することですか・・・・・・。
もう何十年も前ですが、「ウマヘタ」「ヘタウマ」という言葉が流行りました。 「ウマウマ」ではだめで「ヘタヘタ」でもだめ、「ウマヘタ」「ヘタウマ」がよいのです。 これは、あくまでも個人的な私感ですから、夏休み、国立新美術館へ出かけ、確認されると良いでしょうか。
*ドライポイント 金属版に直に印刻、描画する凹版技法のひとつ
ワシントンナショナルギャラリー展
http://www.ntv.co.jp/washington/index.html