『SARAVAH 東京』こんにちは。- 4 – やっぱ、おいしい物でしょ。

(2010.11.01)

いい音楽を安い料金で聴かせてくれる良心的な店があります。いい音楽を高~い料金で聴かせてくれる店もあります。どう違うのでしょう、お客から言うと。もちろんお財布の痛み具合が違いますけど。安いお店では、あまりおいしいものが注文できないようになっている事なのです。500円で飲める、氷ばっかりのコーラ。冷凍ピザと冷凍ポテト。よくてカレー。

確かに良心的値段、でも私のような年齢になると、やっぱりおいしい物も飲んだり食べたりしたいですよね。かといって青山にある、有名プレーヤーが出る、某ノートでは、お酒1盃飲んで音楽聴くと1万円ちょい、ご飯食べちゃうと1万5千円位「え~い! 大好きな○○○が聞けるからいいっかあ!」と清水の舞台からダイビング状態です。それもいいでしょう。でもたまにしかできませんよね。

 

ハコは心とおいしいものなり

『SARAVAH 東京(サラヴァ・トウキョウ)』がやりたいのは、学生クンやフリーター、ミュージシャンの卵でも気楽に来られる値段でありながら、コーラとピザ以外のおいしいものも提供できる店です。

ブッキングマネージャーのソワレ君が連れてきたのは古田一州さんというシェフです。彼の作るご飯はむふふふ……かなりおいしいですよ。そしてワインは音楽評論家の北中正和さんに紹介された、千歳烏山の岩本商店の須田さん。彼がフランスとイタリアを歩いて見つけてきたオーガニックワインを提供させてもらいます。

私、フランスに25年住んでいまして、こう言ってはなんですが、おいしいワインのラベル知ってます。でも須田さんの連れてくるワインは一つとして私知りません。すごーく小さいワイナリーで、シュタイナー農法など(え!ブドウに自立教育をするらしい)、まじめに心こめて作っている農家さんから仕入れてくるのです。しかも有名じゃないから安い!

ゆで豚にレンズ豆のトマト煮を添えた一品。古田シェフのメニューです。

 

『ラ・ケヤキ』という場所

私は『ラ・ケヤキ』という、文化発信の拠点を新宿御苑のそばで運営しています。もともとの始まりは、1999年に病気が重くなった母の介護をするために日本にきた私が、介護しながら、今までフランスでやってきた活動を続けられるために自宅の近所にある邸宅を借りて始めたものです。人が住んでいた住居なので本格的なコンサートはできません。でも住まい、という温かみをいかしたイベントができます。

そこで考えたのが、音楽と絵画、彫刻、ダンス、酒、料理という異種の表現を同時に楽しめるアッとホームな空間です。絵画だって、畳に寝転がって鑑賞したっていいじゃありませんか。音楽だってそうです、庭のブランコに乗りながらリビングからもれてくるギターの音を楽しんでもいい。長時間滞在型の催しです。中でも踊りは最も成功した例だと思います。庭の茂みから白塗りのダンサーがすっと音もせずに出てくると日常と非日常が入れ替わって、最高に刺激されます。それら、イベントの度に、食事も出してきました。

庭に展示した絵画の前で舞踏家が突然……。

食べることと飲むこと、って不思議です。フランス語でコパン、は「友達」ですが、「パンを分け合って食べる」という意味からきています。「同じ釜の飯」、もそんな意味ですね。なぜか一緒にご飯食べると急に親しくなります。おいしいご飯だったらなおさらです。文化を語るとき、食と飲み物を抜いては語れません。もう一つ抜いては語れないのは「笑い」です。神妙なアートにおもしろいものはありません。深刻なテーマを扱っていてもどこかにおかしさ、ってあります。「笑い」は感動っていう絵の具箱の中で大事な色です。食事の大事なスパイスでもありますね。

『ラ・ケヤキ』のイベントでは食にもテーマを持たせました野又穣さんのドローイング展と禅宗の僧による精進料理。沖縄の織物の展覧会ではもちろん沖縄料理、常見裕司さんのウードを聴く会ではチュニジア料理。あ、そうそう、大事なことを言い忘れました、来る11月の5、6、7(金土日)には宮古島のお祭りを催します。私、マイア・バルー、信太美奈が今年、宮古に行って大感激をしまして、宮古島に移り住んだ3人のアーチストと、島の歌い手さん、をお呼びして、かつ島の食材を送ってもらい、おいしいご飯あり、宮古バーと称して、泡盛モヒートや島のフルーツカクテル、島の昔話のレクチャーあり、ワークショップありの楽しい秋祭りを開きます。皆様こぞって遊びに来てください。

『宮古ちっくライフ 3days!』 /lifestyles/34464/

と、本題に戻りますが、音楽評論家の北中さんが開いてくれた『エジプト音楽の夜』、というイベントのときにワインの試飲会をしてくれたのが先程の岩本商店の須田さんです。それ以来、生産者が豚とカキと米を持ってきて食べつくす『柿豚の会』でも参加してくれました。そのたびにお客様から絶大なる評価をいただいたワインです。

一方、古田一州さんは料理で『越路吹雪のLPレコードを聴く会』の時に参加しました。フランス料理ですが、とてもクリエイティブ。もともと実家が鶏肉の問屋さんだそうですが、食材のおいしさを丁寧にだした、やさしい味です。いわゆるレストランで出される塩がきつい、夜中にのどが渇いて困るたぐいの料理じゃあないのが、私はとても気に入っています。こんなやさしい料理で舌を楽しませてくれたら、お酒も会話も進みますよね。と、同意を求めてますが、『SARAVAH 東京』に来ないと食べられないのです。ぬふふ……

 

バルー家の味

サラヴァの主催者、ピエールのお母さんはすばらしい料理人でした。料理の本出すくらい。ハムだって作ってしまう。彼女の料理はセファラディムという地中海沿岸に住んでいるユダヤ人たちの料理と移民した国フランスの伝統的料理の両方です。何しろ美食のイスタンブールから移民してきた人たちで、それにフレンチのデリケートさが加わって、ものすごくおいしいです。彼女ユダヤ人として戦争中迫害を受けながらも、孤児を養子にしたり、ほんとうに心の広い、温かい人で、いつ突然に訪問しても10人分くらいの食事は15分で用意してしまうような手際の良い、頭のいい料理人でした。電気屋さんや水道屋さんが修理に来てもチップと簡単な食事とワインを一杯、必ず出してあげていました。飢えの時代を生きた人ならではの優しさです。

私は彼女からフレンチの基本を習ったのですが、いつくかのセファラディムのレシピも教えてもらいました。タラモやナスのグラタン、ポルト酒の入ったレバーペースト、ボレカス(ジャガイモのパイ)などです。フランスの家でもお客に出すと全員「これどうやって作ったの!」と聞かれます。そのレシピを古田シェフのメニューに加えてもらおうと思っています。

ピエールママのレシピ本、
“Le petit livre de Recettes juives”

 

食と音楽の関係

『ラ・ケヤキ』の経験でよくわかったことがあります。味覚と聴覚の関係です。音楽と料理を出す場合。「おいしい料理ですね。音楽もいいけど。」という人と「いやあ素晴らしい音楽ですね、料理もうまいけど」という人半々くらいいます。でも、正直言いますと、味覚のほうが少し敏感でしょうか。みんなやはり食いしん坊なのです。No music, no life.と言いたいところです、No food no life. ではしゃれにもならない、つまらなすぎる。でも現実は厳しい。おいしいものにひかれて来る人も、満足してもらえるような店を作るのが私たちの夢です。

あ、おいしいものと言えば来る11月13日には柿豚の会を『ラ・ケヤキ』で開きます。九州の無農薬の果物農家と、養豚所と米農家の3名の若者がとびきりおいしい自信の産物を持ってきて食べてもらう会で今年で5回目です。たわわになった柿の木畑に放し飼いにした豚さんがたらふくおいしい柿を食べて、そのお肉はいいフルーツの匂い、脂身さえもが、いい匂いなのです。彼らの話を聞きながら、農業に思いをはせます。シェフはりょうださんです。
りょうださんのホームページ http://www.ne.jp/asahi/gohan/gohan/

詳しくは以下から”activity”の欄をクリックしてください。
http://www.l-amusee.com/top.html/

 

 

『SARAVAH 東京』のホームページがオープンしました!
 http://www.saravah.jp/tokyo/