深瀬鋭一郎のあーとdeロハスベネチア・ビエンナーレに思う。
大国パビリオンの世相批判(前篇)

(2011.08.05)

イタリアへ。

長らくイタリアに滞在していました。6月4日から11月27日まで開催されている隔年開催の世界最大規模の国際現代美術展「第54回ベネチア・ビエンナーレ」(Biennale di Venezia)や、デザインの殿堂「ミラノ・トリエンナーレ」(Triennale di Milano)、「地球を養う、命のためのエネルギー」(Feeding the Planet, Energy for Life)をテーマに2015年5月1日から10月30日にかけて開催予定のミラノ万博会場近辺を、上海万博で日本美術の出展代表を務めた立場から取材し視察するためです。

ベネチア・ビエンナーレの会場は、例年通り、ジャルディーニ(Gardini公園)、アルセナーレ(Arsenale、旧造船所)の2つの主会場と、数多くのサテライト会場に分散しています。開場時間は10時~18時、月曜休で、1日券のみ40ユーロで販売されています。当日中なら、ジャルディーニ、アルセナーレに各1回ずつ入場できます。ジャルディーニ、アルセナーレとも、1回入って出たら再入場は不可ですので注意しましょう。

しっかり観覧するためには、ジャルディーニ+近郊サテライト会場に1日、アルセナーレ+近郊サテライト会場に1日、比較的離れた場所にあるサテライト・グループ展等を廻るのに1日、計3日間はみた方がよいでしょう。ただ、サテライト会場はあまり廻らないのなら2日間、疾風怒涛の駆け回りツアーなら1日で2つの主会場を簡単に観覧することも可能です。


ベネチアの観光と宿泊。

展覧会と併せて、ナポレオンが「世界で最も美しい広場」と言った聖マルコ広場を見たいとか、リアルト橋のお土産商店街で買い物したいとか、リド島のリゾートを観光したいとか、カーニバル用のベネチアン・マスクやムラーノ島のベネチアン・グラスを探したいということになると、残念ながら観光バスやタクシー、レンタサイクルがなくて、バポレット(小型フェリー)やゴンドラ(船頭が人力で漕ぐ船)、自分の足で廻るしかないので、時間の余裕をみる必要があります。

世界に名だたる観光地ベネチアの宿泊費はとても高いので、長期滞在にはアパートメントを借りる(またはシェアする)のが良いでしょう。筆者はGardini公園のビエンナーレ・ゲート脇にある、関係者御用達のサービス・アパートメントに滞在しました。各部屋には過去のベネチア映画祭のポスターが飾ってあり、今回のビエンナーレ出展者が作品搬送に利用したと思われる長さ2mの大紙筒も放置されていました。作品撤去時も同じ部屋を使う予定なのでしょうかね。

世界に名だたる観光地ベネチアの宿泊費はとても高いので、長期滞在にはアパートメントを借りる(またはシェアする)のが良いでしょう。筆者はGardini公園のビエンナーレ・ゲート脇にある、関係者御用達のサービス・アパートメントに滞在しました。各部屋には過去のベネチア映画祭のポスターが飾ってあり、今回のビエンナーレ出展者が作品搬送に利用したと思われる長さ2mの大紙筒も放置されていました。作品撤去時も同じ部屋を使う予定なのでしょうかね。



ベネチア・ビエンナーレの会場へ。

テーマ館(La Biennale)の入口正面に描かれたテーマ「ILLUMInazioni」(光彩)は、ブックアートを中心に制作する沖縄生まれのアメリカ人作家ジョシュ・スミス(Josh Smith)によるカリグラフィ(文字作品)。テーマ館前インフォ・センター(「ジョシュ・スミス館」のようにしてある)の展示では。日本に育った経験から描いたのか、鬼の絵も展示されており面白い。今回のベネチア・ビエンナーレ会場に日本人作家は束芋(日本館)しかいないので、彼は「陰の日本代表」といった感じでしょうか。

今回のベネチア・ビエンナーレのテーマ展で総合ディレクターを務めたのは、スイス人の美術史家、批評家で美術雑誌「PARKETT」、「TATE.etc」編集長かつチューリヒ美術館キュレーターのビーチェ・クリガー(Bice Curiger)女史。「PARKETT」では「PARKETT EDITIONS」という雑誌のオマケ的な版画、マルチプル(複数制作立体作品)が別売されており、筆者はそのファンでもあったので、プレスキットなども読んで、かなり期待していました。

ビーチェ・クリガーのキュレーション(展覧会企画)意図は、筆者の読み解きによれば、展覧会テーマとした「ILLUMInazioni」をいう言葉を「ILLUMI」+「nazioni」の2語に分解したうえで、光の表現に止まらず、キリスト的・教会、人間などのルネサンス的要素を「ILLUMI」(光)に代表させ、その現在に向けた展開を、ルネサンス期の各都市国家「nazioni」に咲いた芸術の百花繚乱になぞらえて、西洋を中心とする各国の同時代の多様な美術表現によって見せて行こうとしたものと考えられます。

ジャルディーニ会場のテーマ館の中央に、意表をつく形でルネサンス期の光の画家ティントレット(1528-94)の作品を登場させ、それを起点に同時代の美術を考えるという、美術史家らしい、多層性を有するキュレーションであり、専門家でないと読み解き切れない観がありますが、その読み解きを行いながら個別の作品展示を観覧していく体験はとても面白いものです。この展覧会について「焦点がぼけがち」とか「印象が薄い」と評する人もありますが、筆者からは「読み解くため、是非観るべきだ」とお勧めします。


注目すべきアーティストたち。

鍵のひとつとなるのはジグマー・ポルケ(Sigmar Polke、独1941-2010)の作品群。テーマ館内の一室をあたかも教会の回廊のように仕立てたこの展示は、昨年6月10日に亡くなったポルケへのオマージュのようでもあります。ティントレットが有した色彩と光、錯視性のある動き、宗教性等の表現要素を400年後に再統合するとすれば、ポルケの作品は、確かに「それに近いもの」と言うことができるでしょう。

その近くにドイツ人作家2名によるコラボレーション「ダス・インスティテュート」(DAS INSTITUT 、独2007-)の空間構成と、その中でのKerstin Bratsch(ダス・インスティテュートのメンバーのひとり)による絵画の展示があります。ステンド・グラスのような黄色の素通しパネルと、青色の素通しパネルが縦位置で立てられています。この空間構成により、壁面に展示された平面作品が、あたかも教会の内部に展示されているかのような趣が醸し出されていました。

(次回に続く)