『影のない女』『アラベッラ』『ばらの騎士』 R.シュトラウスのオペラは、あなたを愛の達人に育てる!

(2010.05.14)

初台の新国立劇場でリヒャルト・シュトラウス作曲の傑作オペラが、2010年5月から2011年4月にかけて3本上演されます。すべて文豪ホフマンスタールによる台本で、愛をモティーフに悩ましさに満ちた世界が広がるの。選り抜きのスタッフ・キャストが創る贅沢空間で陶酔するうち、恋上手になれそうよ。上演順に設定を紹介しましょう。

5月に始まる『影のない女』は人間界と霊界を往還してダイナミックに展開する魔術的ドラマ。霊界の王の娘である皇后は皇帝を守るため、染物師の妻に「影を売ってほしい」と頼むの。激しい葛藤をへて救済に向かう二組のカップルに、心を揺さぶられるわ。演出家ドニ・クリエフは夫と対立する染物師の妻の真情を鍵に、複雑なドラマを読み解きます。18年ぶりの日本上演はユニークな新制作。

10月の『アラベッラ』は、芸術監督・尾高忠明を迎える新シーズン第一弾。19世紀末の頽廃的なウィーン貴族社会を舞台に、性格の異なる姉妹の結婚をめぐる喜劇です。美貌の姉アラベッラを、士官マッテオはじめ多くの男性が熱愛。没落貴族の父が貧しいため、密かにマッテオを慕う妹ズデンカは男装しているの。やがて資産家マンドリカがアラベッラに求婚しますが、ロマンスの糸はもつれ大騒動に。姉妹の二重唱はじめ甘美な調べに、黄昏の帝国を包む陰影が潜みます。時代背景に呼応するアールヌーヴォー風の美術や、森英恵デザインの衣裳が華やか。アラベッラ役ミヒャエラ・カウネの素晴らしいソプラノはヨーロッパでも人気です。

ズデンカの男装は『アラベッラ』のみどころのひとつですが、来年4月の『ばらの騎士』でも性のゆらぎにうっとりしちゃう。元帥夫人の愛人である伯爵オクタヴィアンは関係を隠すため女装。その姿に好色な男爵が惹かれる。男爵と婚約した令嬢にオクタヴィアンは一目惚れ……と波乱続き。オクタヴィアン役の女性歌手の変身など目を楽しませる仕掛けに、耳を喜ばせる声の饗宴が重なるの。名曲ぞろいの中でも終幕の、元帥夫人が若い二人を祝福して身を引く歌が涙を誘うわ。
 

2011年4月に再演される『ばらの騎士』には洗練されたエロスが香る。美しい元帥夫人(右)は’07年に同役で喝采を浴びたカミッラ・ニールント。女性歌手が演じる若い愛人オクタヴィアンは青年伯爵から小間使い、と性を越境。
オクタヴィアンが女装した小間使い(左)に男爵が惹かれる場面で、笑いとスリルが交錯。2点とも、写真は新国立劇場オペラ『ばらの騎士』(2007年)より。

笑いと哀愁が共存する『ばらの騎士』は’07年に同劇場で好評を博したジョナサン・ミラー演出版の再演。時代背景を原作の18世紀ウィーンから、第一次大戦前の不安が流れる1912年に移した脚色にも注目しましょう。

ドイツ後期ロマン派の巨匠R.シュトラウスは機知に富む優雅な作風とともに、ナチス政権時代の活躍も知られています。新国立劇場5階情報センター閲覧室には、この興味深い芸術家の生涯や作品に関する資料も充実。本や映像にふれて舞台を観れば一層おもしろく鑑賞できますよ。

 

 

『影のない女』2010年5月20日〜6月1日まで、5回公演。
指揮:エーリッヒ・ヴェヒター、演出・美術・衣裳・照明:ドニ・クリエフ

『アラベッラ』2010年10月2日〜17日まで、6回公演。
指揮:ウルフ・シルマー、演出・美術・照明:フィリップ・アルロー

『ばらの騎士』2010年4月7日から22日まで、6回公演。
指揮:クリスティアン・アルミンク、演出:ジョナサン・ミラー

*オペラの上演は毎日ではないので、開始時間とともに劇場HPでご確認ください。3本ともドイツ語上演に字幕つき。
問合せ Tel. 03-5351-3011
http://www.nntt.jac.go.jp/opera/20000194_opera.html