『smokebooks』北澤孝裕の“だから本は面白い” – 1 - なぜ今吉本隆明なのか?

(2009.07.22)

テレビ・新聞・雑誌・インターネットと情報があふれる現在、そんな時代に、古いといわれるメディア、“本”を中心にしたセレクトショップを興した『smokebooks』。

本が売れない、活字離れと言われる中、本屋の現場で、20代を過ごしてきたからこそ言いたい。こんな時代だからこそ本を読むことが大切なんだと。

ここで『smokebooks』の独断と偏見で、注目の新刊を取り上げ、あわせて『smokebooks』のオススメを紹介することで、本の良さを発信していきたい。

はじめからかためだけど、今なにやら政治が騒がしい。自分は間違いなく無党派層の一員だろう。そんなことを考えていたら、この本が気になった。まず注目の新刊は今だからこそ吉本隆明。『Smokebooks』おすすめは、あえてDVD+BOOK。“本”はいろんな形があっていいと思う、という態度表明も込めて。

 

“なぜ今吉本隆明なのか?”

『吉本隆明1968』鹿島茂著(平凡社新書)1,008円(税込)

今、吉本隆明が注目されている、“吉本”本の出版ラッシュ、『ほぼ日』からでた講演集は、初回分はすぐになくなったと耳にした。団塊ジュニアの最後の世代の僕は、100年に一度の大不況の中で、蟹工船やマルクスが注目を浴びていることに、興味を持っている反面、怖さを感じる。同年代が、仕事に疲れてぐったりとしているところを目にすることが
増えてきた頃に蟹工船がブームになった。世の中で、勝ち組・負け組という言葉が使われるようになった。その頃から極端なことを口にする人が増えてきた。これは少し怖さを感じた。そんなことを感じ始めて僕自身も、吉本隆明に興味を持つようになった。学生運動を経験した団塊の世代の思想に圧倒的な影響力を持っている彼に。

そこで、今回は、吉本隆明1968を手に取った。この本は、タイトルから想像した内容と違っていた。1968の頃のことが書かれているのかと想像していたけど、読み終わってみると、「はじめに」と「あとがき」に書かれていた、

-団塊世代の吉本隆明体験-(「はじめに」から抜粋)
-出身階級的吉本論- (「あとがき」から抜粋)

このふたつがしっくりきた。正直、少し騙された感があった。もうひとつ、目的のひとつに、“若い世代に向けて”と書かれていたけど、初期の吉本作品をメインにしているために、
戦前と戦後の思想的転向を詩人(高村光太郎)を通して、浮き彫りにして、吉本隆明を重ね合わせていき、その突出したすごさが書かれている。

“なぜ今吉本隆明なのか?”の必要性は、吉本隆明が、団塊の世代の後悔の象徴だからなのではないか?と思った。時間が経った今、世の中が不穏になってる今だからこそ、“あの頃をふり返り、伝えるべきことは、吉本隆明”と思い至った人が多いのではないか?
そこに必要性があって、これからの時代は、その後悔を知って、読めるようになることが、
時代にのみこまれない術になるように感じた。

 

『smokebooks』のおすすめから

吉増剛造 DVD+BOOK『キセキ――gozoCine』(オシリス刊) 8,190円(税込)

今回、吉本隆明論の新書を読んで、もっと詩に親しみたいと思った。だったら、詩の本を紹介したいと考えていて、思い出したのが、吉本隆明と糸井重里の対談本『悪人正機』。そのなかで、吉本隆明がプロと呼べる詩人を3人挙げていた。谷川俊太郎、田村隆一、そして吉増剛造。今回はその中で、現在も精力的に活動していて、先鋭的な詩人というイメージを保ち続けている吉増剛造の作品を紹介。

吉増剛造の詩の良さを答えろと言われたら、まだ、なにも答えられない。読んで、感じるものはあるけど、それを言葉に置き換えることができない。詩を読むのは、恋愛と少し似ているのかも知れない。好きになるのに理由はいらない、同じ時間を過ごすことで相手のことが見えてくる。良いところも悪いところも。恋愛に例えるのなら、吉増剛造作品と僕の恋愛ははじまったばかりで、距離がなかなか縮まらない、分かり合えない。だったら少し環境を変えてみよう。だから今回紹介するのは、「gozoCine」と名付けられた映像作品。
ジョナス・メカスなどの映像作家とも交流のあった、吉増剛造の映像世界。映像を通して、吉増剛造の言葉とわかりあえるようになる作戦。

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