Shibuya Tourbillon ~11~ アマチュアだから突きつめた。
辺境だから普遍性を持った。

(2013.10.20)
『第7回青山演劇フェスティバル〜夢みつづける力1993』のために撮影 ©Shoji Ueda office
『第7回青山演劇フェスティバル〜夢みつづける力1993』のために撮影 ©Shoji Ueda office

渋谷の奥「奥渋」=オクシブのギャラリー『アツコバルー arts drinks talk』、ライブハウス『サラヴァ東京』のオーナー アツコ・バルーさんが綴るコラム『シブヤ・トゥルビヨン(Shibuya Tourbillon)』、渋谷つむじ風。今回は出雲と熊野、2大パワースポットに生まれ育った2人の芸術家の話です。

植田正治の道楽カメラ。

「写真の焼き付けを試みたのは中学三年の春であった。台所の押入れにもぐりこんで、教えられたとおり、手札の陶製のバットを二枚並べて、日光焼きのときのような焼き枠に入れたフイルムに印画紙を重ね、数をかぞえながら電球で露光した。このときは、親父にすごい見幕で叱られたのだった。お前は「写真道楽」をやるのか、という。つまり写真は、まだ呑む、打つ、買う、の三道楽につづくお金のかかる道楽、というのが一般の考え方だった時代である。」(『昭和写真・全仕事 series 10 植田正治』(1983年)より)

遅咲きの道楽者。

今年で生誕100年を迎える写真家、植田正治は鳥取県、境港の写真館の主でアマチュア写真家であった。当時、土門拳に代表されるリアリズムが主流で、演出するなんてもってのほか。と思われていたらしい。だから朝日カメラなどに投稿はするが、どうも都会に出てくるのは苦手、海外の写真雑誌を取り寄せて読み漁っては、毎日のように砂丘で近所の子供たちや家族をモデルにして好きなようにやっていた。はじめて写真集を出したのが58歳の時、それから少しずつ認められて七十代で脚光を浴びた。

「道楽」とか「アマチュア」とか、この人を表す言葉ってなんだか不真面目な響きがするのに海外ではアラキやモリヤマと同等に有名で評価が高い。それは道楽でやっていたからとことんやれたのではないのかしら。という視点で今回の展覧会を企画してみた。

「道を解して自ら楽しむ」のが道楽の意味らしい。本業以外の楽しみに耽る意味もある。好きで好きでしょうがないものを持っているだけでとても幸せなこと。その上、妻に仕事を任せ道楽に耽ることができた彼はとても運がいい。仕事としてやっていないから制約もなし、自分の妄想を突き進んで行くのみである。後世に残る仕事をするのは、えてしてこういう我が道を行くタイプの芸術家なのではないでしょうか?  そして神の国、イザナギイザナミの国に生まれそこに居続けた。ということもとても大切な気がする。

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© Shoji Ueda office
植田さんと渋谷の町。

晩年、妻をなくして失意の底にあった父を元気づけようと、アートディレクターだった次男の充がファッション写真を撮らないかと持ちかけた。今回の展覧会で紹介する傑作を数多く作り上げた事務所を構えていた場所は、奇しくもアツコバルーから20mほどの場所にあり、植田が上京すると必ずと言っていいほど訪れていた場所でした。本展は、生誕100年を迎える植田正治へのアツコバルーからのオマージュでもあります。

ab_11_3© Shoji Ueda office
カメラを自分で作ってみよう。

携帯電話やスマフォで簡単に撮れちゃう時代だから手作りのカメラや印画紙に焼くプリントの楽しみを再発見したい、植田さんが楽しんだプロセスを私たちも追いかけてみよう。植田氏のお孫さんである増谷寛さんは祖父に負けない道楽者、エンジニアで器用なものだから何でも手作りしてしまう。彼が開くワークショップでは子供のころ大好きだった工作の時間のように物作りができる。そして、今回の展示でお世話になったフレーム作りのプロフェッショナル、中澤さん。植田正治の写真にぴったりの額を合わせて、美しい設営をしてくださった。中澤さんが、作品とフレームの関係を解き明かしてくれる。

植田正治の道楽カメラ

会期:2013年10月16日(水)~ 11月17日(日)
水〜土 14:00~21:00、日月11:00〜18:00 火休
場所:アツコバルー arts drinks talk
入場料:500円(ワンドリンク付)

●会期中のイベント●
2013年10月21日(月)
クラウス・フィリップ(コンピュータ)+村山政二朗(パーカッション)デュオコンサート
オープン 19:00 、スタート 19:30、2,000円(ワンドリンク付)当日受付

2013年10月28日(月)
トーク:山本純司(編集者)
オープン 18:30 、スタート 19:00 1,500円(ワンドリンク付)当日受付

2013年11月9日(土)17:30〜19:00、中澤孝寛さんのフレームよもやま話 
参加費:1,000円(ワンドリンク付)
申し込みメール ab@l-amusee.com
タイトルに【中澤さんのフレームよもやま話】と入れてください。

2013年11月10(日)15:00 〜 17:00、増谷寛さんの手作りカメラ
参加費:3,500円(ワンドリンク付)
定員: 10 名
申し込みメール ab@l-amusee.com
タイトルに【増谷さんの手作りカメラ】と入れてください。

濱口祐自:熊野に鬼才あり。

ラミュゼの事務所の地下にある『サラヴァ東京』では毎晩ライブ演奏が行われているが、私は5~6時のサウンドチェックの時に下の店をのぞくのが好きである。ドアを開けた瞬間その晩の演奏者の匂いがわかる。というか、よそいきでない音が聴けるからである。この日10月11日金曜日の夕方、ドアを開けた瞬間に聞こえたギターの音に耳をそばだてた。「オッ!この音は?」笹久保伸さん(2012/11/22 サラヴァ東京にてライブ)のサウンドチェックを聴いた時の驚きに近いものを感じた。数秒で心に響く音である。

熊野古道、海、熊楠、そしてギター。

宮古の神歌から高円寺の阿波踊り。日本を駆け巡り才能を見つけてくる久保田麻琴さんが今回我々にプレゼントしてくれたのは熊野の那智勝浦町の漁師にして繊細なるギタリスト濱口祐自さん。大学は東海大の体育学部、足が速いらしい。熊野といえば南方熊楠。19の言語を話したと言われ、博物学、粘菌の研究、エコロジー、熊野古道や神島保護に奔走した稀代の天才。彼も熊楠さんみたいに縄文人的濃い風貌。気のせいか自然信仰のパワーを感じる。でも本人はひょうきんでおしゃべり。語尾に「……のう !」をつける方言は天然そのもの。かなりパワフルな熊野弁のMCで意味がほとんど不明だか同郷の方々が応援に多数来てくれていて彼らは盛り上がっていたのをうらやましいと思った。

『スワニー河』フォスター作。

チューニングがすごい、と音楽の専門家は言っていたが、複雑で魅力的なハーモニーを出すのである。珍しいのは1曲がみんな3分以内、時には2分くらいのもある。普通演奏家は1曲6~8分くらいはやってしまうのだがこれは例外的短さだ。

飽きる前に、「え? もう少し聞かせて。」というところでおしまい。選曲がまたびっくりする。何といっても「スワニー河」ですよ。あの中学校の教科書に出てくる。な、なぜ「スワニー河」なのか? しかもおちょくりや目立ちたがりでもなく直球で『スワニー河』。よい曲だのう。とか言ってる。オリジナルもよい曲が多いのだが、エリック・サティなんかもアレンジして弾く。その選曲のセンスもあまりのユニークで縄文か自然信仰か? とか思ってしまった。


Makoto Kubota presents 濱口祐自 with 甘茶、2013年10月11日 (金) サラヴァ東京

 

豊かな辺境

アートもそうだが、新しい風は辺境より吹く。東京はいろいろなものがありそうで実は画一的になりがちである。都会の暮らしは金がかかり、何とか稼ぐことに夢中になって全員同じ方向を向いたほうが無駄がない。ということになってしまう。そこが都会のリスクだ。濱口さんは水も電気もない掘立小屋に(でも海は目に前に見える)20年間住んでいたそうだ。そんな生活が透けて見えるような豊かで色彩にあふれる音楽に心がすっかり洗われてしまった。

『アツコバルー arts drinks talk』

TEL:03-6427-8048

所在地:東京都渋谷区松濤1-29-1 クロスロードビル 5F

入場料:500円(ワンドリンク 付)