女性のための、元気になれる俳句44 選・如月美樹 一落花琴線を掻き鳴らしたる 後藤比奈夫

(2009.03.30)
 

「昨日の風でもう桜もおしまいね」。こう言う人がいた。彼女は落花の舞い散るさまには興味がなく、「ああ、満開をすぎてしまった」と思うだけなのだという。
 私は、咲き始めよりも満開よりも、はらはらと落ちる桜が一番好きだ。この時期は風も強い。花びらが顔をかすめていくとき、なにか一つの季節が終わったような始まったような、せつなく淡い気持ちになる。掲句のように、たったひとつの落花が、心中の琴線をかきならすことだってあるだろう。
 感じなければ、そのときはないものも同じ。誰にもひとしく同じ時間が訪れるけれど、心象風景は千差万別だ。掲句初出『沙羅紅葉』(2001)。