Shibuya Tourbillon ~10~ 世界は振動している。マンホールから診察する渋谷の町の静脈。

(2013.10.04)

渋谷の奥「奥渋」=オクシブのギャラリー『アツコバルー arts drinks talk』、ライブハウス『サラヴァ東京』のオーナー アツコ・バルーさんが綴るコラム『Shibuya Tourbillon(シブヤ・トゥルビヨン)』、渋谷つむじ風。開催中の展示より渋谷を考えてみました。

水がつなぐ 新宿と渋谷
マンホールから診察する町の静脈

『アツコバルー arts drinks talk』の展示『シェアリング・バイブス|共振する場、そして私』展より。(大好評につき、会期延長、10/6(日)まで。)山川冬樹さんの作品『Shibuya Water Witching』について。


渋谷には泉があり川が流れている。しかし東京オリンピックの時に生活排水で汚れてしまった川は地下に埋められた。その上にセンター街や宇田川遊歩道ができた。山川冬樹は渋谷の地下水脈をたどり100カ所のマンホールから聞こえてくるせせらぎの音を採取した。深夜、街で寝そべりマンホールに耳を当てると様々な水の音が聞こえる。ホーミーで鍛えた山川の地獄耳には音階が聞こえてくるという。そんな水のメロディを聞いているうちに渋谷がだんだん好きになったという。自分の心臓に聴診器をあて、アンプを通過したドップラー心音にエレキギターを重ねて演奏する。などの活動を展開するアーチストが都市をインフラから診察した。


『Shibuya Water Witching』の作者山川冬樹。photo / 土田祐介 『シェアリング・バイブス|共振する場、そして私』」展は10月6日まで。作品の販売は引き続き行います。
松濤の水車から下水までの道。

山川が選んだ100カ所目の場所、松濤郵便局の前のマンホールに耳をつけると松濤鍋島公園の湧水の音がする。郵便局から公園までの道はオク渋でも気持のよいゆるい坂道、ガレット、オーストラリア、ポルトガル、タイ、イタリアンの小さなレストランが点在するまるで国際村。旧鍋島藩の当主、鍋島侯爵が徳川家の下屋敷を払い受け、ここに茶畑を作り松濤茶というブランドでお茶を売っていたという。のどかな田舎だったのでしょう。「今でも小さな田舎ですよ。」とでも言いたげに今でも池には水車が設置してある。昭和になり渋谷の人口は増えてくると(昭和7年)人々の憩いの場所へ、と寄付をした。オク渋の安らぎスポットである。

もう一つの湧水、神泉(神様の泉!この神は神道の神に違いない、男女のからみがお好きなので)から円山町のラブホやクラブから落とされる下水とともに渋谷のセンター街(の地下)に向かっていく。


松濤鍋島公園の水車。

宇田川遊歩道はNHK正門前の通りから一本入ったところ、チャーミングなレストランやバーの点在する散歩道だ。この下に宇田川水路が暗渠になって埋まっている。水路の水はセンター街の下で神の泉や松濤公園の水と合流してゴウゴウと流れていく。こうして公園に遊ぶ子どもの流すトイレの水もホテル街のけだるいシャワーの湯も、卵子に出会えなかった精子もすべて一体となり下水処理場を通って大海原に。太陽熱で蒸発して雲になり、また都会に雨が降り、地下水となり湧水となり、我らが文明の続く限りサイクルが回っていく。なんと壮大な物語。

フクシマの原発で作られていた電気もそうだったが、私たちはインフラを知らずに生きている。パックに入った豚肉だって生きていた動物だって想像をしないでいる、それでいいのかな?と時々思ってみようではないか。


宇田川遊歩道。


福島。のどかな田園の空を切り裂く送電線、川内村にて。
新宿と渋谷、2卵生双子のように 。

渋谷には渋谷川が流れ目黒川に合流する。けれど上流をたどるとなんと私の生まれ育った家の近く、小さい頃オタマジャクシをすくい取りに通った新宿御苑の玉藻池にあるという。新宿から渋谷へ水は流れ人も流れる。それにしても新宿と渋谷は似ていない姉妹のようだ。

先日アーティストで映画、演劇、アート評論家としても活躍するヴィヴィアン佐藤さんから聞いた新宿と渋谷の面白い考察を紹介したい。

「新宿は情念の町で言葉の町、歌手でいえば椎名林檎、延長上には中央線の高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪がある。一方、渋谷はビートの町、歌手でいえば浜崎あゆみ、延長上には麻布の米軍基地、青山、横浜、六本木がある。新宿は政治闘争の地、渋谷は流行発信の地である。」というもの。

私は中央線沿線の学校に通っていた。大学になると初めて渋谷から東横線に乗った。私にとって新宿はアイデンティティ-であり、渋谷は情報を集めた場所だった。

東京に住む大勢の人の中にも渋谷派と新宿派という大きな派閥があるような気がする。(銀座派とか池袋派はこの際無視しています。)

今は発信の町、渋谷で私は二つの文化発信基地を運営している。新宿と渋谷。渋谷川の上流と下流。わずか4kmの距離だが全く異なる文化が息づいている。二つを享受できるということの幸せを地下水脈に耳をつけて感じる。

アツコバルー、次回展示のお知らせ
「サラリーマンの秘密の花園を撮りたいんだ」

フランス人カメラマン、ブルノ・カンケはある時、河口湖のほとり、美しい自然の中、突如現れた背広姿のサラリーマンに度肝を抜かれた。足早に過ぎ去ってゆくその姿に彼はとてつもないロマンを感じてしまった。ドブネズミと言われ個性のかけらもないように見える日本のサラリーマンの胸にはそれぞれの秘密の花園が隠されているのではないか。それを撮ってみたい。以来彼は都心でサラリーマンを盗み撮る。切なくかわいいおじさまたちの薄くなった額にしびれてしまう。4日間だけの新作発表会を『アツコバルー arts drinks talk』にて開催。

盗み撮り!”サラリーマン プロジェクト” ブルノ・カンケ
“Salaryman Project Launch Party & Exhibition” by photographer Bruno Quinquet

会期:2013年10月10日(木)~ 10月13日(日)
10(木)、11(金)15:00 ~ 22:00
12(土)、13(日)12:00 ~ 18:00
場所:アツコバルー arts drinks talk
入場料:500円(ワンドリンク付)

『アツコバルー arts drinks talk』

TEL:03-6427-8048

所在地:東京都渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル 5F

入場料:500円(ワンドリンク 付)