土屋孝元のお洒落奇譚。 『バルテュス展』を見る。 日本を愛した孤高の天才。

(2014.04.28)
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『美しい日々』のイメージより。©Takayoshi Tsuchiya
20世紀のどの美術運動とも距離を置き
日本を心から愛した孤高の天才。

僕は昔、澁澤龍彦さんがバルテュスの事を書いた文章で関心を持ち、画集を手に入れ絵を見てから好きになりました、今では大好きな画家の一人です。いろいろと好きな画家は多いのですが……。

本名は、バルタザール・クロソフスキー・ド・ローラ(Balthusz Klossowski de Rola)、ポーランドの伯爵の生まれで父は美術史家で画家、母も画家、兄はピエール・クロソフスキー、サドやニーチェの研究家としても知られ、小説家で画家でもありました。僕はこの兄ピエール・クロスフスキーの画集を20年も前にパリで手に入れていたのですが、後になってバルテュスの兄と知りました。少年虐待などのスキャンダラスな場面が描かれていて……、詳しくは作品集を手に入れてご覧ください。

そんな家系に育ったバルテュスは幼い頃からその才能を認められていたといいます。バルテュスの友人 ピカソ曰く「20世紀最後の巨匠」と言ったとか。両親の交遊関係には、画家のボナールやマティス、ニジンスキー、ストラヴィンスキーなど文化人なども多く、両親とともにセザンヌに会うために「サン・ビクトワール山」を訪ねたとか、いろいろな逸話が残ります。

そのバルテュスが11歳の子供の頃に自分と猫との関係の話を描いた『MITSOU』には母の交際相手リルケが序文を書き、その才能を絶賛し認めています。この時リルケは荘子のフランス語訳を勧めたそうです。この『MITSOU』のタイトルからも日本への興味をうかがわせます。

古典に学び
独自の具象絵画の世界を追求。

今回の『バルテュス展』は、東京都美術館の企画展示室のB1F~2Fまで、バルテュスの作品をその初期から晩年まで4つ(1 初期、2 バルテュスの神秘、3 シャシー 4 ローマとロシ二エール)に分けて約100点を紹介しています。この『MITSOU』、古典の模写、『嵐が丘』、『夢見るテレーズ』はB1Fに展示されています。

その『MITSOU』の本の日本語復刻版を 先日 古本屋で偶然見つけて手に入れました、本の中でバルテュス自身が語っていたのですが、40枚ある原画の中の一枚だけを紛失してしまい、後にそれを描き足したのだが 、その一枚だけ今でも気になっていると書いてありました。

ピエロ・デッラ・フランチェスカ、ニコラ・プッサン、ギュスタフ・クールベなどの模写により、構図の構成や古典技法を独学で身につけ、フレスコ、テンペラ、とも違うテクスチャーマチエールを自分なりに研究し、ジャコメッティとの交流では、シュルレアリズムなど20世紀の美術運動にも関心を寄せますが、あくまでも独自の具象絵画の世界を追求しました。

少女と猫、鏡、風景、緊張感のある画面構成。

存命中の東京での個展 1993年から1994年の『東京ステーションギャラリー』での展覧会は素晴らしいもので、僕も見に行きました。篠山紀信さんの撮影によるポートレイトやアトリエ風景、グランシャレーなどの写真は素晴らしく、すぐに写真集を手に入れました。今回の個展でもその時の写真が2Fに展示されています。

篠山紀信さんによる写真とともに、愛蔵品として吉川英治の『宮本武蔵』や浮世絵の本などバルテュスの持ち物として展示されています。岡倉天心の『茶の本』のドイツ語訳も読んでいたということで、今回の展覧会でも幼い頃からの日本美術への関心がうかがえます。

勝新太郎さんや里見浩太朗さんとも交遊があり、着物や浴衣を送られ、そのお返しにリトグラフを贈っていたようで、それらがわかる展示もあります。リチャード・ギアやオードリー・ヘップバーンなども、バルテュスが晩年を過ごしたグラン・シャレーを訪れたともいい、幅広い交友関係があったようです。

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1Fにはアトリエが再現。©Takayoshi Tsuchiya

今回の展覧会ではスイスのグラン・シャレーのアトリエを再現したコーナーがあり(1F)、絵の具や椅子などをアトリエから持ってきたと節子夫人はおっしゃっていました。夫人曰く、床はお任せしたのに私が知っているアトリエが そのままここに再現されていると……。この再現アトリエは世界のどの国よりも日本で最初に展示したかったとも。

展示は初期の作品から未完のものまでわかりやすくまとめてあり、デッサンも多く出品され、特に『嵐ヶ丘』の挿絵集は後の作品を予感させるものが多くありました。あくまでも私感ですが、少女と猫、鏡、風景をモチーフにした緊張感のある画面構成と少女の独特のポーズは不思議な世界観を見る者に感じさせます。

原画を見ないとその色調とマチエールはわかりづらいと思います。カタログでも、その正確な再現は難しいようでした。まだ見たことがないという方は、ぜひ。

『バルテュス展』

会期:2014年4月19日(土)~6月22日(日)
会場:東京都美術館 企画展示室
東京都台東区上野公園8-36
時間:9:30~17:30、金~20:00、入室は閉室の30分前まで
休室:月曜日、5月7日(水)
(ただし4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開室)
問い合わせ:03-5777-8600(ハローダイヤル)
主催:東京都美術館(公益財団法人東京都歴史文化財団)、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
後援 :スイス大使館、フランス大使館
協賛:凸版印刷、三井住友海上
協力:エールフランス航空、スイス インターナショナル エアラインズ、
全日本空輸、日本貨物航空