アートニュース Fromミュージアムカフェ – 30 - 江戸時代の煌びやかなきものの美と、人気絵師のデザイン性が楽しめる展覧会『三井家のきものと下絵 円山派がもたらしたデザインの世界』

(2009.10.29)

江戸時代、「越後屋」としてきものの制作と販売に深く関ってきた三井家。三井家旧蔵の江戸時代後期から明治時代にかけてのきものとともに、下絵を紹介する展覧会が新宿で開催中です。 きものが出来上がる重要な要素であるデザインにおいて、三井家のきものからは円山応挙を祖とする円山派の大きな影響がうかがえます。同館所蔵のきものと下絵、亀居山大乗寺(応挙寺)所蔵の下絵、合わせて70余点を展示、三井家ならではのきものや下絵の美しさと、円山派がもたらしたデザインの世界へと誘います。

下絵 江戸時代後期~明治時代前期
三井家旧蔵 大乗寺(応挙寺)所蔵

きものが広く着用されるようになったのは、15~16世紀にかけてといわれています。その形はほとんど変化していませんが、デザインに関しては時代によって異なった様相を見せています。その時々の“流行”がありました。

本展で紹介するきものは、18世紀後期以降(江戸時代後期)のきものです。今回展示されているきものと下絵は、裕福な町人階級へ向けたもの。とても絵画的な意匠で、町人階級に多用された友禅染ではなく、刺繍や絞り染め、摺箔などの贅沢な染織技法を駆使して表現されています。三井家のきものからは、当時の最先端のデザイン性と技術を知ることができます。

そして今回一緒に展示されている下絵とは、きもの制作のためのデザイン画。三井家旧蔵の下絵は、実寸大のきもののかたちで描かれているものが多く残っており、それらには描き直した跡や色や技法の指定などが手書きで加えられているなど、当時の制作過程の様子がうかがえます。これらは制作現場で使われ、実際のきものが完成すれば処分されていたものと思われ、今回こうして現代に残っていることだけでも貴重なこと。三井家のきものは当時の流行からしてもとても斬新なデザインばかり。裕福な町人階級の婚礼時など特別なときに仕立てられるきものです。

そして、きものからは感じることのできない、下絵ならではの魅力が後の研究で少しずつ明らかになってきました。本展では下絵だけで26点が展示されています。作り手の息吹が伝わってくるような下絵から、そのデザインに込められた思いを感じ取ることができます。

三井家のきもののデザインには、円山派の関わりが大きな役割を果たしたと考えられています。もともと三井家は円山派の支援をしていたなど関係は濃く、三井家北家4代高美と南家4代高業は円山応挙と親交があったとされています。その後も三井家では円山派の絵を習う人が多かったそう。円山派の影響を実際のきものから感じ取るのは難しいかもしれませんが、下絵を眺めていると、モチーフごとに円山派の絵画作品との共通項を見出すことできます。 今回は下絵と実際に同じ柄があしらわれたきものと対比する形でも3点が紹介されています。実寸サイズの下絵なので、実物と照らし合わせながらの観賞は服飾の知識がない人でも、同じ絵から生まれた紙と布での表現の違いを楽しむことができます。

三井家のきものはそのほとんどが1点ものの、手間隙をかけて作られた高価な品。絵画のような高級感が漂い、日本美術を鑑賞する感覚できものデザインの美を堪能することができます。約70点のきものと下絵を通して、江戸時代後期の流行が感じられるデザインの優雅さ、そしてきもの自体の魅力をぜひ発見してみてください。

打掛(扇流し文様) 江戸時代後期~明治時代前期 三井家旧蔵
小袖(更紗切継 杜若文様) 江戸時代後期~明治時代前期 三井家旧蔵
下絵  江戸時代後期~明治時代前期 三井家旧蔵

 

『三井家のきものと下絵 円山派がもたらしたデザインの世界』

期日:2009年10月22日(木)~12月19日(土)
会場:和東京・文化学園服飾博物館
   東京都渋谷区代々木3-22-7 新宿文化クイントビル1F
会館時間:10:00〜16:30(入館は16:00まで)
*各展示期間中2回、金曜日に開館時間を延長しています。
(19:00まで、入館は18:30まで)
休館日:日祝、展示替え期間
料金:500円(一般)ほか
問い合わせ:文化学園服飾博物館 Tel.03-3299-2387
http://www.bunka.ac.jp/museum/hakubutsu.htm