深瀬鋭一郎のあーとdeロハス未来の美術大国? ソウルの
アートスポット案内 ギャラリー編。

(2013.08.13)

アートでも
「勃興するアジア」

筆者が最近めぐった世界20カ国・地域の状況から世界全体を推し量ろうというのは無謀とは思いますが、経験から敢えて言えば、アジアのアートで世界的に注目されてきているのは、まず中国、韓国、そしてインドネシア、タイ、オーストラリア、イン ドなどがそれに続く形でしょうか。最近は中近東諸国の躍進も目覚ましく、アジアの経済規模の世界に占めるウェイト拡大に続いて、遅ればせながらアートについても「勃興するアジア」の状態となったのかもしれません。

例えば、韓国の文化振興予算は、1,169億円(08年度)と、既に日本の1,018億円を実額で上回っているほか、国家予算に占めるウェイトも7倍に上り(出典:TBSラジオ『荒川強啓デイ・キャッチ!』2011年7月7日)、フランスで毎年開催される『JAPAN EXPO』も浸食する勢いです。ビル建築費の1%を修景費用としてパブリックアート設置などに充てなければならない規制があったり、美術品の輸出入関税免除など優遇措置が講じられていることもあって、オフィス街はあたかも彫刻ストリートの様になり、美術品の輸出入も増加しています。

ソウルのアートスポット。

身近な隣国でありながら、韓国の首都ソウルのアート事情については、日本語の纏まった情報資料が殆どありません。単行本もなく、観光ガイドにもほとんど記載がなく、個人ブログや旅行社のウェブに、断片的な情報が載っているのみです。 日本の『月刊ギャラリー』のような『Seoul Art Guide』という雑誌も発行されていますが、ハングルで書いてあり、韓国語が読める人以外には手も足も出ません。こうした中で筆者自身も不自由しましたし、筆者と同じように不自由している方も多いでしょうから、訪問4回の筆者でも判る範囲で、皆さんにソウルのアート名所や廻り方を紹介しましょう。

ウェブサイト『韓国旅行コネスト(KONEST)』で各観光スポットの「地図・アクセス」ページに入ると、日本語表示がある韓国の地図を利用できます。英語の併記に乏しく、基本的には日本語訳はしない韓国では、この地図は大変に重宝です。

ソウルでは、市営地下鉄(ソウルメトロ)が発達しており、ほとんどのアートスポットが地下鉄と徒歩で廻れます。金浦空港や仁川空港に到着したら、空港のコンビニで、電子マネー&交通カード『T-money』カードを購入し、駅やコンビニのチャージ・マシンでチャージして利用すると、割引(ソウルメトロでは1回100ウォン)も効いて便利です。空港と市内を連絡する特急列車『AREX』もこのカードで乗車できます。


オフィス街は彫刻ストリート。韓国最大の製鉄会社POSCOのソウル本部ビル脇の鉄彫刻。

路線バスでは、韓国語と英語の電子音声アナウンスが入りますが、まず韓国語で次のバス停留所と、次の次のバス停留所が連呼され、続いて英語で同じように連呼されます。次のバス停と、次の次のバス停を聞き間違えないように注意して下さい。次の停留所を示す電光表示板にはハングルしか表示されません。運転手の左後ろの天井付近に英語・日本語表記もある路線図が書いてあるので、それを見ながら車内アナウンスに注意して耳を傾けるのがコツです。

タクシーが安いので、時間がない方や、ソウルメトロ+バス+徒歩が面倒くさい方は、タクシーに乗りまくって廻っても、日本円でみるとそれほど多額の出費にはならないと思います。時期を選んでソウルに行くなら、毎年、日本の秋の連休(9月下旬)時に開催される『KIAF(コリア・インターナショナル・アート・フェア)』か、春の連休(5月初)時に開催される『SOAF(ソウル・オープン・アート・フェア)』の開催時期に訪れるのが良いでしょう。


デイビッド・スミス作品(David Roland Smith, 1906年3月9日-1965年5月23日) ソウル江南区大峙洞POSCOビル周辺。

フランク・ステラ作品(Frank Stella, 1936年5月12日-) ソウル江南区大峙洞POSCOビル周辺。
KIAFに注目。

『KIAF』は200軒、『SOAF』は100軒の出展画廊について主な取扱作家を知るチャンスです。『KIAF』開催時には特別企画を組む美術館・ギャラリーも多いため、あちこち廻れる お得感があります。いずれも『COEX』という港南地区のコンベンション・センターで開催されます。地下に『COEXモール』という、ソウルメトロ2号線 三成(サムソン)駅に繋がった、大きなショッピング・モールがあります。レストランも多数、日本語メニューを置く店もあります。1階にカジノが付設されていて、道を挟んで向かいには、韓流スター御用達の店もある高級レストラン街があります。2013年中にソウルメトロ9号線COEX駅が延伸開業し、金浦空港からダイレク ト・アクセスできるようになる予定です。


左:『COEX』で開催される韓国国際アートフェア『KIAF』入口。
右:『KIAF』会場内はこんな感じ。

左:私の家内、深瀬祥子の『SOAF2011』出展作。周囲の大家の作品にはとても敵いません。
右:深瀬祥子の作品のプライマリー画廊。

ソウルには、東京の6割程度に相当する500軒のギャラリー(銀座は800軒と言われます)があり、いくつかのギャラリー街があります。中でも世界遺産にも登録されている観光スポット「景福宮(キョンボックン)」の周辺に集中しています。 多くは、ソウルメトロ3号線「安国(アングッ)」駅(326番)から歩き廻れるか、バスで行ける距離にあり、観て廻るには便利です。

景福宮の東側にある「三清洞(サムチョンドン)」は、韓国現代美術の草分けとなった『アート・ソンジェ・センター』や、『現代(ヒュンダイ)ギャラリー』、大手商業画廊など数十件のギャラリーが洒落たショップ、レストラン、カフェの合間に存在する、ファインアートの基本エリアです。日本で例えれば、銀座と青山を足して2で割ったようなところです。不動産費はかなり高いらしく、大手や大企業系ではない商業ギャラリーは、銀座のギャラリーのように、横道や路地を入った雑居ビルの地下1階や2階にスペースを構えています。よって表通りに面したギャラリー以外も廻ろうとすると、数多くの階段を上り下りしなければなりません。


国現代アートの草分け、アートソンジュセンター。韓国の美大生が群れてます。

現代グループの現代(ヒュンダイ)ギャラリー。草間弥生展などもやってます。

「仁寺洞(インサドン)」は、その三清洞の南端から安国駅が地下にある大通りの交差点をはさんだ向かい側にあります。元来は、韓国の伝統工芸を扱う古美術店や土産物屋が多かったエリアですが、三清洞ギャラリー街に近いこともあって、現代美術や写真、ラテンアメリカ美術専門ギャラリー、団体展専門アートセンター、それぞれのフロアが大規模ギャラリーとなっているビルディングなどが次々に誕生しました。今では、三清洞と比べ「ぐっと身近な」アート街として定着しています。喫茶店も多いので、お茶をしながら様々なアートを探訪できますよ。


「仁寺洞(インサドン)」にはこういう全館ギャラリーのビルがいくつもあり、団体展などが開催されています。

ロッテ、サムソン・アパート前停留所から急な階段を上り路地を進むと「ソウルオークション」の前に出ます。

足を延ばせば、高級住宅とアートの街「平倉洞(ピョンチャンドン)」も巡れます。 ソウルの北の端、景福宮の背後にある北漢山(プッカンサン)のふもとの街です。 ソウルでも指折りの高級住宅街として知られ、住宅街の中に美術館やギャラリーが点在し、都心部とは少し違った静かな空気が流れています。ソウルメトロ3号線「景福宮駅」(327番)の3番出口から1711番のバスで「ロッテ、サムソン・アパート停留所」まで行き下車し、停留所の上に向けて急で段数が多い階段を上がり『ソウルオークション』の脇に出るか、元来た方向に少し戻り、くねった坂道を『ガナアートセンター』方面へ上ります。ギャラリーやカフェ同士はあまり離れておらず、散策のみなら1時間ほどでまわれます。月曜日休館のところが多く、展示物がある期間のみ不定期で開館している場所も少なくないので注意してください。


くねった坂道を上って平倉洞『ガナアートセンタ-』前に出る方法もあります。」

ソウルオークション内部は常時次回オークションのプレビュー中。日本もこうなると良いですね。

韓国では元々かなり地味なアートが中心だったので、色華やかなポップアートや可愛い絵柄、オプティカルに見え方が面白いアートなどが国内人気を博す傾向があります。東南アジアや中南米などのアートも紹介されており、日本より多くのものをコンパクトに見て回れる長所があります。あくまで筆者個人の見方ではありますが、東京より良いです! 紙幅の関係上、今回のコラムでは、美術館や個々のギャラリー、美大・スクールの紹介まで手が回りませんでしたが、是非、情報収集して回ってみて下さいね。


ジェフ・クーンズ(Jeff Koons, 1955年1月21日-)が新世界百貨店の看板を作っていて驚きました。