土屋孝元のお洒落奇譚。『21_21 DESIGN SIGHT 』で
『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』。

(2012.05.25)

映像の記録に釘付け。

同級生が企画した『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』を東京ミッドタウンの『21_21 DESIGN SIGHT 』で見る。東北6県の食と物産をランダムに選び、博物学、解剖学的に紹介する展示です。

中でも映像の記録には見るべきものがありました。

「きりたんぽ」を作るお母さん達の手の細やかさ、ご飯粒を残し過ぎてもいけないし、潰し過ぎてもいけないほど良い塩梅があるのです。「りんご箱」を作る工場の男達の手のひらのシワや釘を打つリズミカルな音、マタタビを割いて束ね籠に編み上げるおじいさんの手仕事の繊細さ。「りんご鋏」を打つ時の音と火の粉の飛び散る様子、雪深い山に入り笹の葉を選ぶおじいさん、その笹の葉を使い「笹巻き」を作るお母さん達の何気ない会話と出来上がった笹団子をおやつに食べる女の子の幸せそうな顔。「会津木綿」の染め工場の染め上がる時の湯気の立つ様子や、染め終えた色とりどりの糸を紡ぎ、木綿生地に機織りする機械の音……。

どの映像にも雪が屋根から落ちる音や隙間風の音、湯を沸かす音、雪の重みできしむ音が自然に入り、リアリティのある映像でした。

以前から興味を持っていたのは秋田の「しょっつる」これは魚醤ですが、なぜか秋田地方にのみ残されているのです。日本全体で見ると大豆や米、麦から作る味噌や醤油に淘汰されてしまいましたが、広く東アジアやタイ、ベトナムには、ナンプラー、ニョクマムという魚醤は残っています。ベトナム料理でも豚肉を叩いて薄く伸ばし、軽く小麦粉をまぶして天ぷらに揚げたものに、ニョクマムベースのつけ汁を合わせる、なんてものもありましたし、タイ料理には、さつま揚げにナンプラーのつけ汁をつけるというものもあります。

秋田のしょっつるは鰰(ハタハタ)に由来し、原材料も塩と鰰です。鰰を食す食文化とも関係があるのでしょうか。鰰を塩と麹、米、野菜で漬け込み発酵させた「いずし」または「はたはたずし」も保存食として優れた食品です。半分腐らせると言いますか、嫌いな人には我慢できない匂いですが、好きな人には何とも言えない良い匂いでしょうね。

八丈島のクサヤも水戸の納豆も滋賀のなれ鮨もみな発酵食品です、匂いさえ克服できれば、この匂いは個人差があると思うのですが美味しく食べることができて栄養的にも優れた食品だと思います。

きりたんぽは、ご飯の粒は細かすぎても、荒すぎてもいけないようです。
道具や保存食などを作り
生活を愉しんできた日本人。

「曲げわっぱ」はお櫃やお弁当箱として有名ですが、お茶をたしなむものにとっては建水(けんすい)に使うので馴染み深いものです。簡単に説明すると、建水とは お点前の所作にて、薄茶、濃茶ともに使用します。柄杓で釜よりお湯をお茶碗に注ぎ、茶筅通しをして茶筅をあらためてから、そのお湯を捨てる器のことです。

これは茶碗が正客より亭主に戻り、次の点前の用意を始める際にも、お湯を釜より柄杓(ひしゃく)にて注ぎ、亭主はお茶の飲み口(残り具合、玉が無かったかとか)を見てお茶はきちんと点てられていたかを確認してから建水に捨てる。これを客の分だけ何回か繰り返し、お終い下さいと声がかかってから最後にお水を水指よりお茶碗に注ぎ、茶筅通しをしてから、その水を建水に捨ててお終いの所作に入ります。

お茶(薄茶の平点前)ではこの曲げわっぱを使うことが一般的なようですね、濃茶の場合、茶碗が楽茶碗などや亭主の趣向や趣味により左張(さはり、銅と真鍮の合金で元は平安時代や鎌倉時代の仏具)を使うこともありますが……。

曲げわっぱは水指として仕立てることもあり、道具の取り合わせによっては、素晴らしいものです。

「笹巻き」や「干し柿」などは、お茶のお菓子としても十分に使えることでしょう。最近、お稽古で頂いた生菓子(おもがし)は笹の葉に包まれたウイロウの様なモノでしたし、虎屋さんの端午の節句の粽もこれに近いものです。

笹巻きは、地方により巻き方にバリエーションがあるようです。

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記憶が定かではないのですが、たしか『ヒガシヤ ギンザ(HIGASHIYA GINZA)』にて干し柿の中心にバタークリームを入れたお菓子も頂いた事があります。これなども干し柿の甘さとバターの風味が口の中で一体となりどんなお茶にも合うものだなと一人越に入りました。味を確かめたい方は『ヒガシヤ ギンザ』にて味をお確かめ下さい。

茶室のしつらえにも十分使える様なアケビ弦の籠など、これも銀座の古美術店『祥雲』にて年代は不詳でしたが見たことがあります。茶花を生けるといっそう引き立ち、囲炉裏の煤で飴色というよりも黒、アンバー系に変色していて現代美術か現代彫刻かと見紛うものでした。

干し柿の自然の甘さには癒されます。

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この展覧会を見て思ったのは、昔から日本人(とくに東北人)は冬の雪の間、本当に丁寧に暮らし、家の中でも道具や保存食などを作り生活を愉しんでいたのだなと言う事です。

これは個人的な意見ですが、幕末に戊辰戦争で、奥羽越列藩同盟 (弘前藩、南部藩、秋田藩、米沢藩、仙台藩、会津藩、庄内藩……)として最後まで抵抗した地域ですので、明治以降に少しだけ他より開発が遅くなり、その結果、各地域の伝統工芸や食文化が守られたのかもしれないと思うのですが、いかがでしょう。

今度の震災でも大変な被害を受けてしまいましたが、復興の意味でも東北各地の知られていない食材やデザイン的にも優れた伝統工芸品、生活用品を世界へ紹介して残していきたいものです。



『テマヒマ展 〈東北の食と住〉』

会期:開催中〜2012年8月26日(日)
会場:21_21 DESIGN SIGHT(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)
   東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン・ガーデン内
問い合わせTEL:03-3475-2121
休館日:火
開館時間:11:00〜20:00(入場は19:30まで)
入場料:一般1,000円、大学生800円、中高生500円、小学生以下無料

主催: 21_21 DESIGN SIGHT、公益財団法人 三宅一生デザイン文化財団
後援:文化庁、経済産業省、青森県、秋田県、岩手県、山形県、宮城県、福島県、東京都、港区
特別協賛:三井不動産株式会社
特別協力: 株式会社 虎屋、株式会社 TOSEI
協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社、マックスレイ株式会社
展覧会ディレクター: 佐藤 卓、深澤直人
企画協力:奥村文絵、川上典李子
映像制作:トム・ヴィンセント、山中 有
写真:西部裕介
学術協力:東北芸術工科大学東北文化研究センター