女性のための、元気になれる俳句1 選・如月美樹 〜梅雨の蝶往復葉書切りはなす 正木ゆう子〜

(2008.06.14)

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「梅雨の蝶」と読んで、一度軽く呼吸をしてから続いて「往復葉書〜」と読んでみてほしい。軽く呼吸の入るところが「切れ」である。「切れ」が入ることで、「梅雨どきに見かけた蝶」と「往復葉書」という、それまでは何の相関関係もなかった言葉が響きあい、何倍にもふくらんでいく、という効果を持つ。

 このような表現方法は俳句独特のもので、「二物衝撃」や「二句一章体」などという。雨降る中をひらひらとどこからか飛んできた蝶と、ポストに舞い込んできた往復葉書。どちらも、梅雨空の下の、ちょっとした出来事である。

 しばらくたって、そういえば、蝶の羽と往復葉書は似ている、と、気づいたりする。いったいどんな葉書だったのだろう? きっと、うれしいお知らせだったに違いない。作者は何と返事を出すのだろう……なんて、想像がふくらんでいく。

 何でもない私たちの日常がこうやって詩になる。俳句はいつでも、別の世界へとつながる小さな扉のようなものだ。掲句初出『水晶体』(1986)。